第37話 リペアヒール
『伝令ですっ!第3騎士団第10大隊長起きていらっしゃいますでしょうか!?異形について参考意見が欲しいそうです。御同行お願いできますか!』
テントの外からハキハキとした声が聞こえてきた。
3人は、顔を見合わせて頷き合う。
アレックスは、スタスタと入口に向かい、ネフィが外から見えないよう小さく天幕を開けて滑り出た。
「大隊長補佐のアレックスだ。異形の変異種のことか?
今は、隊長は魔力切れで喋ることもできないくらいの体調で無理だな。一緒に作戦を組んだロウェル隊員なら、いけるけど?」
「.....どうしても、無理でしょうか?
他の人間でいいか自分では判断できかねます。」
「無理だな。」
アレックスは、速攻で断じた。
「では、一応ロウェル隊員に随行してもらいます...。ロウェル隊員は、どこのテントでしょう?」
伝令役の青年は、しょんぼりしながらキョロキョロとした。
「ロウェル〜。お前の出番だぞ〜。」
アレックスは、振り向いてテントの中に声をかけた。
ロウェルは、アレックスたちの会話を聞いていたのですぐに出てきた。
「はいはい。行きます、行きます。
じゃ、会議に行ってくるな。アレックス、隊長をよろしく...。」
ロウェルは、後ろ髪を引かれる思いで出かけていった。
テントには、アレックスとネフィ2人だけになった。
「はぁ〜、アレクどうする?
回復呪文軽くかけた感じでは、変化がかんじられなかったんだ。」
「あー、マジか?信じてないわけじゃないが、念のためもう一回かけとくか....『欠損回復 リペアヒール』」
肩を起点として魔法陣をひろげ、魔力を注いでいく。
魔法陣が強い光で光り続けるが、ちっとも抵抗が感じられなかった。
やはり、初めから腕が無かったものとして体が組み替えられているようだ。
「「....無理だな(だね)....。」
パチンっと魔法陣を消して、つぶやいた。
「ねぇ、アレク。状態復元魔法は?」
「レストレイションは、無理だ。あれは、無機物が対象で、生きてる者には作用しない。そもそも時間が経ちすぎてるし、失敗のリスクが高い。俺の魔力が反発したら、俺最悪死ぬぞ。」
「そっかぁ、じゃあどうする?詰み?」
「「....................。」」
テントの中には、しばらく沈黙が支配した。
視界には、人体模型よろしくのグロテスクな断面。
血液がサラサラと流れていく様を、じっと観察する2人。
ようやく沈黙を破って、アレックスがため息をついた。
「はぁぁぁ.....。ネフィ、ちょっと我慢してくれ。俺の魔力を、微量に流す。」
「ん?微量に流す?」
ネフィはキョトンとしてアレックスを見た。何をどう我慢すればいいかわからないみたいだ。
「あのな、小さい時最初に魔力の流れを掴むトレーニングしたよな?それを、血液に沿って流す。それで、普通の状態との違いをまず把握する。ここまではいいな?
そのあと、通常の状態の場所を確認したらそこを含めてわざと切断した上で、リペアヒールをかけて修復する。」
「なるほどね、わかった!やって?」
「あー、でもな。
多分だけど、俺の魔力を流すと異物だから痛みが出る恐れがある。しかも、変化を見つけるまで流しっぱなしだから結構時間もかかる。
試して見ても結果わかんないかもしれないが、..大丈夫か?無駄かもしれないが...。」
「あー、うん。たしかにね、痛めつけるのは大好きだけど、被虐趣味はないから辛いかも〜?でもしょうがないね。」
ネフィは、痛みを想像してげんなりとした。
「じゃあ、やるぞ。とりあえず異常な箇所の特定をする。あー、とりあえず破れてもいい服かコレ。切る場所が特定できたら、インクで跡をつけてそこを切るけど?」
「あーうん、大丈夫。既に右腕部分がなくなってる服だから、問題ないよ。やっちゃって?」
アレックスは、緊張しながらネフィの心臓部に手を置いた。そしてゆっくりゆっくり魔力を注ぐ。
右心室から肺を通って左心室へ。
左心室から全身を隈なく魔力を通してやがて右半身へ。
ネフィは、プルプルと震えピクピクと小さく痙攣をする。口は、しっかりと閉じて声を出さないように必至に努めた。
「ふっ、.......ふぅっ。」
ネフィの口から、苦しげな呼吸が漏れる。
アレックスは、右半身に伸びた魔力を更に進めて右肩に到達させた。
徐々に魔力を増やして詳しく流れを見る。
同時に自らにも魔力を血液に乗せて違いを探る。
どのくらい魔力を流し続けていたかわからないが、かなりの時間を有した。
なんとなくこの辺が違う流れになってると、感覚を掴み始めてインクで線を書こうとした。
ネフィの服に、ペン先をつけた瞬間。
「ふっ、ふぁぁあぁぁっ!!」
ネフィが目から涙をこぼしながら、叫んだ。
いや、叫んだというより喘いだ....。
アレックスは、びっくりして手を離してしまった。
「うわぁっ!」
ネフィは、身をかがめてピクピクと震えながら、
「ご、ごめ....ん。耐えてたんだけど、想像してたよりもペン先の刺激が強くて.....。ほんと、ごめん...。次は、多分大丈夫。心構えができたから。」
ネフィは、真っ赤な顔をあげて、へにゃりと笑った。
「な、な、何ツゥー声を出すんだよ...。ビビったぞ...。被虐趣味じゃないはずだよな??」
「はは...。魔力流し初めは、たしかに痛かったんだけど、その痛みに慣れたら今度は血管に沿ってゾワゾワしてきてね...。
耐えてたんだけど、最後思わず振り切っちゃって。
まぁ、なんていうか達した??って感じ?へへっ。」
「な!?いったのか?! ....。」
アレックスは、オロオロとして顔がこれ以上なく真っ赤になった。
所詮、童貞を極めた男には過ぎた発言だった。
「はぁぁぁ。ようやくおさまった....。
うん、よしっと。もう大丈夫!
アレク、もう一回。バッチコーイ!今度は、喘がないから!」
「いや、お前ちょっと待て...。俺が大丈夫じゃねぇ...。」
アレックスは、腰をごんごん叩いてぴょんぴょん跳ねている。何やら鎮めているようだ。
そんなんで鎮められるのかは、甚だ疑問だが....。
情けないことに、興奮してしまったらしい。
しばらくしてようやくアレックスが戻ってきた。
「よし、もう一回やるぞ。..いや、やるじゃないなっ!えっと、やるじゃなくてっ、流すぞっ。いや、流すもなんか卑猥な気がしてきたっ。と、とりあえずみるぞ!!」
「ははははっ!うん、見て?
ふふ、見るも視姦っぽくて卑猥だけどねぇっ。ぷぷぷっ。」
「ダァーーーっ!!お前は、またそういうこと言って!!微弱な魔力が、均等に流れなくなるだろう!?」
「流れないの?そりゃEDだっ!ぶひゃひゃひゃっ、笑いじぬぅぅ〜....。くくくっ」
ネフィは、片腕しかない手で腹を抱えて笑い出した。
「はぁ、お前とは絶対出来ねぇ!ムードも何もねぇな。
でも、おかげで落ち着いた。よし、や・る・ぞ?」
アレックスは、落ち着いてネフィの心臓に手を置いた。
「オーケー、ドーキィ!なんだ、もう落ち着いちゃったのか、残念☆」
アレックスは、先ほどよりも多めに魔力を一気に流して右肩に到達させた。すぐさま、ペン先をつけて一気に印を書いた。
『...ふっ、...ふぁ...、あぁっ』
先ほどまでではないが、ネフィの口から小さく空気が漏れる。
その声に、アレックスは動揺して真っ赤になった。
「出来たっ!!おつかれっ!その服、脱ぐなよ。ちょっと、外の空気吸ってくるからな!!」
アレックスは、一目散にテントから出て行った。
「ふはっ!やっぱりアレクは、良いねっ。くくくっ」
ネフィは、走っていくアレクの後ろ姿を見ながら苦しそうに笑った。
思いっきり笑いたかったが、ゾワゾワとした快感がまだ体に占拠していたので、なるべく自分の体に刺激を与えずやり過ごしていた。
外に出たアレックスは、深呼吸を数回するとすぐに戻ってきた。
「あれま?もう良いの?」
「ああ。」
早くネフィの腕を治さないと、と思えば、勝手に気持ちが落ち着いたからなっ。
よし、集中だ。出血をなるべく最小限にしないと!
まずは、造血薬を製造しておこう。
生成の魔法陣を掲げて化学式を描く。
2価鉄に4ナトリウムイオンに、クエン酸2個をつける。
『クエン酸第一鉄ナトリウム C12H10FeNa4O14生合成。....結晶化。』
パァっと光って、造血剤ができた。
スプーンに1匙すくって用意しておく。
ふぅ〜、緊張する...。
左手に風の魔法陣、右手にはリペアヒールの魔法陣もあらかじめ用意しておく。
あとは、魔力を込めるだけだ。
「いくぞ....。」
「任せた!先生っ、お願いしやっす!!」
すぅーーっ、はぁーーー、ふぅーーーーっ。
目を閉じ深呼吸をして集中力を上げ、目をカッと開いて一気に魔力を込める。
『風鎌ウィンドビースト!』
風のカッターをネフィの肩に飛ばすとすぐに、右手の魔法陣にも魔力を流す。
その時間差、瞬き一つよりも短いものだった。
『欠損回復 リペアヒールっ!!』
ネフィの肩から一瞬血が噴き出したが、すぐに魔法陣の暖かい光に包まれて出血が止まった。
床にも血飛沫がプシャーっと広がったが、血溜まりができるほどではなく比較的少ない出血で済んだようだ。
上々じゃないか。
とりあえずアレックスは、第一段階がうまくいってホッとした。
正常な細胞があるとこまで切断した結果、今度はしっかり魔力の抵抗を感じる。
効果があったみたいだ。
最初は抵抗が強かったが、一度再生が始まると抵抗が少なくなった。
グググっとさらに魔力を注ぎ続けて徐々にネフィの腕が再生していく。
キラキラと輝く腕がうっすらと形作られ、だんだん光が収束していくと、ようやく肌色の腕が再生した。
「ふぅ〜。出来た....。」
額にじんわりとかいた汗を拭って、アレックスは脱力した。
ネフィは、腕を曲げたり手のひらをギュッギュッと握って、動作を確認する。
「おぉぉ、出来たね。腕生えた!」
手でた〜、足でた〜♪っと何故か崖の上のポニョのセリフを言って小躍りするネフィ。
足はもともとあっただろう......。
だが、笑顔のネフィの顔色は少し青い。
アレックスは、すぐに造血薬を服用させる。
しばらくすると、血色が良くなってきた。
アレックスは、目の瞼をめくって貧血の有無を確認する。ちゃんと赤い。
舌もあっかんべーをさせて、色を確認。
「うん、もう大丈夫そうだな。」
一通りネフィの血色を確認してアレックスは安堵した。
「ネフィ、また起きた頃に診察するな。
とりあえず、結構血が流れたから今は寝てろ。」
アレックスは、ぽんぽんっと軽く頭を撫でて、自分も仮眠するために自分のテントに下がっていった。
テントには、一人きりになったネフィが「アレク...、有能すぎる....、しかもちょっとキュンとしたじゃないか。...アレクのくせに...手放せないじゃん...」と、呟きをひとつこぼした。
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