第44話 「ドラムの特訓」文化祭狂騒曲・笑。



ドラムを叩いていた。



ステージの上。


6人掛けくらいのカウンターがある。・・・・その後ろの棚には洋酒ボトルがびっしりと並んでいる。


ボックス席がある。2か所。


その店内の中心に、一段上がった小さなステージがあった。


左右には、大きなスピーカーが設置されている。・・・・このステージの大きさにそぐわない大きさ。大きな会場に設置されるようなスピーカーセットやった。


アンプ・・・マイクスタンド・・・・ステージ一式の機材が並んでいる。


その、さらに中心にドラムセットが置いてあった。


ボクは、そこに座ってドラムを叩いていた。



ここは、駅前。繁華街にある雑居ビルの一角。

バーラウンジというのか・・・・この田舎にはない、都会的な雰囲気。落ち着いた感じの店やった。


開店前の叔父の店や。

叔父、雅彦は母の弟だ。




・・・・ドラムってのは、なんだか、特殊な楽器や。


楽器のほとんどが指先を使うものやのに、ドラムは身体全体を使う。



座ると左側に・・・左足の位置にハイハットシンバルってのがある・・・・これが特殊で・・・

上下、同じ大きさ、2枚のシンバルを合わせたようになっている。・・・・貝が閉じた感じ・・・・これを右手で叩く・・・・これがリズムを刻むシンバルだ。

さらに、左足の操作で貝が閉じたり開いたりする・・・・これによって、音色を変えることができる。

リズムを刻む硬い音から、クライマックスで「ジャーーーン!!」ってシンバルを鳴らす音まで・・・そんな音色の操作を左足で行う。


そして、真ん中にあるのがスネアドラムだ。・・・・音楽の授業で習う、小太鼓みたいなヤツ。

これを、左手で叩く。


・・・・そう、ここで、もう不思議なことが起こる。

右手と左手が、常に交差している・笑。


基本、この両手の操作でリズムを刻む。


んで、次に右足。


右足は、ドラムの真ん中の大太鼓・・・・バスドラムを叩く。足で叩く。・・・・もちろん足で蹴るわけじゃない。大太鼓用の「バチ」を足で操作するわけだ。



これを一気に、同時に使って、リズムを刻む・笑。



リズムを刻むだけで、身体の機能全てがフル回転や。


左足、右足、右手に左手・・・・・ふぅ・・・・笑。


他にもフィルイン用のタム・・・・フィルインってのは、音楽の「決め!」みたいなもんだな。センテンスの句読点みたいなもの・・・・・タムってのは太鼓のことや。

それから、エフェクトシンバル・・・・「決め!」句読点用のシンバル。

・・・・そんな、いろんな太鼓や、シンバルが目の前に並んでいる・笑。


これら、全てを使って演奏する・笑。


オーケストラの「大太鼓」「小太鼓」「シンバル」・・・・この三つを、ひとりで演奏するのがドラムや。




「だいぶ、ええ感じになってきたな」


雅彦がカウンターの中で笑っている。


叔父とはいえ、歳はひとまわり程度しか違わない。


叔父っていうより、歳の離れた兄貴って感じやった。


歳の問題だけやなく・・・・なんだか、気が合うってのか・・・・とにかく、可愛がってもらっていた。

この田舎で、同じ関西人同士ってのも大きかったんやろうな。



雅彦は、プロのミュージシャンやった。プロドラマー。・・・元だな。


高校在学中からバンドを始めて、そのまま高校中退。バンド活動に専念・・・ってか、プロを目指した。・・・・そっから、ついにはメジャーデビューを果たした。

・・・が、けっきょくは売れなかった。


大阪生活のときには、けっこー頻繁にウチに出入りしていた。

雅彦が、ウチでご飯を食べてることは、珍しいことやなかった。


ボクたちが、この田舎町に夜逃げしてきて・・・1年後くらいか・・・ひょっこりと雅彦はボクの前に表れて、この田舎町に居ついてしまった。

・・・・母さんと、どんな会話があったのかは知らない。

母さんにとっては、ここは、誰一人知り合いのいない町や。


ひょっとしたら、母さんが雅彦を呼び寄せたのかもしれない・・・


雅彦は、この土地でライブハウスのようなことを始めた。


さすがにプロのミュージシャンやった。

メジャーデビューは伊達やなかった。


大阪からビッグネーム・・・・この田舎では・・・・を呼び寄せライブを開催していた。


それでも、ライブハウスだけでは成り立たないってことか、基本は、女の子もいるバーラウンジとして営業して、大阪からアーテイストが来た時にはライブハウスへとなっていた。


店は、すぐに軌道に乗った。

この田舎にはない都会的なセンスの店。

そして、ビッグネームのゲストのライブが観れる。


ビッグネームが、ライブ会場で正式なコンサートをやったあとに飲みに来るってことも再三あった。


・・・・たまに、雅彦自らがドラムを叩いて、地元のミュージシャンとのセッションも行っていた。


そのほかに、やっぱり、この田舎では珍しい外車専門の「車屋」も経営していた。

この地域じゃ珍しかった、ジャガー、マスタングにキャデラック・・・・名車と呼ばれる車が並んでいた。


北陸には雪が降る。

冬は雪に閉ざされる。

そんなことから外車に乗る人間はいない。


「目立つ」ことを嫌う田舎という土地柄。

もうひとつは、雪の中で外車は取り回しが厳しいからや。

デカい、重い外車は、狭くて細い田舎の雪道を走れない。


んなことからデカイ、キャデラックなんてなアメ車を見たことがない。


・・・・でも、だからこそ売れるみたいやった。

大人、年寄りはともかく、若者・・・・ドラ息子って感じか・笑・・・・んな若者には売れてるようやった。



雅彦は、ボクを可愛がった。時間があればボクを連れ出した。

そして、メシを食わせた。



雅彦は「異質」やった。


真面目な堅物ばかりの親族のなかで、雅彦だけが異彩を放っていた。


どこにも属さず、誰にも媚びず、唯我独尊の存在やった。

目の前に憧れの大人がいた。


「徒手空拳」で生きてきた、見本とする大人の男がいた。



・・・そうだ。

ボクがドラムをやるって言ったのは、雅彦の存在があったからや。



ドラムやったら、雅彦に習えばいい。



「カズは、どーもリズムが速なってくクセがあるなぁ・・・・・まぁ、誰でも、そーゆーもんやけどな・・・・

ゆーても、ドラムはリズムが命やからな・・・・そのためのドラムやからな。


バンドは、ドラムとベースが基本なんや。・・・・このふたつがシッカリして、はじめて、その上でギターが遊べるんや・・・・・まずは、キッチリ、リズム刻むことを覚えるんや。

むつかしいことは、そのあとや」



カウンタ―の中で雅彦が言った。


出してもらったコーラを、カウンター席で、皆で並んで飲みながら頷いた。



こうして、店の営業前、開店前の特別レッスンが続いた。




学校。放課後。


職員室から呼び出しを受けた。


ドキっとした。

「煙草事件」があったからな・笑。

職員室からの呼び出しにはドキっとする・笑。


呼び出された教室に向かった・・・・・

ガラガラと扉をあけて入っていけば、3年生、男女数人の生徒たちがいた。・・・・10人弱。


・・・そのメンバーに目を見張った。

同じ学年なら、知らない生徒はいないだろうメンバーが揃っていた。

「目立つ方」の生徒たちが並んでいた・・・・

この学校の1軍メンバーが揃っていた。



・・・・なんだ・・・????

なんで呼ばれた・・・??



座った席。机の上に製本が配られた。



・・・・なんや・・・??



教壇に女教師が立った。3年生担当のエライだろうオバサン教師。



「こんどの文化祭の、3年生の劇・・・・みなさんにやっていただきます」



配られたのは演劇の脚本だった。


・・・・・え?

・・・・そうなの・・・・???



周りを見渡した。

・・・・そういうことか・・・・納得の人選だった。



・・・・けど・・・・なんでボクなん??



こうして、文化祭で「演劇」に出演することが決まった。

・・・・もちろん、端役だけどさ。



どうやら、ボクの周りで何かが起こっているようだった。

動き出した歯車が、急に走り出したような感じだった。




日曜日。

バーラウンジ。

雅彦の店。


ステージ。


ドラムを叩いていた。


紺野と東がギターを弾いてる。

南原がベースを弾いている。

高柳と沖永が歌っている。


演奏してるのは流行りの、もちろん日本の曲やった。


カウンター席で雅彦が聞いている。


とりあえず、どの程度のレベルなのかを聞いてもらおうと、バンドメンバーで集まった。



終わった後で、カウンターに集合。

目の前にコーラが出された。

ゴクゴクとみんなが飲む。


・・・・ふぅ・・・・

初めて、他人の前で演奏したってことで、なんだかみんな汗をかいた。



音楽談義・・・・楽器談義・・・・


雅彦が、次から次に、いろんな曲を店内に流す。


・・・・さすがプロや。

いろんな種類の音楽を知っている。・・・・そして、その構成や、楽器の知識・・・・・



・・・・雅彦が、何やらゴソゴソ・・・・

カウンターの中で、CDをセットした。


「・・・・お前らには、これがええんちゃうか・・・・・」


店内のスピーカーから音楽が流れ出す。・・・・ステージの脇のスピーカーからだ。

イントロはギターから始まる・・・・


・・・・いやぁ・・・・それにしても、その音の迫力にビックリした。

スピーカーってことを忘れる音・・・・生の楽器の音がしていた。


カウンターの上に楽譜が出された。


The House of the Rising Sun


「日本じゃ 朝日の当たる家 って訳されたけどな・・・・それなりに、カッコええように聞こえる・・・・の、わりには簡単なんや」


みんなが、流れる音楽に聞き入る。

どこか、哀愁を帯びたメロディーや。

ボーカルもゆっくりだ。

英語で歌うにも、そんなに無理はないって感じや。


すぐに、紺野が楽譜を引き寄せ、ギターを弾き出す。


「お、ええやん紺野くん。上手いやん・笑」


雅彦が笑う。


ボクは、ドラムセットに座ってリズムを刻み始めた・・・・


「カズ、・・・ハイハットが、ちょっとちゃうんや・・・・」


雅彦が隣で教えてくれた・・・・ハイハットが、ちょっと難しい刻み方やった。

それでも、教えてもらえば、すぐに慣れる・・・・そして、聞き応えのあるリズムや。


・・・・なんか、カッコええやん、コレ・笑。



全員が納得した。

この曲に決めよう。



「まぁ・・・・下手は下手でええ・・・失敗してもええんや。

音楽はな・・・・音を楽しむって書くんや。

一番大事なことは 楽しむ ことや。

楽しんでたら、聞いてる方も楽しめるもんや

まずは、楽しんでステージ立ってこい」




こうして、


「文化祭」


バンドと演劇。


両方の練習が始まった。




学校。

放課後。


体育館のステージで演劇の練習。


台詞を覚えなきゃなんない・・・・

それに衣装合わせ・・・・

・・・・やること、覚えなきゃいけないことはいっぱいあった。



放課後は「バンド」と「演劇」・・・・掛け持ちで練習した。




・・・・・んとに、受験勉強どころじゃないってーの・笑。




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