第38話 チェラス要塞会議

アレックスたちが仮眠を取ってる間の会議での一幕。


「現在、こちらから目視できるアンデットの数は昨日よりも確実に減っている。それは、僥倖だ。

しかし、異形は変わらず出現している.....。

このことより、宵闇の森深くに何か原因があるのではないかと推察される。どうだろうか?」

第10騎士団騎士団長ニック・エバンズが、円卓につくギルド長、神官長、第4から第10騎士団の大隊長、第3大副隊長を見回し声をかけた。


ここにいる全ての者たちは、皆同意し否定する者は一人もいなかった。

エバンズが、うむと頷いてさらに発言を続ける。


「このことより、宵闇の森内部へ進軍をし、アンデッドが発生している原因を探る必要が出てきた。

原因を取り除かない限りこの辺り一帯の土地を放棄することになる。しかし、ここの資源は貴重なものなので、それは防ぎたい。

そこで、皆の意見を聞きたい。安全に効率よく進軍する策を出してほしい。」


互いに顔を見合わせ発言のタイミングを図り合う。

やがて一人が発言をすると、次いで少しずつ意見が出てきた。


「進軍しても仮に、原因となるものがないという可能性もあります。その場合、撤退のタイミングはどうなるのでしょう?」

→「たしかに...。食料も足りなくなるな。これは要検討だな。」


「宵闇の森に入れば、日中でも太陽の光が入らないため常に異形が襲ってきます。休憩を取るのは不可能では?まずは、どうやって休憩、野営をするかです。」

→「......。森の木々を開拓して天井を開けるか?だが、そうすると、環境が変わってしまうかもしれん。保留だ。」


「聖魔法が使える魔導士、神官が途中で魔力が尽きたら、逆にお荷物でしょう?短期集中が必要になると思われます。」

→「わかるが、我々魔術師も魔力の限界がある...。お荷物と言われるのは、こたえるな....。確かに魔力がない魔術師は、普通の人間になるが....。それでも、異形には浄化しか効かないんだから、もう少し..尊重を......。ボソボソボソボソ...。」


「こちら側の夜が手薄になっても困ります。進軍するにしても、人数を分けていただきたい。残る人員も必要でしょう。我々だけでは、無理です。街の方に異形が行くのは、なるべく防ぐ必要があるでしょう?」

→「神官長の言う通りだな。騎士を少し残そう。だがなぁ....、進軍するのに魔力の節約をしないといけないから聖属性魔術師は連れていきたい....。だがそうすると、住民が危険になる....。うーむ、これも後で編成を考える。保留だ。」


「聖女がもうすぐ到着する予定ですが、進軍に参加させますか?」

→「聖女の力が未知数だよな。何回浄化ができて、規模はどのくらいなのかも分からん。しかも、進軍に参加してくれるだろうか?普通の女性らしいし。

恐怖で歩けないかもしれんな...。実際見てみないとなぁ。数に数えて良いものか....。」


あらかた意見が出たところで魔術師の一人が口を開いた。

「そういえば、すっごく速い動きの異形がいたそうですね。あれは、どうしますか?」


その場にいた全員がピタリと意見を言うのをやめて発言者に注目した。


「どうやら、祝詞を唱える暇もないそうじゃないですか?そんなのに森で遭遇したら、全滅ですよ。」


その場に、重い沈黙が支配した。

いままで議題に上がらなかったが、これが1番の問題である。

全力疾走並みのスピードを持つ異形を視認してから祝詞を唱えるのでは遅い。

異形の口に触らずに騎士が四肢切断をするしかないが、果たしてそれが木々で狭くなってる場所で剣を縦横無尽にふるえるかどうかも難しいところだ。

さらに、視界も暗くて心許ないのもリスクファクターだ。

各々が考えても打開策が浮かばないので皆口を閉じた。


しばらくシンと静まりかえっていたが、ちょうどよく静寂を破る者がやってきた。


「ご報告します!」

「第3騎士団ヴァンキュレイト大隊長の召還ですが、魔力切れにより喋ることができないようで連れてくることが出来ませんでした!

代わりに、組んでいた第3騎士団のロウェル隊員をお連れしました!」

先程の伝令くんだ。


エバンズ第10騎士団長は、入り口の方に視線を動かし伝令とロウェルの二人の姿を確認した。


「魔力切れ?魔力回復薬を、飲んでなかったのか?」

ボソリとつぶやいて、さらに言葉を続ける。


「ご苦労だった。では、ロウェル隊員を残して退出しろ。」

「ロウェル。まず、ヴァンキュレイトの様子はどうだ?明日、というよりも今日か...。次の作戦に参加できそうか?」


「はい。第3騎士団所属ロウェルです。

えー、俺は魔術について詳しくないので回復するかわかりません!(実際は腕がないだけでピンピンしてるけど!討伐自体は、参加できるらしいが、腕の説明をするわけにもいかないから余計なことは言えねぇ!)」


「ふむ、そうか。

ところで最後まで掃討作戦にいたくらいだから魔力回復薬は当然飲んでいたんだよな?」

「はいっ!ガバガバ飲んでました!

しかし、変異種らしきものに襲われたため咄嗟に防御壁を張った関係で最後の最後に枯渇したようです!

俺は、魔術に詳しくないのでわかりませんが、大隊長補佐がそう言ってました!!これ以上は、大隊長については何も言えません!」

「ふむ、ギリギリのところで撤退して尚且つ最後の最後に咄嗟に使った魔力が精細さを欠いて無駄に使用してしまったということか...。それは、仕方ないな。

では、その異形の変異種?について聞こう。続けてくれ。」


ロウェルは、ネフィから見た主観的意見と客観的にみた意見を説明する。

防御壁のくだりの説明をしだすと、ザワっとその場にどよめきが起こった。


「防御壁も喰われるのか...。口以外の部位なら確実に阻まれるんだな?

ならば、大きめの防御壁を張ればいいんじゃないのか?」

魔術師ではない大隊長が声を上げた。


「いや、大きい防御壁を張るのはかなり魔力を使う。あまり、使いたくない魔術だ。」

エバンズが、すかさず魔術師視点で反論する。


「ふーむ。どうするか。防御壁を張る魔術師と浄化だけを行使する魔術師を分けて連れて行くか?だが、そうすると護衛の騎士も多くなって、結果防御壁がでかいものになる?

それは、死亡率が上がる....。それはまずい....。」


あーでもない、こーでもないと色々意見が出るが、不明瞭なファクターが多すぎて結局決まらなかった。

聖女の力もどのくらいなのか、アレックスとネフィの魔術の力量がどのくらいなのか、この場にいない人物の力量がはかれないことには進軍の仕方が決められないということになってお開きになったのだった。


実際のところ、昨日の夕刻からずっと働いている面々の眠気がピークに達したというのが、1番の理由だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る