第23話「笑うこともできませんでした」


「単刀直入に言うと、地方交付税の制度を作りたい」



エマのいないエマの仕事部屋で、俺とアーヘンは地方行政への交付金についての話をしていた。


エマがいない理由は単純明快で、


逃 げ た か ら で あ る 。


五分で帰ってこいと言ったが、もうかれこれ十分以上は経っている。


まぁ待っていても仕方がないということで、話し合いを始めたわけだが。



「秋斗様、その前に重大なことが」


「と、言いますと」



ゴクリと、息を飲むような緊迫感。


それと同時に、彼女の顔が物理的にこちらに近づいてくる。


もう少しでお互いの肌が触れ合いそうな距離まで接近すると、彼女は静かに言った。



「この国にそんな予算ありません」



そうでしたね。


いやまぁ、忘れていたわけじゃないけど、まぁそうですよね。



「ってか、なんで顔を近づけたんですか?」


「あ、すみません。嫌でしたか?」


「いや、そういうわけではないけど」



むしろありがとうございます。ものすごくドキドキしました。


そして良い匂いもしました。


これは恐らく、伝説級とも呼び声高い、女の子の髪からするシャンプーの匂いってやつですかね。


思春期の男子には刺激が強すぎますよ。



「今、この部屋には私と秋斗様しかいないんですよ?」


「そ、そうですね」


「excited ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」



この人も英語使うのかよ。



「あ、はい。そうですね」



さすがに今の単語はわかる。中学英語だからね。



「I said something strange. Embarrassing」



あーー、うん。これは分からないね。


分からないって悔しいね。



「すみません。俺英語そこまで得意じゃないので」


「そ、そうでしたか」


「この国って、英語喋れる人多いんですか?」



エマも喋れてたし、どうなのだろうか。



「そうですね。一般教養のある人なら英語は一通り喋れますよ」


「英語以外もか?」


「あぁ、それはエマ様だけですよ」


「そうなんか」


「エマ様は、言語が趣味ですから」


「あの人に趣味あったのか。なんか のうのうと生きてるだけかと思ってた」


「さすがに失礼ですよ」



ですよね。


これに関しては軽く笑って誤魔化すしかないな。



「まぁ私も、エマ様の趣味を知るまでは のうのうと生きてるだけだと思っていましたので」



訂正、笑うこともできませんでした。いろんな意味で。



「少し気になったんですが、アーヘンさんから見たエマって、どんな感じなんですか?」


「そうですね。可愛い妹みたいな・・・あっ、これエマ様には内緒ですよ?」


「妹・・・ということは、アーヘンさんはおいくつで」


「女性に年齢を聞くのはどうかと思いますけど」


「あ、すみません」


「でも、秋斗様になら、特別に教えてもいいですよ?」



どうして彼女はこうも、好感度を上げるような言い方をするのだろうか。


あれか? これがカリホルニウム式の媚売りってやつなのか?


まぁありえるよな。だって俺の方が身分が高いんだもん。そりゃそうだ。


んでも、だとしたら俺、媚売りされたとき すげぇ弱くなるぞ。



「んふふ、顔が赤いですよ」


「まぁ・・・そうですね」


「私は二十五歳ですよ」


「な、なるほど」


「秋斗様は何歳なんですか?」


「俺は、十七歳です」


「え、そうなんですか。ってきり、二十歳以上だと思っていましたよ」



なんかそれ、エマにも言われた気がする。


俺ってそんなに老けてるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る