第7話 お姉ちゃん
さんざん悩んだ挙げ句、取り敢えずお姉ちゃんとご飯を食べて、実家に泊まって貰えないか交渉してみる事にした。
たっくんに女友達とご飯に行くから、今日は晩御飯いらない旨のLINEを送っておいた。
17時1分にかわいい犬のスタンプでOKの返事が返ってきた。こういったかわいい面を皆に見せられたらいいと思うんだけどね。
お姉ちゃんにも後15分程で業務が終わる旨の連絡をして、仕事を片付ける。あと日報を書いたら終わりという所で、部長に声をかけられた。
「綾瀬さん、悪いんだけどこの仕事頼めないかな」
渡されたのは明日の朝ある営業部会議の資料作成だった。1時間程度で出来る資料ではない。
何でこんな時間に渡すのよ。もう。
お姉ちゃんに2時間くらい遅れると連絡を入れると直ぐに電話がかかってきた。
「友香ちゃん、急にどうして?」
「急な仕事を頼まれちゃって。なるべく早く終わらせるから。ごめんね」
「ううん。いいのよ。じゃあ待ってるね」
おかしい。あのお姉ちゃんがあっさり納得するなんてあり得ない。
すると部長が部屋から飛び出してきた。ひどく焦っているように見える。
「綾瀬さん、忙しかったなら言ってくれたらよかったのに。さっきの仕事はやっぱり私がするからいいよ。早く飲みに行って。いや行ってください」
私は部長の様子から全てを悟ってしまった。あの暴君が権力を振りかざしたのだと……。
「お姉ちゃん、部長に何を言ったの!」
お姉ちゃんを見つけるなり襟を掴んで問い質す。
「なによ~。変な事は言ってないわよ。綾瀬さんと飲みに行くのを邪魔しているのは貴方ですかって聞いただけよ」
言ってるじゃないのよ。ああ、明日部長になんて言えばいいの。
「大丈夫よ。綾瀬さんは幼馴染だって言っておいたから」
私が頭を押さえて悶えていたら、お姉ちゃんからフォローがあった。それなら、ぎりぎり大丈夫か。
「明日には向こうに戻らないといけないからね。どうしても今日は一緒に居たかったのよね」
「お姉ちゃん……」
「さあ、飲みにいくわよー」
お姉ちゃんが私を腕を掴んで引きずる様に引っ張っていく。待って、待って、引きずらないで、ヒールが折れるから。
強引なお姉ちゃんに連れられてやってきたのは、有名な居酒屋さん。ビール1杯280円。安い。美味しいからいいんだけどね
「さあ、今日は私が奢るから好きなだけ食べてね」
奢りならもう少し良いところに連れってください。私はお姉ちゃんと違って、一般社員と同じ給料しか頂いていないんですから。役員報酬をもらっているお姉ちゃんとは違うんですよ。
一般採用の私の給料なんて、もし一人暮らしだったら、食費、家賃、光熱費、携帯料金を払ったら、殆ど残らない。たっくんと暮らしてるから貯蓄ができているだけなんだからね。外食なんて久しぶりなんだから。
「お姉ちゃん、私、お酒はちょっと……」
「なぁに。私のお酒は飲めないってぇ言うの?」
「私がお酒弱いの知ってるでしょ」
どれだけ私がお酒で失敗してきたことか。そのお蔭で彼と知り合えたんだけどね。はずかしい失敗を数多くしてきた今は、外でお酒は飲まない様にしている。
「ふふ。冗談よ。友香ちゃんが元気そうでよかった」
「もう私は大丈夫よ。お姉ちゃん。それでね、今晩なんだけど、実家の方に泊まってくれない」
「何でよ。あの家、今誰もいないから寂しいじゃないの」
「急だったから、部屋が汚くて、お姉ちゃんでも入って欲しくないのよ」
「何よ、ホントは男と一緒に住んでんじゃないの?」
ギクッ。
「そ、そんな訳ないじゃない。私が男の人と一緒に住めると思うの?」
「ふーん。本当かな~。あやしいな~」
う、お姉ちゃんのうざ絡みが始まってしまった。
「本当よ。ね、お願い。前もって言ってくれたら次は泊めてあげるから。ね」
「もう、仕方ないわね。今日はホテルに泊まることにするわ」
お姉ちゃんがホテルに泊まってくれることになったので、心配事が無くなった私は居酒屋のメニューを片っ端から食べまくった。
「いっぱい食べたわね~。太ったら、彼に嫌われるわよ」
「彼はそれくらいじゃ嫌わないわよ。ラブラブだもの」
「へ~、ラブラブなんだ。一体どなたと?」
し、しまった。お姉ちゃんに嵌められた。お腹いっぱいで油断して、うっかり喋ってしまった。
「ねぇねぇ、一体どなたとラブラブなの」
こうなった姉は絶対に引き下がらないのは分かっている。抵抗するだけ無駄だ。潔く話してしまうしかないわ。
「ほえ~、友香ちゃん、あの堅物と付き合ってたんだ。凄いわね」
お姉ちゃんから褒められてしまった。いやーそれほどでも。褒められたのか?
「でも、お父さんとの約束はいいの?」
そう、それなんです。
「お姉ちゃん、お願い。パパには黙ってて」
パパに話されると困るわ。面倒な事になってしまう。
「別に黙ってるのは良いんだけど、素直に話したらどう?」
言える訳ないじゃない。パパとたっくんの戦争が始まってしまう。どっちも引かない人達なんだから。
「心配し過ぎだと思うけどね。まあ、今は黙って見守ってあげるわよ。早めに覚悟を決めなさいよね」
「ふぁい」
お姉ちゃんと別れ、彼の待つ家に帰る。お姉ちゃんの言うとおり、覚悟を決めて彼に話さないといけない。たっくん、もう少し時間を頂戴。必ず話すからね。
そろそろ彼氏が出来てるかと思って鎌をかけてみたけど、まさか西園寺君と付き合ってるとはね。友香ちゃん、よくあんな堅物と付き合えるわね。私だったら秒で殴ってるわ。
でも、考えようによっては面白いわね。良い事を思いついたわ。パパに電話しないとね。
友香ちゃん、楽しみにしててね。
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