第39話「陸の港町」


「あぁそうだ。秋斗が待ちわびた人が到着したぞ」



エマがニヤニヤと、どこかバカにしているような感じでそう言ってくる。


別に待ちわびているわけではないが、エマの言っている人とは咲のことだろう。


今日到着するというのは聞いていた。



「どこに到着したんですか?」


「なに? 迎えに行くの?」


「まぁ、久しぶりに顔も見たいしね」



今の言葉に、恋愛感情とかそういうのは含まれていない。


幼馴染であり、友達である咲に、一ヶ月ぶりに会うのだから、迎えにいくのは至って普通のことだと思う。


だが、その理論は乙女には通じなかったようで・・・。



「わぁー! 秋斗様素敵ですね!」



この場にいる経済産業大臣のアルトナが、顔を赤くさせて食いついてくる。



「素敵って・・・まぁそういうことにしておく。んで、咲はどこにいるんだ?」


「問屋町の方にいると思うわ」(エマ)


「問屋町? この建物に到着しているものだと思ったけど」


「いやいや、ここは政府機関の建物ですよ?」(アルトナ)


「そういえばそうだったな」



咲は、近日開催される文化展のために首都の高崎までやってきただけで、別に政府関係の官僚でもない。


だから、いま俺たちがいるこの建物には来ないというわけだ。



「んじゃ、問屋町に行けばいいのかな?」


「そうね」


「どうやって行くの?」



一言に問屋町と言われても、俺はこの高崎という首都に土地勘などほぼない。


地図アプリを頼りにすれば、行けなくはなさそうだけど・・・。



「でしたら、私が同行しますよ。ちょうど咲さんにもお会いしたいと思っていましたし」



そう声をあげたのは、アルトナだった。


そういえば、咲に会いたいとか言ってたな。



「わかった。よろしく」



案内してくれると言うので、ここは好意に甘えさせてもらうことにした。



「では準備してきますので、秋斗様は咲さんに迎えに行く旨を伝えておいてください」


「そうだな。わかった」



ってことで、咲に電話しました。



「なに?」


「秋斗だ。なんか疲れてそうな声だな」



電話に出た瞬間、死んだ声がしてびっくりした。



「そう? んで、何の用よ」


「あぁそうそう。咲が高崎に着いたって聞いたから、今から問屋町まで迎えに行こうと思って」


「え、ほんと?」


「おうよ」

「わかった。待ってるね」



そんな感じで、通話が終わった。


そして、タイミングよくアルトナが準備を済ませて戻ってきたので、咲を迎えに、問屋町というところに向かった。


俺はルートとか全く分からないので、ただ黙ってアルトナに着いて行くことにした。


まず、クソ寒い屋外を少し歩いた末、地下鉄の駅に到着する。


それから地下鉄を何本か乗り継いだのち・・・。



「ここが問屋町駅です」



エマが言っていた『問屋町』という名前の駅に到着した。



「相変わらず人が多い・・・」


「そりゃ、ここは陸の港町ですから」


「陸の港町?」


「高崎市外から来る貨物や旅客が集まるところです」


「旅客ターミナル、貨物ターミナルが問屋町にあるってこと?」


「そゆことです。だから、この辺は昔から商業の街として栄えてるんですよ」



確かに、お店などが多い印象だ。


あたりには、ショッピングモールなどの大型商業施設から、商店街を形成する、低密度商業施設など、種類も様々。


まさに、商業の街にふさわしい光景だ。



「なるほどなぁ」


「気に入りましたか?」


「こういうところがあってもいいよね」



そんな話をしつつ、咲が待っているバスターミナルへ向かった。


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