第32話「お役所なのに、スピーディだ」


新規税目の追加に関する企画書を作成した次の日。


エマにその企画書を提出したところ。



「私に考えるという作業をさせるな」



と、職務放棄をしたので、財務大臣のアーヘンと、国税庁長官のパルマに丸投げ、もとい、細かい調整などをしてもらった。


そして一週間後、『関税』という名前で、エマが印を押し、採決された。


さすがというか、何というか。


立憲君主制で、ほぼエマの独断で採決ができるからか、俺とパルマが電話した日から一週間で採決され、その翌週から、早くも各都市の税務署にその内容が伝わっていた。


お役所なのに、非常にスピーディだ。


さすが独裁(ではありません)。


そして、その関税による予想税収は、おおよそ9000億円から1兆円。


一つの国の収入から見たとき、この1兆円というのは見すぼらしく見えるだろう。


だが、カツカツすぎるカリホルニウム王国の国庫事情からすれば、素晴らしいほどの収入増である。


いやぁ、感動的だ。


んで、次の日。


税収増で予算が増えたため、取り組むべき課題にやっと取り組むことができる。



「地方交付税についてだ」


「懐かしい単語ね」


「いや、まだ数週間と経ってないから」


「ところで秋斗、地方交付税って何かしら」


「ほら、前橋の領主貴族さん・・・えっと、名前忘れたけど、その人がやって来たとき、言ったじゃないですか」


「そういう秋斗も、うっすらのこと忘れてるじゃない」


「ウルスラです(思い出した)。忘れてるのはエマじゃないか」


「どっちでも同じ同じ。というか、忘れてないじゃない」



これはひどい会話だ()。


いろんな意味で酷すぎるこの国の君主様では話が進まないので、とりあえず色んな人を巻き込んでみました。


うん、俺の身分だからできることだけど、すっごい迷惑だよね。わかるよ。


その日のうちに集まってくれたのは、財務省のアーヘン、国税庁のパルマ、リモート参加の前橋の領主貴族、ウルスラ。


あ、あと付属品のエマ。


以上だ。



「今日は急なのに集まってくれてありがとうございます」



とりあえず、適当に感謝の言葉を最初に添えておいて、早速本題に入る。



「まず、地方交付税という制度は、※地区の財政の均等化を目的とした税です。それ専用に国民から徴収するのではなく、国の予算の中からやりくりする感じです。えっと、何か質問があれば・・・」

※地区→日本でいう都道府県のようなもの



「では、私から一ついいですか?」



最初に手を挙げたのは、アーヘンだった。



「どうぞ」


「そもそも、国が地方自治体の面倒を見るメリットってなんですか?」



えぇ・・・。


その次元からの話になるのか。



「えっと、地方自治体同士の格差を少なくし、平等な公共サービスを受けられるようにするため・・・かな?」


「なるほど・・・秋斗様のやりたいことはわかりましたけど、そもそも、地区の財政に国が関与していいものなのでしょうか」


「と、言いますと?」


「国が地方自治体の財政に関与すると、それだけの忖度が生まれてしまうと思うんですよね。特に、この国の制度だとそれが顕著になると思うのですが」



まぁこの国は、貴族社会ですからね。


俺は見て見ぬ振りをしていたけど、エマ宛の荷物に、賄賂が入っているところを何回か見ているわけだし、これがもっと顕著になる可能性は高いよな。



「まぁでも、地方行政の財政難はどうにか解決しないといけない事案だし」


「てめぇのことはてめぇで解決してほしいわね」(エマ)


「でしたら、私に代案があります」



そのタイミングで声をあげたのは、国税庁のパルマだった。


あ、エマの一言は無視されました。


俺はパルマの言葉に「お願い」と頼み、その代案を聞くことに。



「まず、高規格な有料道路や、何らかの交通機関。又は、複合型商業施設などを建設します。その建設費の一部を国が負担し、地区にも一部を負担させます。建設後の運営は地区に任せて、利益をあげる。お金を直接渡すよりも地元民には便利ですし、競争が生まれて経済的にも効果的です」


「あー、そういうのか」



そういえば、地区の財政は、地区の運営している事業で得た利益も予算に計上できる仕組みだったな。


そういう事情なら、新しい事業を始めた方がいいのかもしれないけど。



「地元の企業をライバルにして、結果、民間側がくたばったら(負けたら)どうするんですか?」



俺の疑問を、そのまま代弁してくれたのが、リモート参加の前橋の領主貴族、ウルスラだ。言葉は悪いけどね、言葉は(ここ重要)。


その問いに関して、パルマはめんどくさそうに答える。



「スミスに聞け」



スミスさん説明お願いします。


まぁスミスさんはここにはいないんですけどね。



「えっと、アダム・スミスのこと言ってます?」


「そそ、秋斗様さっすがー!」



わかってくれたのがそんなに嬉しかったのか、さっきまでの表情とは打って変わって満面の笑みだ。



「そのアダム、スイス? って誰かしら」



具体的な話になるといつも存在が空気になるエマが言う。


ってか、この人 人の名前間違えすぎだろ。



「スミスな。経済学者だよ」


「へぇー(棒)。その人に聞けって、どういうこと?」


「まぁスミスの有名な言葉を借りるなら、見えざる手、かな?」


「見えざる手? どっかのネタにされてたわね」


「どこだよそれ」


「忘れたわ。でも、見えざる手って何よ」


「話せば長くなるぞ」


「あ、やっぱやめます(`・ω・´)キリッ」


「そうかそうか、そんなに聞きたいのか」


「秋斗、私の言葉伝わってる?」


「スミマセン、ヨクワカリマセン」

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