第4話・ 閑古鳥と『ザコ』なんか嫌だ

 サラが沙絵に訊ねます。

「あの、黒い変なのナニ?」

「閑古鳥の陰気から生まれた『ザコ』……この学校のあちらこちらに、いるから気をつけて」


 サラが黒いザコに肩を揉まれて、落ち込んでいる男子生徒を指眼鏡で見ていると。

 長身で片方の目に海賊がしているような眼帯アイパッチをして、髪をポニーテール髪にした女子生徒が。

 ザコに憑かれている男子生徒に近づいていきました。

 喝が入った言葉を、男子生徒に投げかけます。

「消えろ、ザコが!」

 片目眼帯女子生徒から威嚇されたザコは、静かに男子生徒から離れ去っていきました。

 気持ちが沈んでいた男子生徒から、陰気が消えるのをサラは見ました。


 眼帯女子がサラたちの方に近づいてきて言いました。

「おい、キツネたち黙って見ていないで、少しは陰気払いしろよ……学校に漂ってきた陰気払っているの、オレばかりじゃないか」

 与三郎が言い返します。

「キツネは人間に憑いたザコ陰気には関与しない……『閑古鳥軍団』を追い払うために力を使うのが、玄蕃之丞ファミリーの取り決め。人間のザコは人間の方でやってくれ」

 沙絵がサラに、片目眼帯の女子生徒を紹介しました。

「サラ、彼女は『柿沢みどり子』別クラスの生徒で、唯一あたしたちの正体を知っている人間だよ」

 みどり子が、サラに親しげに微笑みます。

「よろしくな、巫女やっているのは知っている……オレ、子供のころから不思議な力があって、普通の人には見えないモノが見えたり。感じたりするんだ……サラがキツネが化けているなんて口外しないから」


 与三郎が、みどり子の紹介に補足します。

「みどり子は、週末には塩尻の峠に出没して、趣味で山賊やっているんだよな」

 少し照れながら、柿沢みどり子が言いました。

「オレの家系は代々、山賊やっていてな……オレの代で途絶えさせるワケにもいかないから週末で時間が空いた時に続けている、最近やっと山賊の面白さがわかってきた……そろそろ昼休みも終わるな、じゃあな」

 そう言って、みどり子はサラたちの前から去っていきました。

 ザコが抜けた男子生徒が明るい表情でキツネ踊りをしていると、昼休み終了のチャイムが聞こえてきました。


  ◇◇◇◇◇◇


 帰宅時……サラが神社への帰路を歩いていると、後ろから歩いてきていた。柿沢みどり子が小走りにやって来て言いました。

「一緒に帰らないか……途中まで、同じ帰り道だから」

「いいよ」

 サラと並び歩きながら、みどり子は最初に会った時の印象と異なり明るくペラペラとしゃべりはじめます。

「それでな、オレのクラスを担当する北小野先生は、やたらと文学を熱く語る教師でな」

 一通りしゃべった後、神妙な面持ちで、みどり子がサラに訊ねました。

「『閑古鳥』や陰気ザコが、どうして塩尻市に集まるのか。その理由がサラにはわかるか?」

「それは、塩尻にローカルヒーローの活性化パワーが無いから」

「それもある……もう一つの理由は、塩尻が東北南へ交通網で繋がる分岐点の宿場町だからだ」

 みどり子は人指し指から小指までの四本の立てた指を、一つづつ折りながらサラに説明します。


「鉄道を例に説明すると東の関東方面へ繋がる中央本線……北の新潟に向かう篠ノ井線。南の飯田線と、木曽路を通って中京方面へ繋がる中央本線が走っている……物流の分岐点から、陰気を流せば『閑古鳥』の生息域拡大は簡単だからな。最近、賢いリーダー格の閑古鳥が生まれたらしく。とんでもないコトを塩尻市を起点に企んでいるらしい」

「とんでもない企みって?」

「現在、余暇に塩嶺の峠に登って調査中──オレも塩尻は好きだから、閑古鳥軍団の好きにはさせない……話しているうちに、オレの家への分かれ道だ。じゃあなサラ」

「はい、また明日」

 サラとみどり子はY字路で別れました。


 ◇◇◇◇◇◇


 次の日は、サラの学校は休校日でした。

 塩尻市の大通りにある、図書館が併設した施設の机で、サラと一緒に勉強をしている

 紗絵がボソッと、独り言みたいに言いました。

「そういえばホームに、ぶどうの棚がある塩尻駅の東口駅前広場に昔あった親子キツネの石像……いつの間にか、ブドウ畑に囲まれた桔梗ヶ原神社の方に移されていたね……なんでかな?」

 紗絵の独り言をサラは聞き流して、周囲を見回します閑古鳥や陰気ザコの姿はどこにもありませんでした。

 やはり活気がある場所には、閑古鳥は近づいてこないみたいです。


 サラは塩尻市の通りに架かる連絡通路の上から、夏美に言われて指眼鏡で覗いてみた光景を思い出します。

 シャッターが閉まった建物に巣食う『閑古鳥』の群れ、陰気ザコたちも市の通りをフラフラ彷徨いていました。

(人間には見えていないけれど、塩尻市は『閑古鳥』の占拠が進んで大変なコトになっているなぁ)

 サラがそんなコトを考えていると、目の前を、背中に3の英数字がプリントされた、緑色のジャンパーを着た柿沢みどり子が、スゥーと通り過ぎました。


 サラは、みどり子に声をかけます。

「アレ? みどり子さん」

「サラ!? うおっ、見られた」

 みどり子は、恥ずかしそうに顔を赤らめて言いました。

「あまり人に言うなよ……オレがサッカーの試合観に行っていて、ゴール裏でピョンピョン跳ねているコトを……絶対に言うな」

「どうして? 別に人に話しても悪いコトじゃないと思うけれど?」

「どうしてもだ、週末に山賊やっている女子高校生がスタジアムをうろついていたら変だろう……山賊焼きあげるから」


 山賊焼きとは、郷土のソウルフードで独自のニンニク風味の味付けがしてある鶏肉に衣を付けて揚げた名物料理です。

 揚げてあっても『焼き』の呼び方が地域に定着しています。

 サラは、みどり子が差し出した山賊焼きを見て一言。

「食べかけいらない」

 と、言いました。

 紗絵が、人指し指で天を示して。

「ひとつの魂ぃ!」

 と、叫ぶと。サラとみどり子も条件反射のように、人指し指を天に向けて。

「ひとつの魂ぃ!!〔One Sou1〕」

 と、叫んだために他の勉強をしていた学生たちから「シーッ」 と怒られてしまいました。

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