第54話 嫁改造計画1
ということで、
アレックスは、嫁改造計画の要『シリコン』を生成するため、説明し始めた。
「まず、シリコンは、ケイ石に含まれるケイ素が主になる。
これは、火山岩からとってくるのが一般的だが、俺にはケイ素を魔法陣に描くだけで入手できる!」
ドヤァと、偉そうにドンっと胸を叩くアレックス。
普段、飄々としているくせに、なぜか今回得意げである。
どうやら、製作意欲がみなぎってテンションがおかしくなってるようだ。
素早く生成の魔法陣を浮かべると、ケイ素Siを結晶化させる。
そして、部屋の片隅にドンっとケイ素の山を積み上げた。
ヴェルディエントは、初めて見る魔術におおぉ....と感嘆を漏らす。
目がキラキラしている。
男は幾つになっても、子供だというが、その通りである。
アレックスとヴェルディエント、2人して楽しそうだ。
「その魔法陣を学べば、俺にも出来るか?」
「どうだろう...出来る、のか...?
ちょっと、模写してみろ。多分出来るんじゃね?
自分の魔力を材料にして、生み出すんだ!
元は、錬金術の生成の魔法陣なんだぞ。」
パァーッと、光り輝く魔法陣を頭上に浮かべてみせる。
ふんふんと、観察したヴェルディエントは、指でちょこちょことなぞり書く。
「なるほど、ここにイスリルが入って、データルターがかけ合わさって、複合して....。この部分が、風の魔術の分解するところで...ここが火の魔術、乾燥か?なるほど....。
この魔法陣には、あらゆる属性が入ってるんだな。
煮るも焼くも、刻むも、その部分に魔力を流すことで作業が出来るんだな。
錬金術か...。魔界にはないが、たしかに合理的だ。」
「だろう?
まぁ、魔力がいっぱいある悪魔なら、必要無い魔法陣だけどな。
単発魔術を連続して使えば同じことができるしな〜。
これは、人間が少ない魔力で、いかに薬をたくさん作るかって考えた結果の叡智だ。」
「だが、ここに化学式を書くことで、無から有がうまれる意味がわからない。
そんな命令は、この魔法陣には無いぞ。どうなってる?」
「さぁ?できるもんはできるんだ。
ヴェルディエントもやってみたらどうだ?」
アレックスに示唆されたヴェルディエントが、化学式Siを書いた。
しかし....何も起きなかった。
「なぜ、できない??
おい、アレク。どこ辺に魔力をこめてる?」
「ん〜、考えたことねぇ。書いたら、最初から出来たからな。」
首を傾げる男2人。
しばらく失敗理由を考えていたアレックスだったが、やがて放棄した。
理論なんぞ知らね、出来ればいいんだ!
「H2Oからやってみたらどうだ?
もしかしたら、原子や電子とか、詳しいイメージが必要なのかも...?
水なら、地球でも馴染みのある構造だっただろう。」
「ふん....一理あるな...。
よし、真ん中に酸素Oで横にHが2......、
う゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
ヴェルディエントが生成の魔法陣に描いた瞬間、大量の水が鉄砲水のように出てきた。
いきなり室内が水浸し....否、川ができた。
「わぁぁっ!魔力を流すのやめろっ!
聞いてるのか、がぼっ....、水がっ、がぼがぼがぼっ....。」
巨大な魔力タンクを持ったヴェルディエントが、制限もせずに化学式を描いたため、壊れた水道管のように魔法陣から水が勢いよく排出された。
アレックスが魔法陣を棄却しようと手を伸ばしたが、水圧に押され、前に出れず...。
結果、大量の水に襲われ、室内なのに溺れる始末。
ヴェルディエントは、初めての現象に狼狽え、右往左往する。魔力が垂れ流し続け、大混乱だ。
とにかく、水が止まらない。
それを、黙って見ていたネフィが止めた。
『まったく...男はいざという時、役に立たないんだからぁ....。』と呟きながら、動き出す。
多大にため息を吐き出したネフィは、おもむろに腰からブルウィップを外し、ヒュンっと魔法陣に振り落とした。
バキっと、真っ二つに割れる魔法陣。
その瞬間、魔法陣から大量の力がヴェルディエントを襲った。
他人に一方的に棄却された結果、魔法陣に流れ込んでいた魔力が、反動で持ち主に還ったのだ。
「ぶほぉぉっ!!」
ヴェルディエントが、反対側の壁に叩きつけられた。
壁がへしゃげたが、さすが魔王。無傷だ。
何はともあれ、水が止まり、後にはビショビショの床が残った。
『温風ウォーム』
ゲホゲホっとしながらアレックスは片手を掲げて魔術を行使する。
ふわっと、温かい空気が部屋を満たし、スーッと床が乾いていった。
えらいめにあった....。
呼吸を整えたアレックスは、ボソリと呟いたのだった。
「じゃあ、続きをするぞ」と、アレックスは、気持ちを切り替え、シリコン合成を再開し出した。
先ほど作ったケイ素を風の魔術で浮かせると、再び生成の魔法陣を浮かべて、投げいれる。
魔法陣の中で、ケイ素が踊り輝き、準備オーケーだ。
化学式を描いて合成していく。
『水H2O、メタノールCH3OH、銅Cu.....、高温加熱。
....生合成...完了、メチルジクロロシラン。
...加水分解、脱水縮合、....分離。』
言葉に合わせて、頭上にて、物質が次々と変化していく。
まず、ケイ素が溶けていく。
ドロリとした液体が、ぐつぐつ煮立つ。
これで、モノマー合成が完了。
ここまで来れば反応もあと少しで終わる。
シランをカップリング剤と反応させて、さらに合成を進める。
「出来たぞ。」
アレックスの頭上には、大きな透明な球が4つ浮いている。
中には、液体が3種類。固形物が1種類。
「どれが、シリコンだ??」
「これが、液体シリコンゴムだ。」
アレックスは、その中の一つを指さした。
他は、オイルや固形ゴム、レジン液だと説明する。
「で、この液体ゴムに硫黄と肌色の顔料を入れて加熱と加圧することで、肌色のゴムになる。」
説明しながら硫黄を入れ、加熱し、ドロリとしたシリコンゴムを生成した。
同時にベッドに横たわるヴェルディエントの嫁を浮かせる。
「よし、塗っていくぞ。服を脱がせろ。」
「な!?お前、俺の嫁の裸を見るのか!?」
「はぁっ?」
思わず、何言ってんだコイツ?とゴミを見るような目で見てしまった。
裸も何も、ただの女性の形をとった無機物だろう。
そんなもんに裸も何もねぇよ.....。
アレックスは、オタクの感情移入にウンザリしながら、急かす。
「....そういうの要らねぇ.....。
いいか?毛ほども欲情しねぇ!
ちゃっちゃと脱がせろ!
俺にとっちゃ、単なるマリオネット人形だ!」
その剣幕に慌てて、服を脱がせにかかるヴェルディエント。
イケメンが、人形の服を丁寧に脱がす姿に、なぜか涙が出てくる....。
脱がせ終わったところで、シリコンゴム液を満遍なく広げる。
『均等塗布....、定着。加熱。加圧。』
程よい弾力の皮膚が完成した。
これだけでも十分かもしれないが、もう少し弄る。
胸や尻等、柔らかい部分の中を、風の魔術で削り出す。
空洞になってビヨビヨのゴム皮膚が残った場所に、本物により近づけるために粘性がある液体を入れていく。
それには、副産物のオイルを使う。
耐熱、耐寒に優れているシリコンオイルだから、寒いところでも凍らないし、発火することもなく安全だ。
難点としては、若干たぷんたぷんな感触になってしまうかも....。
そこまでは、面倒を見ることができない、許せ....。
ジューっと注入して、少しゴムが伸びるくらいいれ、完了した。
シリコンオイルは、時間が経つと硬くなることもあるので、防腐、定着処理も忘れずにしといた。
くるっと、後ろを振り向くと、恍惚とした顔で手をワナワナさせているヴェルディエントがいた。
「...あ、あ゛....、俺の...俺のラムたんが....。」
モゴモゴと、口籠もりながら感無量の様子のヴェルディエント。
カッと目を見開くと同時に絶叫した。
「神々しく、輝いてるぅぅぅぅっ!!」
ズサっと近づき、膝をついて両手を掲げるヴェルディエント。
目から鼻から液体を撒き散らしながら崇め奉る姿に、幻滅である。
そして、決して、光ってはない。発光体を作った覚えはないぞ。
「ありがど..うぅぅ。アレクは、俺の心の友だぁぁ!!」
ガバリと、抱きしめられるアレックス。
(鼻水ぅ!涙ぁ!汚ねぇ!!
しかも、友達!?知らない間に昇格してたぁ!!)
口角をヒクヒクさせながら、やんわりと身体を引き離す。
「あぁ....、ドウイタシマシテ...。
ところで提案なんだが.....。
悪魔の契約っていうのは、対象はどのくらいまでなんだ?」
「いきなりなんだ?契約?
どこまでというと?」
「人間のほかにも可能なのかってことだ。」
「んー、どうだろうな....。
同意と俺の血が必要になるんだが....
無理じゃないか?
まず意思疎通することが出来ないだろう?」
ヴェルディエントは、考えたこともなかったようである。
今まで、動物と契約したと言う悪魔もいなかったそうだ。
従属の契約魔法陣とは違い、契約後も契約者の意思は尊重されるので全く別物らしい。
「じゃあ、意思疎通ができればできるかもしれないんだな?」
「まぁ、そういうこと、になるか....?」
ヴェルディエントは、腑に落ちないような顔で自信なさげに肯定した。
それを聞いて『ふむ...』と一度頷いたアレックスは、頭の中で整理し考えたことを伝えることにした。
「じゃあ、提案なんだが。
死んだ人間の浮遊霊と契約してみないか?」
「はぁ?浮遊霊??何言ってんだ。
死んだら、輪廻の輪に帰る。そんなもんいないぞ。
地球時代には、浮遊霊とか悪霊とかの概念があったが、この世界にはない筈だ。」
曲がりなりにも神でもある、ヴェルディエントが断言する。
絶対的な確信を持っての発言であったのだが、それをアレックスは否定した。
「いるぞ。浮遊霊は居る。
そうだな....、特に王城にはたくさんいたな。
だけど、あそこは、いまいち良い霊がいない。
恨みつらみがありすぎて、悪霊系だ。
貴族は、ねちっこくてやばいな。
平民だったら、ちっとも恨まないような怨みなんだが...、悲劇のヒロインって感じで引きずってるんだよなぁ。
とにかく残念な霊が多い。おすすめしない。
それに対して、平民の霊はいい。
うっかり成仏し損なった天然の霊が結構いる。
それで...『待て待て待て!!』『ストップ!ストップ!』」
「あ゛?」
アレックスが2人に視線を向けると、驚愕しているような混乱しているような面白い顔で見つめられていた。
「アレクっ!霊感あんのっ!?」
ネフィがずずいっと、迫りながら詰問してきた。
近すぎる距離に身体を逸らしながらアレックスは、「ああ...」と肯定する。
「知らないし!
え?ずっと一緒にいて、そんなそぶり見たことないけど!?」
「無いだろうな。俺、基本気にしねぇもん。」
「いやいやいや。そこは、気になるだろう!?
怖くないのか!?」
ん〜と少し考えるそぶりをしたが、一言「全く?」と答えるアレックス。
「だって、前世からお馴染みだし。48年たてば、空気みたいなもんになるだろう。」
「「ならないぞっ(ないよ)!」」
ツッコまれても動じずキョトンとするアレックス。
アレックスの天然のような変に図太い神経を疑う。
「はぁ〜、相変わらずのスペック持ちだったんだね。
霊感体質っていう個性もあって、お金もあって、頭も良くて、グローバルで...。
何故童貞でいれたのかわかんないよ。」
「俺みたいに、醜悪な見た目じゃなかったんだろう?」
「だ〜か〜らぁ、興味を持てた時には、時間がなかったんだ。
2週連勤は当たり前だし、残業は当然。定時って何?状態だったし、家で寝てても電話で病院にリターンさせられるし。
ここに、他人が入れるスペースないだろう?」
「信じられない.....。よくそんな生活を送って、生きてたな。」
「いや、死んでるし(笑)
死因、過労死だ。」
ケラケラと笑うアレックスは、「そうだったな...」と、死んだ魚の目で見られた。
同情というよりも、残念な子を見るような感じで、若干失礼だ。
「まぁ、それで地球の祓言葉を覚えていたっつうのもある。
厨二病っていうのも、無きにしも非ずだがな。」
「そっかぁ、そりゃ覚えてるよね。
死活問題だよ。呪われちゃったら大変だもん。
前世の時は、祓言葉で乗り越えてきたんだねぇ。」
ネフィは、感心してうんうんと納得した。
がしかし.....、
「いや。呪われたぞ。自分では、除霊できなかった。」
あっけらかんと否定するアレックスに、ネフィは、フリーズした。
「え゛??」
「あれは、ダメだった。全く効かない。」
フルフルと、首を振るアレックス。
淡々と、前世を思い出しながら語りだす。
「修行しなきゃダメだったのかな....。
滝に打たれるとか、聖域巡りとか、きっと厳しい修行が必要だったんだろうなぁ。
全く効かなかったんだよなぁ。
とにかくブツブツ言ってやり過ごしていたんだよ。
やばい時は、全力で逃げてた。幸い近くに神社があったからな。取り憑かれたら、神社で祓ってもらってた。
その分、今世はいいな!聖魔法があるから、やばい奴は浄化できるから、安心安全だ。」
「つーことで、今世も霊が見える俺が橋渡しをしてやるから、ちょっと契約してみようぜ?」
「契約するのはいいが....。それが、どうラムたんに繋がるのか...わからん。」
「この嫁、身体の中心を魔石にすることで、色々魔術が組み込めるだろう?
そこに、従属の魔法陣と、悪魔の契約魔法陣やら、自然な人肌37度の維持のための火の魔法陣、他には涙を出すための水の魔法陣とか色々組み込めば、霊が自分の意志で身体を動かし、喋ることができるんじゃないかと思ってな。」
「喋る??どうやって?」
「音っつうのは、振動だ。風の魔法陣をいじればどうにかなるだろう?」
「いや、簡単にいうが振動を与えるだけじゃ、声にはならないだろう?」
「人工声帯を作ればいい。
前世では、喉に機械を当てて喋る人工咽頭ってのがあったが、お前の嫁は人間じゃないんだ。
つまり食べたり、呼吸が必要じゃないんだから直接喉に埋め込めれるだろう?」
その後も、どう言った魔法陣を組み込むのか討論したり、魔石の加工の仕方を説明したりと、嫁改造計画を進めていった。
次は、程よい霊の捕獲だ!
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