第5話 諦めが肝心

 取り敢えず、相田さんのことはおいておきましょう。

 彼は簡単には落とせないでしょう。彼女(私)がいるのに、他の女の子と関係が持てるような人じゃない。

 彼女を好きになりそうなら、きちんと言ってくるでしょう。その時にぶん殴ってでも目を覚まさせればいいわ。


 それよりも由々しき事態は朝言ったにも関わらず、全く良くならないあの目つきと口調ね。

 これは言っても治らないのなら、社内に彼の事を分かってくれる味方を増やせば良いのではないか。但し、私が表に出ない様に。


 無理ね。

 

 諦めましょう。今すぐには無理だ。長期的に頑張りましょう。さあ、お給料を貰ってるんだから、仕事を優先しないと。仕事中に考えることじゃなかったわ。


 定時の17時まで後3時間しかない。しかも16時以降の書類は会計課は受け取ってくれない。16時以降は部屋に鍵をかける徹底ぶりだ。

 彼は自分は当然だが、部下にも残業はさせない。定時までに終わるようにきちんと全員の業務管理をしている。

 だから、16時までに急ぎの支払い関係の書類を作って持っていかないといけない。


 なのに、我が営業部の職員はというと。

「そろそろ、3時か。一服しに行こうぜ」

「そうだな。眠くなってきてたところだったんだよ」

「お前、今、完全に寝てたじゃん」

「バレたか。ははは」


 この調子である。

 営業部は会社の花形であるため、少々サボっていても怒られないと思っているのだ。

 それで、定時過ぎたらきちんと残業代を請求してくるのだ。

 はっきり言って舐め腐っている。どうせ俺たちが稼いでいる金だからいいだろとか思ってるのだ。というか言っているのを聞いたこともある。

 会社のお金を何だと思っているんだ。


 あなた達が嫌っているたっくんが頑張って経費を削減させても、この人たちがそれを無駄にするのが同仕様もなく許せない。


 たっくんは銀行員の頃はあんな目をして無かったのよ。あなた達がしっかりして無いから、自分を殺して会社ではあんな目つきをするようになってしまったんだから。


「水川先輩、何でうちの部の人間はこんなに緩んでるんですかね」

「営業部の仕事は定時以降だと思ってるからね。夜の接待ね」

「昔はそうだったかもしれませんけど、今はそんな時代じゃないと思います」

「そうね。今はネットがあるから全国の業者に注文したり、売ったり出来るもんね。昔みたいに接待が必要ということも無くなって来ているわね」

「16時までに後1時間しかないのに」

「サボったあいつ等は間に合わなくて泣きを見ればいいのよ。私達はしっかりと仕上げましょう」

「はい」

 やっぱり先輩はいい人だ。先輩だったら彼と私の事を知っても味方してくれるかしら。

「あの悪魔には怒られたく無いからね」

 はあ。やっぱり話すのは無理ね。


 ちなみに我が社は自動車部品を自動車メーカーに売る商社です。下請けの会社に部品を作って貰い販売しています。

 当然ですが国外のメーカーにも販売しているので、国外にも支社があります。


「ゆ~かちゃん。みーつけた」

 私を突然抱きしめる人物が現れた。

「お、お姉ゃん。何でここに――」

「友香ちゃんの様子を見に帰ってきちゃいました」

 突然、ヨーロッパ支社の支社長をしている姉が帰ってきた。

 なんと、姉はこの会社で結構偉い人なんです。

 姉どころか父がこの会社の社長なんですけどね。内緒ですよ。彼にも話してないんですから。

 そのため、私の両親は結構海外に行っている事が多く、今も長期で海外に行っているので完全に油断していたのです。


「お姉ちゃん、ここ会社だから不味いって。私は綾瀬として採用して貰ってるんだから」

「そうだった。そうだった。ごめんね。じゃあ終わったら連絡頂戴ね。今晩泊めて貰うから」

 爆弾発言をして去っていった。

 な、なんですって。不味いことになったわ。私の家は人を泊められる状況じゃない。


 ど、どうしましょう。

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