第25話 第3騎士団 ロウェル
パカラっパカラっ。パカラっパカラっ。
現在、アレックスと第3騎士団の面々は、大量の毒消しを袋に入れて、急いで帰路についている途中である。
朝早くに薬を卸し、そのまま討伐を終えたのが昼過ぎ。ついで急いで店に行って薬を積んでトンボ帰り。
今は深夜だ。
チラチラと、街の明かりが視界の先に少し見えてきたのでもうすぐ王都に着きそうだった。
今まで無言で全員馬を全速力で走らせていたが、街の明かりが見えたので速度を少し抑えた。
しばらくすると、アレックスの前を走っていた騎士が、振り向きざまに声をかけて来た。
「おーい、アレックス。疲れてないか?
討伐もした後すぐにお使いに出て来たからクタクタじゃないか?
お兄さん心配だぞ〜。」
アレックスと歳が同じである騎士の1人ロウェルが声をかけてきた。
「お兄さんって...。
数ヶ月しか違わねぇじゃないか!
真っ暗の中後ろ見ながら走ると、落馬するぞっ!!
疲れはない!平民の体力舐めんなよ!」
アレックスは、呆れながら大声で答えた。
風下に位置しているので、こっちから話すのには大きな声を出さないと向こうに聞こえないからだ。
「そっか、すげーな。
俺、戦時中でもそんなに働かなかったぜ。
伝令の役目をもらった時だけは、1日中馬に乗って働いたが。
あの時は、筋肉も動かないわ、喉も張り付いて水もなかなか飲めないわで辛かったぞ〜。
アレックスは、すぐに騎士になれるなぁ。いつ入団試験を受けてくれるんだ?団長たち首を長くして待ってるぞ。」
「あー、そうだなぁ!早くて今度の春かなぁ!」
「春かぁ〜。なんでだ?今受ければいいじゃないか?」
「俺ぇ!幼馴染とぉ!死の契約を交わしてるんだぁ!!それがあるからぁ!今は入団出来なーい!」
「はぁ!?死の契約って、本当にあんのか?
眉唾もんじゃなくて??」
「あるんだ!!調和の女神アンタールに誓ってしまったぁんだ!!つーか、喋るのやめろぉ!俺だけ大声出して理不尽ダァ!!」
「あー、悪かったな。じゃあ、王都の街道に入ったら並走しよう。」
一旦、喋るのを終えたが騎士団の面々は死の契約が気になって気になって仕方がなかった。
(((いや、ここで会話止める!?死の契約で何を誓ったのか気になるぅぅっ!!)))
心が乱れて、ちょっとだけ隊列が崩れた。
アレックスは、そんな団員の心のうちも知らないので
『なんかスピードが乱れて走りづらいなぁ。こいつら騎士としてちゃんと訓練してんのか?』と心の中で心配した。
しばらく走ると王都の門が見えてきた。
通常、夜は門が閉まって出入りができないが急を要する時は開けてくれる。
今回は、騎士が一緒なのですんなり門が開いた。
ここからは、市街地になるので馬を歩かせる。
するとすぐにロウェルが近づいてきた。
「やっと、話せるぜ!はぁ、気になった。
思わず隊列が乱れちゃったぜ。なぁ、どんな死の契約をしたんだ?」
周りの騎士たちも、うんうん頷いて同意を示す。
「あー、俺の黒歴史だから.....黙秘だ。」
アレックスは、無知ゆえに騙されたあの日の出来事を話すつもりは全くなかった。
「嘘だろ!?ここにきて内容話さないって、どんだけ悪魔だよっ!!気になって夜寝れねーよ?!」
ロウェルは、すかさず突っ込んだ。
「今日は夜明けまであとわずかだから、もう寝なきゃいいんじゃね?ちょうどよかったな。」
アレックスは、突っ込みにも負けずどこ吹く風と聞き流した。
騎士団員たちは、驚愕して一瞬フリーズしたが一斉に責め立てた。
「「「「いやいやいやいや、おかしいだろう!?ちょうど良くねぇよ!」」」」
アレックスは、あまりに全員が揃った動きをするのを見て噴き出した。
「..ぷはっ!!やばい、ウケる〜。..くっくっ。」
ダチョウ倶楽部みたいだと、爆笑した。
「笑えてよかったな...。俺は全く笑えねぇよ。」
ロウェルは、肩を落として脱力した。
パコっ パコっ パコっ パコっ
深夜の街道に馬の蹄が地面に当たる音しか響かない...。
周りの団員たちの沈黙と、なんとなく気落ちした様子を見て「流石に何も言わないのも悪いか」と思い、アレックスは仕方なく口を開いた。
「.....まぁ、なんつーか。詳しくは言えないが、結婚の誓い以上に重いすんげぇ理不尽な契約をしたんだ....。
それがあるから俺は、色々制限されてるんだ....。
そうだなぁ....結婚の誓いくらいなら幾らでも誓えると言えるかな〜。
『幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います』
だっけか?
すっげぇちゃんとした誓いだよ。
詳しい内容を盛り込んであって曖昧さがなくて....。
そうなんだよっ!
曖昧な契約なんてしちゃいけない!
無知は、大きな損をすることを、俺は学んだんだ。
とりあえず、俺の未来は相手に委ねられてるんだ.....。
うん、...ここまでなら話せるぞ?」
アレックスは、憤りながらも回りくどく説明をした。
「...........。いや、お前...。
突っ込むところが多すぎる!」
ロウェルは、なぜか半ギレしていた。
「まず、結婚の誓いは幾らでも誓うもんじゃねぇ!
不誠実だろ!普通は一生涯で1回だ!」
「はぁ?何言ってんだ。そんなのわかんないだろう?
俺は、一生涯で1回だともちろん思って誓うぞ。誓いの重さを俺以上に知ってる奴はいないしな。でもよ?
相手が誓いを軽く見て浮気するかもしれないし、俺と添い遂げるのが嫌になるかもしれないぞ。
そしたら、俺はシングルだ。寂しいからまた再婚するだろう?
ほら、ここですぐ2回目がある!幾らでも誓えるなっ、うん。
結婚の誓約なんて破っても死なないから軽いもんだ。
仮に結婚の誓約が死を兼ねていてもまあ俺なら誓えるがな。やっちゃいけないことが文言にあるからな。
つまり俺の契約は、曖昧すぎていつそれが抵触するかわからないもんなんだ。
だからな、とりあえず春まで騎士団に入るか入らないか決められねぇんだ。」
わかったか?と、アレックスはロウェルに目配せをする。
アレックス本人は、説明しきって満足だというようにニコニコ馬を進める。
「「................。」」
しかし騎士団の面々は、アレックスが言った内容を頭の中で整理をしてみたが『?』が増えただけだった。
すかさず、ロウェルが突っ込む。
「いやいや、何1人で満足そうな顔してんだ?!
余計気になったわっ!
結構、結婚の誓約も重いこと言ってるぞ!
この内容で死の契約を誓えるって、おかしいだろう?逆にお前の曖昧な契約が気になって気になって死んでも死に切れネェよ!!」
「...そうか、よかったな。
死にきれないなら、死ななきゃいいんだ。騎士として殉死しないように心がけられる良い枷になったな。」
アレックスは、すました顔でロウェルのツッコミを丸めてポイした。
「っ!!!!良い枷って、んなわけあるかぁぁぁ!」
「うん、ロウェル。夜も遅いから近所迷惑だぞ。少し声抑えた方がいいな。」
アレックスは淡々と諭すように告げた。
ロウェルは、グヌヌヌっと顔を真っ赤にしてアレックスを睨みつけた。
「...ふはっ。ロウェルは、揶揄いがいがあって良いな。俺が騎士団に入ったら毎日が楽しそうだ。...くくくっ。」
「..そうかよ...ありがとな.....。」
ロウェルとは、もともと年が同じこともあり納品中によく話していた。
今回、半日もずっと一緒にいたのでさらに仲が良くなった。もう、友達と言っても良さそうだ。
長かった1日も終わり、ようやくアレックス達は、医務室に到着した。
「夜分遅くにすいませーん。先生〜!蜂毒用の毒消しを持参しましたぁ。」
アレックスたちは、医務室にドサリと薬を置いた。
すると、奥からふぉふぉっと言いながら、白い顎髭をのばした仙人のようなドクターが出てきた。
「ふぉふぉ、起きてたぞぉ。
待ってたぞい、アレク坊やの薬を。
おおっ、こりゃすごい量じゃのう。春分までありそうじゃ。
料金は、いつも通りそこの用紙に書いて庶務に請求しておくれ。朝卸してくれた薬の分もじゃよ。
他の騎士たちは仲間たちの投薬を手伝っておくれ。こっちじゃ。」と、ぴょこぴょこと歩きながら治療部屋に向かった。
小さなマスコットが、愛嬌よく歩く姿は癒しである。
先生と騎士たちが連れ立って移動する後ろ姿を見届けてから、アレックスはいつもの文机に座って書類を作成した。
解熱鎮痛剤が....包で、エド様軟膏が....つで、蜂毒用の毒消しが...袋で、計190**0だな。カキカキ.....。
アレックスはペンをコトンと置いて「流石に、疲れたなぁ。」っと、グーンと腕を伸ばして伸びをした。
次いで回復呪文をかけて気力を回復。
『ヒール』
アレックスの周りに、きらきらした回復の光をまとわせ、やがて終息した。
疲れも取れ、眠気も吹っ飛び全回復だ。
アレックスは苦笑いを浮かべて「ワーカーホリックだなぁ」と独りごちた。
『医者の不養生』って言葉があるが、この世界では『魔術師の不養生』だと言っても良いんじゃないかと思う。
有り余った魔力を、回復呪文で体力に変換すれば寝なくても食わなくても生活ができるからだ。
特にアレックスは、それに当てはまる。
魔力が多すぎるので多分一生寝なくても大丈夫だろう。
そんな生活を、実は試したことがあるアレックス。
その時は、ガリガリに痩せ血色が悪く隈がはっきり出た。
動く分には問題なかったが、見た目が最悪だったので直ぐに通常の生活に戻した経験がある。
だから、久しぶりに自分に怪我以外で回復呪文をかけたので当時を思い出して自嘲するような苦笑いをしたのだった。
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