第27話 悪役令嬢の逢瀬

私、悪役令嬢のローズ☆


わたくしの婚約者であるリヒト様は、男爵令嬢のソーニャ様にゾッコンloveなの!

だからローズは二人を応援していたのだけれど、なんとソーニャ様に隣国の怪しい影があったものだから、さあ大変!


どうするローズ!

どうしようローズ!


しかも、しかも!ローズは婚約者のお兄様であるリチャード王太子様に「王太子妃にならないか」とビジネスマリッジに誘われて…!?


わたくし、どうなってしまうの~~~!!



と、わたくしの状況をサラッとまとめるとこんな感じかしら。


さすがはローズ。今までの流れを完璧におさらいできたわ。


しかし、頭脳派な悪役令嬢のローズは悩んでいるの。


リヒト様からアムレットストーンを返せと言われた時は、そうはさせないわ!と意気込んだものの…ふむ。


ソーニャ様に怪しい影がある以上、このままリヒト様とソーニャ様が近いと危険と判断し、


本当の意味でリヒト様からソーニャ様を遠ざけようとしても、すればするほど二人の態度は頑なになっていく。


なんてことなの…

一番最初の【悪役令嬢として二人の間を邪魔してくっつけよう作戦】の目論見通りの展開になってしまっているわ。


そして、ベン様とノア様もリヒト様に遠ざけられてしまった。


完全に二人の世界を築き始めているわ。


このままではいけない!と、リヒト様が一人になるタイミングを見計らい直接リヒト様の気持ちを聞きに行けば、


リヒト様は完全にソーニャ様しか目に入っておらず、ソーニャ様を操る父親の男爵の背後に誰がいるかまでは考えが及んでいない。もう自暴自棄になっているのか。投げやりですらある。


むむむ。


そもそも、ソーニャ様は…リヒト様のことをどう思っていらっしゃるのかしら…


「ねえ?スコちゃん。片思いだったら悲しいわね…」


スコちゃんの逢引スポットは学園の裏庭から少し離れた書庫の陰にした。スコちゃんをここまで誘導するのは大変だったわ。


誘導のおやつでお腹が膨れ、途中で飽きられたらどうしようかと思ったわ。


ここまで来たらもう安心ね、スコちゃん。

安息の地を手に入れたわ。


「アディール嬢は片思いじゃないから安心していいと思うけど」


安息の地は二十分もしないうちに消えたわ、スコちゃん。


スコちゃんは何故だか今日は耳をピクリと立たせただけで、ふーんと知らん顔だ。


な、まさか!気を許しているというの!?


おもしろくない気持ちを内に隠し、ゆっくりと立ち上がり振り向く。


「……ごきげんよう。バーナード様」

「はは。すまないね、可愛い”スコちゃん”とのデートを邪魔してしまったようで」


バーナード様は今日も学生とは思えない量の色気を振りまいている。


ついこの間、危ない男の魅力とやらに気付いてしまったので変にドキドキしてしまうわ!


「いいえ。また鳴いていたので様子を見に来ただけですわ」


つーん!と言い返しながらバーナード様から視線を逸らす。自衛だ。


「はは。スコちゃん、以前と比べて毛の艶まで良くなってきたね?それに、可愛い水色のリボンまでつけて…」

「空色ですわ」

「ふぅん。空色、ね」


な、なんですの!まさか誰の仕業かバレてますの!?


「ど、どなたの仕業か存じませんが、これだけ目をかけられていることがわかれば、下手な扱いをされることも無くなりますわ。これで、みゃあみゃあと鳴いて呼ぶこともなくなると思いますわ!」


そ、そんな目で見ないでちょうだい!


「はは。そうしたらスコちゃんも寂しくなっちゃうねぇ?」

「うっ」

「ははは!」


か、からかわれているわ…!

ここは黙秘よ!


と、攻めの黙秘で暫くそのまま無言でスコちゃんの毛づくろいを見守っていたが、ふと気になっていたことを思い出した。


「……バーナード様はリチャード様の元ご婚約者であられた姫君をご存じなのですよね」


「あぁ、親戚だからね。従姉妹になるかな……あぁ、もしかしてリチャードが元婚約者に暗殺者を送った~って噂を聞いて不安になってしまったのかな?」


バーナード様はなんでもないことのように続ける。


「まぁ、うちの国では有名だよ。……うちにも色々な考えをもつ派閥があってね。だけれど、我がベラータ公爵家はリベラティオ国と友好的な派閥に属しているから安心して」


と、バーナード様がウインクを贈った。


うっ

ついこの間、ワイルドな危ない男の魅力に気付いてしまったばかりの私の心臓には、そのウインクは禁物ですわ!


「……裏を返せば友好的で無い派閥も存在するということですわ」

「どこの国もそうだろう。一枚岩じゃない」


穏やかだった雰囲気が一転、鋭い雰囲気に変わった。


バーナード様の鷲色の瞳が挑戦的な色を含んでこちらを見ている。


「その”従姉妹様”が儚くなったことで計画が狂ったと騒ぐネズミがいてね。他所の船に迷惑をかけているらしい。俺もこれには辟易しているんだ」


「なぜそれをわたくしに」


「この間、アディール嬢には意地悪をしてしまったからね。罪滅ぼしだ」


見えない剣でお互いを狙っているかのような緊張感がある。


「あら。お優しいのですね」

「俺はかわいい女の子には優しいんだ」

「ふふ。嬉しいですわ。でも、まだまだ足りませんわ…」


「ずいぶん、仲良しになったようだね」


その張り詰めた糸を切ったのは、お約束の登場リチャード様である。


もういつ来られるのかと待っていたわ…と、リチャード様の方に視線を流すと……


はうっっっ


目が…ッ!目がぁあッ!!

この前は二割減していた光が…倍になって戻って来たわ……!


完全復活したリチャード様は輝きを増し、新時代のエネルギー源になってもおかしくないほどのパワーを感じるわ!


ほんと、パワーが……えっ、なぜそんな『自分にだけ懐いていたと思っていた猫ちゃんが他の人間にも心を許していたところを見て嫉妬で胸が炭』な表情を…!?


「……ネズミ駆除の話をしていたのですわ」


べべべつに悪いことなんて何もしてないわ!!ちょっとバーナード様の危ない男の魅力にドキドキしただけで!この間の危ないリチャード様の方が数倍ドキドキしましたし、セーフですわ!セーフ!


「あぁ。ネズミには猫が効くからね」


バーナード様も両手を挙げて無実のポーズだ!ほら、ご覧ください!無実ですわ!


「ほう…うちの猫はネズミも捕るのか」


そりゃあもう、猫ちゃんにかかれば一網打尽ですわ!ね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る