第50話 「卒業式」それぞれの分かれ道。



卒業式。



在校生、1年生、2年生の拍手の中、クラスごと1列になって体育館に入場していく。


・・・・ボクのすぐ後ろには紺野がいた。


3年生になってすぐ、並ぶ時の「背の順」で紺野は前から3番目だった。

ボクと紺野の間には10人の生徒がいたはずだ。

それが、卒業式を迎えた今日、紺野は、ボクのすぐ後ろにいた。身長差が縮まるどころか、ついに抜かれてしまった。・・・・っても、1cmとかだけど。

ボクの背が一番伸びたのは、陸上を始めた2年生から3年生にかけてだった。1年間で15cmくらい伸びた。それも今じゃあ、すっかり頭打ちか。全然伸びなくなった。165cm・・・・まぁ、まだ成長喜田。もう少しは伸びるだろう。

「背の順」で前後になった。んなこともあって、ますます紺野とは話すようになっていた。


今では、一番話す相手かもしれないなぁ・・・・



・・・・見直していた。紺野を見直した。



「上沢高校に行く」


身の程知らずに言い出した時には、単なるバカだと思った。


受験先を 下郷高校 から2ランクは上の 上沢高校 に変えたといったところで、紺野は、まったく変わらなかった。

どうみても真剣に受験勉強をしているようには見えなかった。

ボクたちとバカをやる時間もこれまでどおりだった。


・・・・にもかかわらず、紺野は見事に 上沢高校 に合格していた。



卒業生が席に着いていく・・・・


ボクたちのクラスの席がひとつ空いていた。


・・・・関川の席だ。


紺野の上沢高校合格は、番狂わせのあり得ないことだった。

そして、関川の上沢高校失敗も、絶対にあり得ないことだった。


あれ以来、関川には会っていない。学校にも来なかった。

今日の卒業式にすら来なかった。


・・・・「受験は水物」とはよく言ったもんだ。



「お前のせいで関川が落ちたんだ」



あり得ないように合格した紺野に、ボクたちは軽口を叩いた。

紺野は、反論することもなく「そう思うわぁ~」と笑った。


紺野には「ムキになる」ってな部分がなかった。

いつも何を考えているのかわからない。・・・・そんな掴みどころのなさがある。

ボクは、すぐ「ムキになる」って性格で・・・・単純明快で・・・・

まったく真逆の性格といってよかった。



関川とは気が合った。

「ムキになる」単純明快。

同じような性格だったっていっていい。

関川の考えはよくわかった。

話していても、話が噛み合った。


・・・・でも、紺野とは噛み合わなかった。

なんだか「暖簾に腕押し」って感じだった。



・・・・もちろん、本気で紺野が受かったから関川が落ちたとは思っていない。

それでも、定員がある以上・・・・そして、紺野が合格して、関川が落ちた事実から、なんだか不思議なものを感じていた。


ボクの陸上200mの優勝と同じような感覚・・・・

なにか・・・・1足す1は2・・・・そんな計算では成り立たない何かを感じていた。

生きてくってことは、数学のようにはいかないものかもしれないな。・・・・不思議なことの積み重ねかもしれないな・・・・




立ち上がって国家斉唱。


卒業証書の授与が始まった。



3年生だ。

送り出される方だ。

何も特別なことをすることはない。

立てと言われれば立つ。

座れと言われれば座る。それだけだ。


答辞は、もちろん、生徒会長、長田が務める。


「蛍の光」「仰げば尊し」と続き、最後に校歌斉唱。



淡々と進んだ。


特別な思い入れもない。


そもそも、今日まで、何度も何度も練習させられた。

練習すればするほど流れ作業になっていく。

リハーサルが本番になっただけだ。感動するほどのこともない。

後ろで見守ってる親たちのほうが、勝手に感動してるような気がする。



卒業式が終わって教室に戻った。


はぁぁぁぁぁぁーーーーー・・・・・・・・・


やっと終わった。

これで春休みだ。

受験の終わった春休みだ。

なんともいえない解放感だけがあった。



・・・・志村がいた。

毎日、仲良く登校してきてた、志村 と 高原 の様子が途中からおかしくなっていた。

今では一緒に登校してくることもない。別々にやってくる。

前までは、教室の中でも、仲良く話していたのが、今では顏を合わせることもなくなっている。


・・・・別れたってことか??


受験が終わってから、志村は堰を切ったように女の子に話しかけていた。・・・・高原以外ってことだ。

もう、節操がないというのか・・・・学校内の「美少女ランキングTOP10」全員に声をかけてるようだった。


高校生活をキレイな彼女と始めようってことなんだろうな???笑。



「女の敵」


陰で、女子生徒からそう呼ばれていた。

それでも、そう呼んでいるのは、どちらかと言えば、学校内の主流派じゃやない・・・・簡単に言えば、学校内の「美少女ランキング」には、絶対に入らないだろう女子生徒・・・・「非・美少女ランキング」の女子生徒の間で囁かれていた。・・・・でも、その声が打ち消されるほど、圧倒的に志村の人気は高かった。


・・・・ボクは、別になんとも思わない。


「女の敵」


そう囁かれるほどに、隠すこともなく動き回れば、もう立派としかいいようがない。

「唯我独尊」・・・・我が道を行く。

その行動力は尊敬に値する。・・・・ボクには真似はできないな。


もちろん、今でも志村は嫌いだ。大嫌いだ。

学校内で・・・・同じクラスであるにもかかわらず喋ったことがないってほどだ。


志村は 上沢高校 に合格していた。・・・・やっぱ頭良いんだよな。

そして高原も 上沢高校 だった。



「窓際族」

いつものメンバーで・・・・いつもの通りで、なんとはなしに集まっている。

いつもと変わらずバカ話をしていた。



・・・・今日は、この後、どーすんだ・・・・?



高柳は、工業高校を落ちて、県庁所在地の私立高校に行く。

南原と沖永は、隣の学区の偏差値中位の高校に行った。・・・・意外だった、南原と沖永は、てっきり 上沢高校 だと思っていた。あるいは中場高校かと。

東は 下郷高校だ。ハンドボールをそのまま続けると言っていた。



分かれ道だ。



「カズ、行くぞぉ~」


陸上部の本木の声が聞こえた。隣に野田がいた。


またなー。と窓際族に手を振った。

本木、野田と一緒に教室を出た。



廊下から見えた桜の木はまだ咲いていない。


桜は大阪では卒業式の花だ。

ここ北陸では入学式の花だ。


日陰の路地裏にはまだ雪が残っている。


肌寒い・・・・それでも、窓から見える陽射しは「春」だ。




陸上部3年生に、時田先生から召集がかかっていた。




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