第37話「秘技、笑って誤魔化す」


パソコンのキーボードをカチカチと叩きながら、俺は文化展でする挨拶の原稿を考えていた。


一応エマにも、どんな感じにしたらいいのか聞いてみたのだが。



「私に聞いて、まともな返答が返ってくるとでも思った?」



と、協力する気はこれっぽっちもない模様。



「はぁ・・・どうするかなぁ」


「そんなに悩むことなの?」



一人悩んでいると、それをあざ笑うかのようにエマが話しかけてくる。


こいつ、協力する気はないのに、やたらと絡んでくるの、いい加減に鬱陶しい。



「そういうエマは、文化展で挨拶するんだろ」


「もちろんよ」


「どんな台本を用意するんだよ」


「台本なんていらないわよ。アドリブで十二分」



そうだった。こいつ(エマ)の頭の中に計画性って言葉は存在しないんだった。



「エマはアドリブで良くても、俺は言葉がすらすら出てくる人じゃないんだよ」


「あら、私だって言葉に詰まることはあるわよ」


「そういうとき、どうしてるんだよ」


「秘技、笑って誤魔化す」


「秘技でもなんでもねぇ」


「うるさいわねぇ。そもそも、秋斗に口出しできるのは私と私の家族ぐらいなんだから、もっと貫禄をつけなさい」



さすが貴族社会。



「昨日の今日でできる話じゃないです」


「見栄張るだけでいいのよ。誇り高く、美しい私のように」


「すみません寝言は寝てから言ってください」


「秋斗くん? 仮にも私、乙女なんだけどなぁ?」


「んで、アドリブは嫌なので、どんな感じにスピーチしたらいいか、アドバイスをください」


「無視かよ。んでも、本当に私に聞くのは間違ってると思うよ。頼ってくれたのは素直に嬉しいけどさ」


「あ、エマも頼られたいとか、そういう願望あるわけ?」


「そりゃ、たまにはね。いつも頼ってばかりだから」


「そう思うなら勉強してください」


「今すっごい良い感じの雰囲気だったわよね? 秋斗くんその雰囲気ぶち壊した自覚ある?」


「ありませんし 知りません」


「少しはロマンチストになりなさいよ。モテないわよ?」



ため息と同時に、机に顎を乗っけてそう言う。



「別に、モテたいわけではないのだが」


「え・・・もしかして、秋斗ってもう・・・」


「なにを想像しているのかは知りませんが、そういうのじゃないと思います」



なんかすごい驚いた感じで言われたけど、そんなこと本気で思っているのだろうか。


そりゃ、彼女とか作りたいとは少なからず思うけど、今はこの世界に溶け込むので頭がいっぱいだからなぁ。


はぁ・・・ホームシックというか、故郷の日本が恋しいよ。


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