第10話 デート
彼から一緒に帰ろうと連絡をもらった私は、駅から少し離れた所にあるコンビニの駐車場で彼を待っていた。
ブロロロ。
古めかしい自動車の排気音が聞こえてきた。彼の乗る黄色のフィアットがコンビニの駐車場に停まった。某怪盗の3世が乗る車と同じ型式の可愛らしい車。かなりの年代もののため、エアコンもついていなければ、パワーウィンドもない。窓は手動での開閉しないといけない。確かに今の最新式の車に比べたら、不便な点が多い。
でも、私はこの車が嫌いではないの。古いけど、どこか味があって硬いシートも乗っていて楽しい。
ミッション車を運転のできない私はいつも助手席に座るけど、狭い車内は彼と密着できるし、真剣に運転している彼の横顔を眺めるのも大好きな時間。
それでも、夏の昼間と冬には絶対に乗らないけどね。今日みたいな気候の穏やかな時期であれば乗っても死ぬことはないから大丈夫。
「ごめん、お待たせ」
「いいよ、ナビ付いてないもんね。でも急にどうしたの?」
「今日から一緒の部署で働くことになったからね。ちょっとしたお祝いでもしようかと思って。あのお店予約しておいたよ」
「ほんと! あそこに行くの久々ね。あのお店の料理素朴なんだけど、美味しいのよね」
「ちょっと遠いけどね」
彼が予約してくれたお店は郊外にある山の中腹にある。ここからは車で1時間
くらいかかるから、結構距離がある。湖の畔にあり、周りには何もない静かな所だ。にもかかわらず、お客さんは結構いる。私達のように一度行けば、常連になってしまう程、料理が美味しいのだ。
最近行ってなかったので実に半年ぶりくらいに行くのではないかな。楽しみね。
「7時に予約したから、早く行かないと」
彼が急かしてくるので、急いでいつもの助手席に乗り込む。
「シートベルト、よし。後方よし。左右よし。出発します」
ふふふ。安全確認とか、声に出してする人いないよ。多分。彼のかわいい所だ。かわいい所と言えば、彼は内緒にしているけど私は知っている。この車に名前をつけて可愛がっている事を。洗車中に名前を呼んでいたのを聞いたときは吹き出すかと思ってしまった。彼のために知らないフリをしているけどね。
愛車に名前を付けてるなんて、かわいいでしょ。
「友香ちゃん、今日は仕事中に怒ってごめんね」
食事に向かう途中に彼が誤ってきた。あれは完全に私が悪いんだけどな。
「嫌だった訳じゃないんだよ。その逆でびっくりしたんだ」
「仕事中にごめんね。職場で一緒に仕事できるだなんて思ってなかったから嬉しくなっちゃって」
「僕も嬉しいよ。でも仕事中はやめようね。僕たちの職場は一つのミスで会社に与える損害が目に見える形で出てしまうから」
確かに振込先を間違ったり、金額に0を一つ多く付けてしまったりしたら目も当てられない。
「課長、ごめんなさい」
「もう、真剣に言ってるんだよ。プライベイトで課長はやめてよ」
「ごめん。分かってます。明日からは気をつけます」
彼の運転は安心できる。パパの外車は高級車だけど、スピードが出るので、運転がとても粗い。彼のフィアットちゃんは外車だけど、馬力が無いのでゆっくりだ。彼も絶対に法定速度を超えることは無いし、教習生かと言いたくなるくらい丁寧に運転する。私が教官なら今日も花丸をあげますよ。
彼はこのフィアットを名前をつけるくらい、とても大切にしている。亡くなったお爺さんから貰ったらしい。子供の頃からこれに乗ってドライブに行くのが好きだったらしい。
その影響からか彼は某怪盗3世のアニメが好きで、毎年夏にあるテレビ放送を楽しそうに見ている。私はその横で巨乳のヒロインが出てきたときの彼の反応をチェックしている。
今の所、巨乳好きという証拠は見つけれていないが、怪しんではいる。そのうち絶対発見してみせるわ。
私? 私は普通とだけ言っておきましょう。小さくは無いわよ。無いったら無いわよ。
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