第55話 嫁改造計画2
程よい霊を捕獲することにしたアレックスたちは、魔界から人間界に場所を移した。
空を見上げると、空いっぱいに星がきらめていた。手を伸ばせば、掴めそうなくらい輝いている。
宵闇の森からずっと、空が見えない状態だったので、久しぶりの解放感に満たされた。
しかし、それはアレックスだけだった。
「アレク〜?ここ何?」
ネフィが、周りをキョロキョロして訝しがっている。
眉間に皺を寄せ、不安そうな表情をしていた。
それもそのはず、現在の時刻はたまたまだったが、丑三つ時だった。幽霊が一番活動しやすい時間だった。
アレックスの目には、幽霊がひしめき合ってるのが見えているが、見えないネフィたちは感覚的にゾワゾワしているのだ。
腕をさすって、鳥肌をおさめようと努めるネフィだった。
「あー、今ネフィの周り、囲まれてるから少しひんやりしてるんだろう?
そいつらは、無害だから気にしなくていい。」
「ひぃぃっ!囲まれてるの!?わたし!
浄化魔法ぶっ放していい??」
「「ダメだ(だろ!?)。」
冷静に言ったのは、アレックス。
驚き、食い気味にツッコんだのは、ヴェルディエントだ。
「今から、ラムたんさんに入れる気立てのいい娘さんを探すんだ。
減らすな。」
ヴェルディエントも横でウンウンと高速で、頷く。
手には魔石を大事そうに持っている。
この魔石を核にして、浮遊霊を入れる予定だ。
「悪霊もいるにはいるが、襲ってくるようなら俺が単発で浄化する。ネフィは手を出すなよ。俺から離れなければ、取り憑かれることはない、大丈夫だ。」
アレックスが、左手を掲げると指に2、3個青白い光がくっついていた。
あらかじめ祝詞を寿ぎ浄化の炎を出し、指先に分散させた。そして、魔力を微量に流し続けることで、炎を維持しているのだ。
「あ゛〜...。別に、怖くはないが、本当に寒いな。
ところで、ここはどこなんだ?とっておきの場所ってここなのか?」
魔界のヴェルディエントの部屋にて、アレックスがちょうど良さそうなとっておきの場所があると言ったので、転移魔法をヴェルディエントが行使して、ココにやってきたのだ。
ヴェルディエントは、地図を見れば大体のところにとべるらしく、人間界の地図を広げ、アレックスがトンっと指し示した場所に瞬間移動したのだ。
「そうだ。とにかく、ヴェルディエントの威圧が厄介だろう?街中だったら、赤子が死んじまう。
周りに人がいなくて、幽霊がおおいところって事で、ここにした。」
アレックスたちの眼前には、海があった。
ざばーんっ、ざばーんっと波が押し寄せ、水飛沫が地面に落ちる。
周りは、荒地で民家もない。
ちょっと離れたところには、森がみえる、防風林のようだ。
「ほら、火サスの定番だろ。こう言うところから自殺するのは。」
「違うよ!こういう崖は、自殺じゃなくて、犯人が追い込まれるところだよ!」
ここは、サスペンスの定番、日本の東尋坊みたいなところだった。
海側に迫り出した崖が目の前にある。そこから、海を覗き込むと、ゴツゴツした岩が海からたくさん顔をだしているのが見える。
海に真っ逆さまに落ちれば、岩に当たり死ぬ。
しかし、岩に当たらず、海に落ち生き延びるようなら、神に生きろと言われているのではないかと語られている。
この世界の自殺の名所のひとつだ。
「あれ?そうだったか?」
「そうだよ!船越英○郎が、『馬鹿なことはやめなさいっ!』って説得するんだよ!」
追い込まれた犯人が『来ないでっ!来たらここから飛び降りてやるんだからっ!あの人がいない世界なんて未練なんかないんだからっ!』と叫ぶシチュエーションが頭に浮かんだ。
「あー、そうだった。
そっかぁ...、18年も経てば記憶もところどころ混ざるな。
まぁ、大丈夫だ。この崖は、正真正銘自殺の名所だからな。」
「街中の方が、うっかり天然さん幽霊を見つけやすいんだが、コレばっかりは仕方ないだろう?威圧で迷惑かけちまう。
ここは陰気な霊が多いけど、数打ちゃ、気立てのいい娘さんに当たるかと思ってな。
いまから、霊と会話するからついてきてくれ。」
アレックスが歩き出したので、二人は後ろについて歩く。
歩きながら、たまにアレックスが手を動かすと人型に青い炎が広がる時が何度かあった。
どうやら、悪霊がいたみたいだ。
「うーん、この子はどうかな?お嬢ちゃん。こんにちは。」
アレックスが、一人の霊の前で止まった。
すっと、しゃがみ込んで話しかける。
「どうして死んじゃったの?何が未練でここにいるの?」
ネフィたちから見たら、何もない空間に話しかけるアレックスだが、アレックスの顔がすごく痛ましげでそこにちゃんと何かがいることがわかる。
しばらく相槌を打っていたアレックスだったが、話終わったみたいで立ち上がった。
「ヴェルディエントは、ロリコン趣味はあるかな?」
「はぁ?」
「すっごく可愛い、擦れてない8歳の女の子がいるんだが。
親が、借金まみれで無理心中させられちゃったんだってよ。
もっと、生きて遊びたかったらしい。
だが、この子にすると、毎回、遊んであげないといけない。
後は、懸念事項として、霊体は、精神があんまり成長しないから、多分一生子供っぽい。
ラムたんさんとしては、いささか幼いが。どうする?」
「ロリコンではないな....。どちらかと言うと、幼いのはちょっとな....。
遊びまくるのも、ちょっと想像できない。それこそハイデンシークを、毎日するようなもんだろう?
いささか荷が重い。」
そっかぁ....と言うと、アレクはまた歩き出した。
キープをしといて次に行く。
「こんにちは。おばあちゃん。なんでこんなところに??」
今度は、おばあちゃんに声をかけたようだ。
「そっかぁ。それは、大変だったね。えっ?そうなの?
あはは。おばあちゃん、前向きだね。」
何が前向きで面白いのか?
ネフィたちは、後ろで首を傾げた。
振り向いたアレックスは、説明し出す。
「ここに、ケラケラ笑ってる明るいおばあちゃんがいるんだけど。
どうやら、昼寝してたら、金にガメツイ玄孫に落とされちゃったんだって。
しかも、他の家族は、殺されたことに気づかず、ここからの風景が好きだったから、海葬したと思ってるんだって。
なんか、馬鹿らしくなっちゃったらしい。
人を恨む気質は、無いし、人が良さそうだけど。どうする?」
「どうする?って。おばあちゃんだろう?守備範囲外だ。」
「あー、見た目はね。だけど、入るのはラムたんさんの体だから、問題ないんじゃないか。
性格は明るくて、家事も一通りできる。おすすめだ。」
「そうなのか...、じゃあおね「あっ、一つ問題があるとしたら喋り方だね。なんとかジャって、語尾につく。」」
「ダメだろうっ!?俺が求めているのは、ジャじゃない。
ダッチャだっ!」
ヴェルディエントとしては、致命的な問題だった。
「あーそうだったな。仕方ない、おばあちゃんもキープで。」
そう言いながら、アレックスはひたすら根暗じゃない女性に声をかけまくる。
あーでもない、こーでもないと、吟味していたアレックスたちだったが、ようやくお目当ての霊に会えた。
「こんにちは。おネエさん。」
今度は、お姉さんらしい。
なるほどねぇ、そっかぁと相槌をうつアレックスだったが、話を聞いて好感触だったので、初めて霊にお願いをすることにした。
「おネエさんさ、語尾に『だっちゃ』をつけて話したりできる?毎回じゃないけど、たまにでいいよ。
あと、ダーリンって呼ぶのに抵抗とかない?」
うんうんと頷き返事を聞いたアレックスが、こっちを振り向く。
その目は、キラキラ輝いていて、期待に胸を躍らせているようだ。
「ヴェルディエント!かなりおすすめなおネエさんだ!
俺は、この人を推すぞ。
年は享年35歳。すごく妖艶な話し方をする。
高級娼館で働いていたから、お茶を淹れるのも一級品だってさ。
ダッチャもダーリンも、オッケイだってさ。ノリノリで受けてくれたぞ!
このおネエさんが、なんで死んだかというと、性病に罹っちゃったらしい。
進行すると、鼻の骨が溶けるし、栄養が取れなくなって皮と骨になるアレだ。
見目美しいうちに死にたいと身投げしたんだって。
だけど、お客がおネエさんにハマりすぎて、何人も身持ちを崩しちゃって、死んでいったらしくて。業が深いから天国に行けなかったんじゃないかって。
きっと手練手管もすごいだろうし、艶やかな雰囲気だぞ。
すっごいおすすめだ!どうする??」
「あー、ちょっと待て。お前のそのテンション怪しいぞ。
お前が今まで薦めてきた女性は、最後に『だけどホニャララ』がついてたな。
幼女だったり、婆さんだったり。
今回は大丈夫なのか??」
ぐいぐいと推してくるアレックスの様子に、逆に、疑惑が湧いたヴェルディエント。
そんなヴェルディエントに、自信満々に答えるアレックス。
ビシッと親指を立てて、断言する。
「今回は、(女性じゃないから)大丈夫!」
お分かりだろうか?アレックスは、一度もお姉さんとは言ってない。おネエさんだ。
高級娼館で働いていた→娼婦じゃなく、男娼。
お姉さん→オネェ
嘘ではない。
性別なんて、心が女性なら問題ないだろう。
どうせ入るのはラムたんさんだ。
実は、アレックスは、この場所に来て早々に、ちょっと不安に感じていた。
街中と違って、自殺霊が多いので、想像よりも鬱々した根暗な霊が多かったのだ。
クセのない丁度いい霊が、あまりいなかった。
そんな霊たちは、アレックスが話せる人間だと分かると、ぎゅうぎゅうと迫ってくるわ、ベチャベチャと話しかけてくるわで、かなりうんざりしていた。
だから、あまりにしつこい霊は、悪霊化してなくても、こっそり浄化してしまっていたほど。
そして、現在。
ごちゃごちゃ話しかけられながら、目についた霊と会話する度、話し声を聞き分けるのに頭が疲れた。ズキズキもしだした。
話しかけるのも口が疲れるしで全体的に疲れてきていた。
過労死したアレックスは、今世は疲れることがあまり好きではない。ほどほどに切り上げたかった。
それに、そろそろ、幽霊たちの活動時間が終わる。
だから、余計な情報はあげない。
「それなら彼女にしよう。」
ヴェルディエントの承諾も得られた。
実際は、彼女じゃなく彼氏だが、それは言わない。
「よし、じゃあヴェルディエント。この丸の中におネエさんがいるから、契約の条件をこの丸に向かって話してくれ。全て聴き終わったら、おネエさんは、手で○か✖️かを教えてくれ。」
話しながら、アレックスは霊の周りの地面に丸を書いた。
「じゃあ、俺たちは聞かないように離れているから。
おネエさんがジェスチャーをしたら、俺もヴェルディエントにジェスチャーをする。
○だったら、そのままこの魔石に血を流して契約してくれ。」
「わかった。」
アレックスとネフィは、話し声が聞こえない場所に移動した。
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