第17話 相席
さてと、先輩は何処かしら。いい場所がとれたと連絡があったけど。
「あ、友香ちゃん、こっちこっち」
「あっ、先輩。探しまし――えっ。たっく――じゃなかった西園寺課長!」
「綾瀬さん。その格好、どうしたの」
何と先輩はあろうことか、彼と相田さんの席に同席していた。何を考えているのだろうか。既に尾行ではなくなってしまっている。
「西園寺課長ぅ、この方どなたですかぁ?」
この女、私のたっくんに甘えた声出しやがって。
「何言ってるんですか? 同じ会社の綾瀬さんじゃないですか」
「ええー。綾瀬さん! どうされたんですか! いつ整形されたんですか?」
こいつ、失礼な子ね。本人を目の前にして聞くことかしら。
「ほほほ、何のことかしら、何もしてませんことよ」
「友香ちゃん、整形を疑われても仕方ないわよ。私ですら別人だと思ったくらいだもの。西園寺課長、よく分かりましたね」
「えっ、ああ。同じ課で働く部下ですからね。当然ですよ。ははは」
先輩の指摘に彼が慌てている。私は直ぐに気がついてくれて嬉しかったけどね。
同じ席であれば牽制も出来るから大丈夫ね。たっくんの正面に座る。隣に相田さんが座っているのがムカつくが、ここは仕方がない。相田さんは悪くない、関係を内緒にしている私達が悪いのだから。
「相田さんは広報課でしたよね。今はどんな仕事されてるんですか」
たっくんはやはりたっくんだった。仕事人間らしく、会話が仕事のことばかりだ。
「課長はお休みの日は何をされてるんですか」
対する相田さんは、プライベイトな事しか聞かない。
ちょっと、彼の腕を取らない。たっくんも引き剥がしなさい。
「綾瀬さんは会計課のお仕事はいかがですか」
たっくんから今の課の仕事についての質問が飛んできた。
「まだ、覚えることばかりで大変ですけど、課長がしっかりと教えてくれるので、安心してます。明日からも宜しくお願いします」
「そうですか。よかったです。それにしても、今日はとてもお綺麗ですね」
「そ、そうですか。嬉しいです」
相田さんがムッとした顔をしている。ふふ。いいでしょ。
「課長、課長はお付き合いしている人いらっしゃるんですか?」
食事とお酒が運ばれてきて暫くするといきなり先輩がぶっこんだ。
ナイスよ、先輩。絶好球をたっくんに投げてくれた。さあ、たっくん。決めてください。
「いえ、おりせんよ」
こらーーー。そこは「はい、います」でいいところでしょ。これは帰ってからお話合いが必要な案件ね。いくら会社で私達の交際は内緒にしようと決めていても、彼女の有無くらいは言ってもいいと思うの。
ほらあ。相田さんがハンターの目になっているじゃないの。
「課長、お酒飲まれないんですか?」
「ええ。私はお酒はたしなみません」
そうなのよね。私がいくら晩酌に誘ってもあの日以来お酒飲まなくなっちゃたのよね。律儀に守っているんだからすごい人よね。私なんてしょっちゅう飲んでるのに。でも外では私も一切飲まなくなったのよ。
「相田さんは――」
「莉子って呼んでください」
この子、本当に露骨にアピールして。でも無駄よ。たっくんの守りは鉄壁よ。
「すみませんが僕は会社の女性は名前では絶対に呼びません。相田さんと呼ばせて頂きます」
ね。何の拘りなのか知らないけど、そういう事らしい。流石、堅物。水川先輩の顔が死んでいる。
「会社ではそれでいいんで、今だけ。今だけお願いします」
おー。相田さんもめげないですね。なかなかぐいぐい行きますね。二人の様子を眺めながらノンアルコールカクテルを流し込む。
「お断りいたします」
ピシャっとシャットダウン。おおっと相田選手ノックダウンだ――っていけない実況中継始めるくらい部外者になってたわ。
「ちょい、ちょい。ちょっとこっち来なさい」
先輩に呼ばれてちょっと席を外す。
「ねえねえ、友香ちゃん。これ心配いらなくない。私にはあの人の何処が良いのか、まーーーーーーったく理解できないけど、何の進展も起きないと思うわよ」
「ですよね。私もそれは分かってはいるんですけど、私と相田さんを比べるとどうしても心配になって」
「嫌味な子ね。鏡を見て言葉をはきなさい。十分勝負できる容姿じゃないのよ」
そんな。私なんて相田さんの足元に及ばないのに。
「私はもう面倒だから帰るわよ」
「うえぇ。待ってくださいよ。3人になったら私、空気じゃないですか」
先程からあの二人が会話をしていて、私と水川先輩は黙って食べているだけなのだ。食べるしかする事が無いから、どんどん食べてしまって太りそうだ。
「じゃあ、一緒に帰る?」
「うっ。あの二人を二人っきりにしたくはないです」
「だったら気張りなさい。いつまでも私を頼らない。自力で戦いなさい」
「ふぁい。頑張ります。今日はありがとうございました」
「後で金額教えて。友香ちゃんに送金するから」
「いいですよ。今日は私の頼みで付き合ってくれたので、私が出します」
「そう。じゃあごちそうになるわ。それじゃあ、またね」
水川先輩が帰られてしまった。ここからは自分の力だけで戦わないといけない。
頑張るわよ。相田さん、負けないんだからね。
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