第4話 ちょっとピンチ?
翌朝、彼と一緒に家をでる。私は電車、彼は車。マンションを出る所まで一緒に行くだけだ。
「たっくん。目だよ。目に気を付けてね」
「うん。分かったよ。なるべく注意する」
一緒に行けば良いじゃないかと思う人も多いと思うが、私たちの関係は内緒にしているのだ。ばれて何が困ると言う訳では無いのだが、彼の仕事がら、特定の人と仲良くしているのを知られたくないと言うのと、私にも事情があって、交際の事は会社に知られたくないのだ。
会社に着くなり、びっくりした。広報課の相田さんを彼が叱っていたのだ。しかも、あれだけ注意したのに、全く変わっていない。
私は遠くからだが、自分の目を指さしてサインを送るが、全然気づいて貰えない。
広報課は営業部と同じフロアに職場があるので、比較的仲がいい部署だ。美人揃いの部署なので、営業部の男性陣からは誰のスタイルが良いとか、誰と付き合いたいとかよく聞こえてくる。
その中に、私の名前がでることは無い。別にいいけどね。私は「ザ・普通」の女だからね。
その広報課へ乗り込んできて、注意をしているのだ。目立って仕様がない。相田さんはまたも泣きそうになっているではないか。彼女は広報課のアイドルだ。彼女を泣かせたら、彼が刺されるかもしれない。これは、相田さんを助けないといけない。
「だから、君は何度言ったら分かるんだ。支払の請求は前々日までに持ってくるように言っているだろ。当日の朝に持って来られると困るんだ。先方に言って振込指定日を伸ばして貰ってくれ」
「でも、課長、ネットで調べたら、当日でも振込は可能って書いてました」
「そんな事は知っています。手数料が違うんですよ。当日振込だと770円、2日前に事前登録しておけば、52円で済むんですよ。これを1日に300件の振込処理をしているんだから、全員が当日に振込依頼をしてきたら1日で20万円以上変わってくるんですよ。たかが1件だけでも前例を認めてしまえば、「あの時は振り込んでくれました」とか言ってくるでしょ。特にあなたの様な人は。社内規則で決められているんだから、最低限ルールは守ってください」
「まあ、まあ、まあ。西園寺課長、そう熱くならないで。これでも飲んで落ち着いてください」
私は自分用に買っていたペットボトルのお茶を彼に手渡す。
「この会社は、営業部と付き合いが長いので、振込日の延期のお願いをしておきますので、どうか今日の所はお引きとりください。ね。お願いします」
「ゆ、綾瀬さんがそう言うのであれば、今日の所は引き下がりましょう。では改めて振込日を変更したうえで、ご提出くださいね」
そう言い残して、課長は去って行った。
もう、朝、私が言ったこと全然守れてないじゃないの。
「綾瀬さん、助けてくれてありがとうございます」
別に相田さんを助けた訳じゃないんだけどね。
「ううん。私も昨日、叱られたばかりだからね。ははは。気にしないで。この会社に連絡するからコピー貰ってもいい?」
「いえ、連絡は私からきちんとしますので、大丈夫です。先輩、ありがとうございました」
相田さん、いい子じゃないの。それに、よく西園寺課長にくってかかったわね。度胸もあるのね。可愛い上に度胸もあって、いい子。そりゃあモテるわ。
と、油断をしていると事件は昼休みの女子トイレで起こったのだ。
「ねえねえ。莉子」
「なぁに、あこちゃん」
「朝、西園寺課長ともめてたって本当?」
「そうよ」
個室でお花つみをしていたら気になるお話が聞こえてまいりました。
「莉子、まだあの課長狙ってるのね」
「当然よ、早川くんと違ってライバルいないし、もう既に課長だしね。狙い目でしょう」
な、なんですと……。
「あんたの泣き落としで落ちなかった男いないもんね」
「そうね。彼も何時まで持つかしらね。でも、今朝は邪魔が入っちゃって……」
「ああ、劣化、綾瀬はるかね。そこは見たわ」
私の事っすか。良いですけどね。何て呼ばれてもね。
相田さんはまさかの彼、狙いっすか。ライバル登場ですか。そうですか。
でも、彼女に彼をどうこう出来るとは思えないけどね。付き合ってる私でも持て余してるんだから。
それよりも。
どうでもいいから、早く行ってくれないかしら。何時までもここから出られないんですけど。
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