第45話 「バンドデビュー」んで演劇デビュー



スポットライトの中にいた。


文化祭当日。


体育館。

壇上。ステージ。

全校生徒が体育座りで見守っている。


ボクは、眩しいスポットライトの中にいた。


演劇。

端役とはいえ、ボクのソロシーンがあった。



こちらから・・・ステージからは眩しくて何も見えない。

全校生徒の姿は見えない。




明るさを取り戻していた。


・・・・ボクは、元来、明るくノーテンキな子供やった。

それが、両親の離婚・・・・そしてヤクザ騒動・・・そんなことから、世の中を斜に構えて見る子供になってしまっていた。

心の中に「ヘドロ」を溜め込んでいった。


時田先生の陸上部でボクは変わった。


・・・・その「ヘドロ」が流れ出ていった。



志村が嫌いやった。

紺野も嫌いやった。


・・・・でも、それは嫉妬やった。


紺野に対しては、その「育ち」に嫉妬をし、志村には・・・・志村に対しては、その行動力に嫉妬してた。


志村の姿は、小学生のころのボクの姿やった。


・・・・ボクは、ノーテンキな、志村と同じような小学生やった。


だから・・・志村に嫉妬してたんや。



スポットライトが当たっていた。

眩しいスポットライトが当たっていた。



「文化祭」だけやなかった。

「弁論大会」にも、クラス代表として壇上に立った。




相変わらず志村は嫌いや。

大っきらいや・笑。


なんたって、毎朝、高原 舞 と一緒に登校してくる。

気に入らないこと、このうえない・笑。


それでも、暗い憎悪のような感情はなくなっていた。


・・・・なんやろう・・・・どこか尊敬の念があった。


志村は、異質や。

この田舎町で異質の存在や。


志村には、この田舎町の「排他的」なものを、ぶち壊していく行動力があった。


同じ転校生でも、ボクは、その「排他的」なものに屈服してしまっていた。


・・・・おそらく、志村も、最初は、そうやったんやないかと思う。


その「排他的」なものに、ぶち当たり・・・・それでも、志村は自分を通していった。

その戦ってきた先が今の姿なんや。


田舎町は「排他的」や。

・・・だから、目立つことをすれば攻撃される。当たり前や。

でも、それにめげずに、好きなことをやり通せば・・・・やり通してしまえば・・・・田舎だからこそ、そういったことに免疫がないだけに、逆に脆い部分がでてくる。

一度「カッコイイ」と流れが決まってしまえば、雪崩をうったように、人の輪の中心になっていく。


そうやって、志村は、学校の中心に立っている。



スポットライトが当たっていた。

眩しいスポットライトが当たっていた。



・・・・そんな、志村に対してと同じような空気がボクに向けられてるのも感じていた。



・・・いや、志村は嫌いや。

大っきらいや・笑。


なんたって 高原 舞 と毎朝やって来やがる。




「ワン、ツー、スリー・・・・」


スティックを振り下ろす!



ステージの上。


ボクたちのバンド演奏が始まった。


もうひとりの「嫌い」やった紺野とステージに立っていた。



文化祭。

自由時間・・・・ってか、公式のプログラムが終了した後。生徒たちのバンドによるライブが行われた。


なんとなーく、3年生、各クラスから参加するって感じで、10組以上のバンドがステージに立つ。そんで文化祭のフィナーレを飾っていく。



詰襟の学生服に坊主頭。

それを隠すために、アポロキャップを被っていた。


毎日のように、雅彦の営業前の店で練習してきた。


ドラムは、ステージの一番奥に位置する。

ボクの前に南原のベース。

その前に、紺野、東のギター。


最前列には、高柳と沖永のボーカル。


楽曲は、さんざんっぱら練習してきた


The House of the Rising Sun


「朝日の当たる家」やった。



哀愁を帯びたイントロのギターが始まる・・・・紺野、東のギターは完璧や。



当たり前やけど、体育館はちょー満員・笑。


中学校生活で、唯一といっていい自由時間。

先生たちの干渉をうけない、生徒会主催による自由時間や。

しかも、生徒たちによるバンド演奏や。


参加バンドは、ほとんどが3年生だ。・・・・ってことは、それぞれに、部活とかで後輩がいるわけで・・・・その後輩・・・特に女子生徒たちからは黄色い声援が飛ぶ。



当たり前のように、生徒会長、長田もバンドを組んで参加していた。担当はギターや。


・・・・で、当然のように、



わぁーーーーーー!!!きゃぁ~~~~~~!!!!



地鳴りのような女子生徒たちの、真っ黄色の声援を受けていた。


んで、メチャメチャ上手かった・・・・ってか慣れてる。

「天」ってやつは、一人の人間に、いくつもの才能を与える。



3年生ともなれば、バンドを組んでる連中もいる。

ましてや、この文化祭に狙いを定めて練習してきてるバンドもある。


人気で長田バンドが1位だとするなら、実力1位は、ブラスバンドのドラムが組んでるバンドやった。


・・・・もう、まったく「音」が違っていた。

バスドラが「ドーーーン」とは鳴らない「ドス!」と、締まった良い音が鳴る。

タムも「ポーーーン」じゃなく「カン!」と、ミュートの効いた・・・歪みの消えた、締まった硬い音がする。


・・・いや、もう、参った。


部活動でドラムを叩いているわけで・・・ってことは、毎日練習してるわけで・・・毎日チューニングも自分でしてるわけで・・・・言ってみれば、ドラムのプロやった。・・・ボクは、まだチューニングまでは自分でできない。


んで、バンドも、まったくの「プロ」やった。



「バンドは、ドラムとベースが基本なんや。・・・・このふたつがシッカリして、はじめて、その上でギターが遊べるんや」



雅彦の言葉が、よーく理解できた。


完璧なドラムとベースの上で、ギターソロが踊っていた。・・・・そして不安気のないボーカル。

もうメチャメチャ上手い。


・・・・ひょっとして君たちはプロを目指してるの????


ドラムは元より、ギター、キーボード、ボーカルに至るまで、まったく・・・・まったく、まったくレベルが違っていた。

とても中学生とは思えない。

もう、詰襟の、坊主頭が違和感でしかない。


・・・・もう、メッチャカッコエエやん・・・・・



観客が酔っているのがわかった。

静まり返っていた・・・・それでも、観客が、その演奏に魅了されているのがわかる。


演奏し終わった・・・・

ドッカーーーーーーーン!!!!!と、爆発的な拍手。そして歓喜の声。


「アンコール!・・・アンコール!!!・・・アンコールゥーーーーー!!!」


自然発生的に、熱狂的な「アンコール」の声。

・・・しょうがないかと、このままじゃ終われねーよな―――!! とばかりにアンコールで、もう1曲演奏された。




・・・・それにひきかえ、われらがバンド。



わぁーーーーーーーきゃぁーーーーーーーー!!!


・・・・んな黄色い声援は飛んではこなかった・笑。


黄色い声援のかわりに、なんだかザワついた小声が走る・・・・・


そりゃ、そうだ。

われらがバンドは、なんたって、学校の「窓際族」のバンドや。


バレー部がいなければ、バスケ部もいない。野球部すらいない・笑。


どちらかというと、



「なぜ???・・・なぜ???なぜ、君たちが出るの・・・??」



そんなポッカーーーーンとした女子生徒たちの顔、顔、顔、顔・・・・そして、顏・・・・


同じクラスの女子生徒すら冷たい顔や・・・・



・・・・それでも、・・・そんなボクたちとは関係なく超満員の観客・・・・



呑まれてるのがわかる・笑。

特に、ボーカルの二人が、メッチャ緊張してるのがわかる。・・・・そりゃ、そうだ、超満員の観客のすぐ前。壇上。

バンド全体に、いやーーーーな緊張感が走ってるのがわかる・笑。



イントロが終わる・・・・・

高柳、沖永のツインボーカル・・・・・・・


・・・と・・・

どっひっやぁ~~~~~声が裏返ったぁ~~~~  笑。


・・・背筋に冷たい汗が流れる・・・・


英語の歌詞だ・・・・どだい無茶があった・・・・

それでも、ツインボーカルや。

どっちかが歌詞を忘れても、どっちかが・・・・・・・



沈黙。 ・・・・・・・・



ふたりで歌詞が飛んだらしい・笑。



高柳が、慌てて、ポケットから歌詞カードを取り出す。

一冊の歌詞カードを二人で見ながら歌いだす。


・・・・・ダメやわ・・・・声が裏返って・・・なんだか、ただガナっているだけやぁ・・・


満員の観客を前に、かんっぜんに舞い上がってしまってる。


・・・・徐々に静まり返っていく観客・・・


・・・スベってる・・・・かんっぜんにスベってる・・・・しかも、ダダスベリやん・・・・



いかん・・・マズイ・・・マジィ・・・・いたたまれない・・・・


・・・ったら、目の前で南原がボクに何やら目くばせをしてくる・・・・


・・・・????


・・・・どうやら、ボクのドラムが速いってことらしい・・・・

舞い上がってるのはボーカルだけやない。ボクだって舞い上がってる。


気づけば、歌が聞こえない・・・・ああ・・・ギターソロか・・・・


・・・・あれ、リフレインってどーすんだっけ・・・・???



歌が終わった・・・・


・・・・とっころが、演奏は終わらず・・・・演奏が終わった・・・・けど、ボーカルが歌い続け・・・・


・・・・さらに静まり返っていく観客・・・・


まだ秋なのに、北風が吹いていた・・・・・


・・・・さらに、さらに静まり返っていく観客・・・・・


もう、つめたーーい・・・・・雪すら降りそうな寒さや・・・・



・・・・スポットライトが消えていった・・・・

当たっていた眩しいスポットライトが消えていくのをボクは感じた・・・・・



われらがバンドのデビューは、さんざんだった・・・・・・


しょせん、これが、われらが「窓際族」の実力やった・笑。


わぁーーー!!きゃーーーーー!!!


黄色い歓声どころか、真冬の冷笑を浴びながらステージを後にした・・・・・笑。




「文化祭」も無事に終わった。


・・・・こっからは入試一直線や。


高校受験一直線が始まる・・・・・・






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