第27話「割り勘ってどゆこと」


コーヒーが一杯で16フラン。約400円といったところだろうか。


これがフランスフランの場合は20フランぐらいか?


なんて、そんなことを考えているが、俺の心は心底余裕がない。


と言うのも、目の前には黒髪ロングの超美人お姉様・・・じゃなくて、財務大臣のアーヘンがいるからだ。


普段は公務という建前があるが、今日はそれがない。それ故か今日は必要以上にアーヘンのことを見てしまう。


んで、それで一つ気になったことがある。



「あ、あの」


「何でしょうか?」


「前々から少し気になってはいたのですが、髪の毛邪魔じゃないんですか?」



男がどうこう言うことでは無いと思うが、アーヘンの髪の毛はかなり長めだ。


その割には結ぶとかそういうことをしていないので、純粋に邪魔じゃないのか気になっただけである。



「気になりますか?」


「いえ、そんなことはないですけど」


「本音を言ってしまえば、結んだりするのが苦手なんですよね」


「苦手、ですか」


「結構不器用なんですよ? わたし」


「そ、そうなんですか。でも良いと思いますよ、その髪も」



不器用とは・・・すごいポイント高いじゃなですか! 何がとは言わないけどさ。



「えへへ、本当ですか?」


「は、はい。俺の出身国では、みんな黒い髪でしたからね。そういう意味も含めて」


「そうなんですか」


「この国は、どうもそう言うわけではなさそうですけど」



地下街を歩いている分だと黒い髪の人は割と見かけたが、日本みたいにみんな黒髪というわけではなかった。


茶髪や金髪、そして赤髪も多い印象だ。



「エマ様も赤毛ですものね」


「まぁな」



アニメキャラとかで出てくる赤毛の子は好きだけど、実際見ると「こんなもんか」って感じになってしまう。


まぁ二次元と三次元なんて所詮そんなものですよね。



「はなし変わるけど、このコーヒーはもちろん輸入品だよね?」


「そうですね。こんな気候ですから、コーヒー豆は育ちません」



そりゃ気温二度だからな。


コーヒー豆は日本でも沖縄の南部諸島でしか栽培できないほど南国の植物だったりする。



「海外かな?」


「いえ、南部地域から来ていると思います」


「国内ってことか?」


「そうですね。この街は北部のほうにあるので、距離はありますが」


「んでも、ここより北の都市もあったよね?」


「そうですね。そこら辺はもはや北極圏ですよ」



この国、どんだけ国土広いんだか。



「なら、鉄道建設の目的地になった藤岡はどんな気候なんだ?」


「藤岡ですか。あそこは確か、温暖だと思いますよ」


「緯度的には高崎とそんなに変わらない気がするのだが」



ちなみに高崎は今いるこの街のことだ。



「海から温暖な風が吹いてくるみたいですよ。海風って言うんですかね」


「イギリスみたいな感じか」



イギリスは緯度的には北海道よりも北だけど、海からの風やら海流やらで気候は温暖という有名な話。


そこと似たような感じという認識で良いのかな?


それからもこの国のことを全く知らない俺に、アーヘンは懇切丁寧に色んなことを教えてくれた。


ほんと、どこかの君主様とは違って良い人ですよ。


そんなこんなであっというの間に夜になってしまった。



「疲れましたか?」



地下街を散策していると、アーヘンが唐突に質問してくる。


言われなくともここで「疲れた」なんて言うわけがないが、本音を言えば、カフェを出てから歩きっぱなしなので少し休憩したい気持ちもある。



「アーヘンさんは疲れてないんですか?」


「私は大丈夫ですよ」


「そうですか。でも、今日は色々教えてもらいましたし、どこかでお礼をさせてください」


「お礼ですか?」


「はい。何でもいいですよ。モノでもコトでも」



形に残るような物品などがモノで、遊園地やらの娯楽で何かをすることをコトという。


さすがにエマじゃないんだしこれは伝わるよね。



「そうですね。夜ごはんでも食べましょうか」


「じゃあ、どこにしますか?」


「でも、せっかくのデートなんですから、ここは恋人らしく割り勘にしたいですね」



別に恋人ではない・・・けど、そう言ってくれるのは嬉しい。ほんと、泣きたいぐらい嬉しいけどさ。



割 り 勘 っ て ど ゆ こ と ?



普通、デートなら男が奢るものだと思うけど・・・。



「えっと、一つ質問してもいいですか?」


「はい?」


「この国のカップル達は、会計のとき割り勘するのが普通なんですか?」


「まぁ、それが主流だと思いますが」



マジか、文化の違いでここでもカルチャーショックを受けてしまった。

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