第35話 ネフィがまさかの....

アレックスが、2回目の特大聖魔法を行使する少し前のこと.....。


 『この世に存在する全ての神々よ

  我の言葉を、聞こしめせ

  悪しきものを退ける力を我に

  我は神々のしもべであり代行者なり

  浄化の力を与え給え

  我が名は、ネフェルティ・ヴァンキュレイト!

  聖なる息吹を今行使する!!』


ネフィが祝詞を寿ぐと、白く輝く聖なる帯状の光が風に揺蕩うようにふわぁ〜っと伸びて、中範囲にいる異形を数体浄化する。


大体、1回の祝詞で4体ほど浄化していた。

アレックスより若干祝詞は長いが、効率的だった。


「ヴァンキュレイトっ!そろそろ俺も離脱する!

魔力切れが近い、頭痛がしてきた!」

隣で浄化作業をしていた第10騎士団所属デイビット・サーキュリットが大声で話しかけてきた。


そしてさらに言葉を続ける。


「お前も離脱しろっ!お前たちだけじゃ無理だ、囲まれて死ぬぞ!」


ネフィがいる討伐エリアには、既にデイビットとネフィ組しか残ってなかった。

デイビットは、学園時代ネフィが鍛えただけあって魔力の扱いがうまい。

だから魔力の消費が少なかったので、今この時間まで耐えれたのだ。

なかなか使える男、デイビット。


たしかにデイビットが抜けたら一気に危険になるのも事実。

ネフィも、それがわかっているので間髪いれずに答える。


「わかった!殿しんがりを務めるから、先に行って!」


ネフィは、すぐさまちょっと離れた所にいたロウェルに指示を飛ばす。

「ロウェル!要塞入り口まで一気に突破する!前を切り拓け!」


「はっ!隊長、りょーうかいっ!」

ロウェルはすぐに前に出て、異形を剣で薙ぎ払う。

虚無の口さえ気をつければ、剣で体を吹っ飛ばすことができるので、とりあえず退路を作ることに集中した。


ネフィもロウェルのすぐ後ろで、走りながら祝詞を寿ぐ。

祝詞を言ってる間は、剣を振ったり他の魔術が使えないのでロウェル頼みだ。

しかし、もうすぐ入り口という時、強い悪寒が全身を駆け巡った。


ーなにっ??ー


ゾワっと瞬間的に鳥肌が立ち、危険が近づいてると全身で感じた。


ロウェルもネフィも、咄嗟に嫌な予感がして後ろを振り返る。


「「!!!!」」


目の前に、虚無の口を大きく開けた異形が飛びかかってきていた!


「隊長っ、くそっ。間に合わないっ!」

ロウェルは、すぐさま急ブレーキをして地面を蹴り上げ異形に剣を向けた。


だが、間に合わず、ネフィは........。




『防御壁展開っ!!』


ネフィは祝詞を破棄して、防御壁をすぐさま展開した。


バチンっ!


異形の体が防御壁に阻まれた。


が、それに安心してしまいネフィに油断が生まれた。




スーーーーっ。





「....しまった.....。」


「た、たいちょーっ!!!くそ、退けぇぇぇぇっ!!」

ロウェルが、ネフィの前にザンッと立ちはだかり、異形をふっとばした。


すかさず、ネフィは頭を切り替え祝詞を寿いだ。


『神々よ、我に聖なる力を与え給え!!』


一番、短い祝詞を早口で寿いだので、決定的な浄化にはならなかったが、異形の勢いを殺すことができた。


「今のうちに、退避するぞ!」


ネフィは、体をマントで覆いながら走って要塞に駆け込んだ。





ネフィは、すぐにロウェルと共に自分の天幕に引っ込んだ。


ロウェルの顔色が悪い。


「そんな顔しないでいいよ、ロウェル。フォローありがとう。今日は助かったよ。」

ネフィは、眉尻をさげハハっと苦笑をもらしながらロウェルに話しかけた。


「でもよ.....。お前の右手.....。」

ロウェルは泣きそうな顔でネフィのマントに覆われている部分を見た。


「大丈夫っ!アレクが来たら治してもらえるよ。気にしないで。」


「治るのか?本当に?今まで見たことないアンデットだぞ。

もしかしたら、あいつに喰われたところは例外かもしれないじゃないか.....俺が、ちゃんとフォロー出来なかったから.....」

ロウェルは、苦しそうに言葉を吐き出した。


それもそのはず、ネフィのマントの下には、あるはずのものがぽっかりと無くなっていた。


右肩からごっそり『腕』がなくなっていた......。




悪寒がゾワっとしたあの時、後ろを見ると動きが遅いはずのアンデットが飛びかかってきていた。

それまで、近くにいたアンデットはいなかったのにも関わらずだ。


異形の変異種。

そうとしか言いようがなかった。


咄嗟に防御壁を張ったが、想定外のことが起きた。

防御壁を通過してきたのだ。


虚無の口の部分だけ防御壁に、ぽっかり穴が開くのは想定内だったが、刹那、口を起点にして異形の頭の形がグニャリと変化して、穴から内部にすーーーっと侵入されたのだ。


あっという間の出来事で、気づいたら腕が消失していた。

ロウェルは頑張っていたし、ネフィの判断も正しかった。誰のせいでもない結果だ。

強いて言うなら変異種のせいだ。多分、騎士の全力疾走並みの疾さだった。



「ロウェル、治らなくても魔術師としては生きていける。気にしないで。

それよりも、今アレクがまた大規模浄化をしたね。光がここまで来たし。

うん、私の肩の黒ずみも綺麗になった。ラッキー♪

多分アレクたちももう戻ってくるから、こっそりアレクだけ連れてきてくれる?

欠損も治せる薬師だってバレたくないはずだから。頼むね。

ちょっと、精神的に疲れたから横になってるわ〜。」

ネフィはなるべく努めて明るくしゃべり、ベッドに横になった。


ロウェルは、アレックスを連れてくるためにすぐさま入り口に向かって走っていった。




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