第43話 「体育祭が終われば文化祭」・・・受験。
昼休み。
音楽室。
窓から長閑な陽射しが入ってくる。
紺野がギターを弾いている。
ボクは、窓から外を眺めていた。
ギターが流行っていた。
音楽室にはクラシックギターが置いてあって、休み時間とかに、好きなヤツらが片隅で弾いていた。
ボクたちは、学校の「窓際族」や。
バスケ部や、バレー部・・・・はたまた、生徒会執行部・・・学校の主流派とは、まったく縁のない「窓際族」や。
休み時間になれば、窓際の席に集まってダラダラと時間を過ごした。
・・・その場所が「音楽室」に変わっていた。
紺野がギターにハマってたからや。
ちなみに、志村派のヤツらは、昼休み、体育館でバスケをやっている。
健全で、けんこー的な中学生だ・笑。
・・・もう、部活動も引退だ。
学校生活も「受験モード」だ。
3年生になれば受験勉強・・・・・体育祭が終わったら受験勉強・・・・その体育祭も終わった。
学校全体が受験モードになっていく。
ボクは「受験」を考えたことがなかった。
小学校から、家が離婚だのなんだのとバタバタしていた。
小学校で転校させられて・・・・そしたら、また、中学校でも転校させられた。
「受験」ってな、・・・・将来設計みたいなことを考えたことがなかった。考える余裕がなかった。
・・・・ここ、北陸は「受験」に熱心だ。・・・・ってわりには、都会で当たり前となった「進学塾」ってのが、まったくなかったけど・・・・笑。
それでも「受験」には、熱心やった。
大阪から転校してきてビックリしたことがある。それは・・・いや、いっぱいビックリしたことはあったけど・・・・
そのひとつが「受験熱」の高さやった。
中学校1年生の段階で、生徒たちは進学する高校の話をしていた。・・・行きたい高校って意味だけど。
・・・大阪じゃあ、考えられない。
・・・・まぁ、大阪・・・・大都市の場合は、そういう「進学熱」みたいなのがある家庭は、早々に「中学受験」にカジを切る。
ボクが小学校を卒業した時も、クラスに5人くらいの「中学受験組」がいた。
だからか、公立の中学に入ってくる連中は、・・・・少なくとも、1年生の段階では「高校受験」ってやつが、頭にはないんやろう。
中学1年の時は、小学校の延長のように、ただ、ワーワーキャーキャーと遊んでいた思い出しかない。・・・・まぁ、1学期しかいなかったけど。
体育祭が終わった、この段階。
少なくとも、ボクには、まだ、「高校受験」ってのが、ピンときてなかった。
・・・そして、どーやら、ここにも「ひとり」ピンときてないよーなのがいた。
紺野やった。
紺野の家は地元の名士だ。・・・大きな工場を経営してる。
お父さんがPTA会長を務めてる。
なんだか、その育ちからくるもんなのか、雰囲気が「馬耳東風」・・・・全てに関して、我関せずって態度や。
どっかヒョウヒョウとした感じで、緊張感や、切迫感・・・・受験生ってな空気が全くない。
中学2年で同じクラスになって・・・・なんとなくお互い嫌い合ってたんやと思う・・・そのまま3年生になった。
・・・ところが、3年生で、同じクラスに「志村」がいた。
「志村」は、大嫌いだ。・・・・・お互いに・笑。
そこから、敵の敵は友達ってことか、・・・・「反志村」で、みんなが団結したってことか、急激に一緒にいるようになった。
今も、音楽教室にふたりでいた。
・・・・もうしばらくしたら、みんなもやってくるやろうけど・・・・
「紺野、高校、どこ行くの?」
「下郷かなぁ・・・・」
1mmも興味がない・・・んな感じ。ギターを弾きながら答えた。
・・・・まぁ、そうだろうな・・・
正確に紺野の成績を知ってるわけやない・・・・それでもボクと同じくらいだろうとは察しがついた。
「下の中」 そんなとこやろう。
学区では、公立の普通高校が3校ある。
上沢高校
学区で一番の進学校や。
普通科があって、その上に特別クラスがある・・・そこかからは、毎年数人、東京大学へも送り込むってな、地元じゃ有名な進学校だ。・・・・ちなみに、ここに奈緒子先輩がいる。
中場高校
学区で、普通の高校。
中学校で、「普通」の生徒たちが進学していく。
まったく特徴のない。可もなく不可もないってな高校だ。
なーーーんとなく「イモ臭い」ってな感じや。
下郷高校
新設2年目という新しい高校だ。・・・・つまりは、今は1年生しかいない。
学区の普通高校としては、一番下の偏差値になる。
新設校ってことで、入試の偏差値をだいぶ下げてるって話やった。
基本的な学区の中では、こんなもん。
もちろん、通学時間を考えないなら、隣の学区にも、同じような高校が並んでる。
それから、他には、私立高校があった。
普通科は3校。
1校は、私立大学の付属高校。地元で、毎年甲子園に出場するってな有名スポーツ強化高校やった。
1校は、なーーんにも特徴のない高校。
そして、もう1校が、入試で自分の名前が漢字で書けて、入学金さえ払えれば入れますってな、なんとか、「高校卒」と履歴書に書けるために存在する高校。
このほかに、実業系・・・・工業高校、商業高校、農業高校があった。・・・・もちろん公立。
ボクが行こうと思っていたのも、紺野と同じ 下郷高校 やった。・・・・できれば、今から受験勉強を頑張って、1ランク上の 中場高校 に行ければいいなと思っていた。
大学には行きたいと思っていた・・・・行ければの話やけど。
世間的には、大学は行って当たり前って時代や。
今は、学歴社会の世の中だ。
何をするにも・・・・将来、どこの会社に入るにしても、何の仕事をするにしても「大学卒」の経歴がないと、スタートラインに立てないと思っていた。
走り始めるには、スタートラインに立たなきゃならない。
そして、スタートラインに立つには資格がいる。・・・・「大学卒」の資格がないと、この日本じゃスタートラインに立てないと考えていた。
・・・・もちろん、「どこの大学か?」って問題はある。
それは、わかってる。
でも、それは、高校に進学してから考えればいい。
高校へ行ってから「大学受験」は考えればいい。
・・・・ウチは母子家庭だ。びんぼーだ。
私立の大学には進めない。
行かせてもらえたとしても国・公立しかない。
だから、頑張って国・公立を狙うつもりやった。
・・・・もし、頑張っても、そこまでの成績にいかなかったら、その時は就職すればいい。
そう考えていた。
「実業高校」は、考えたこともなかった。
農業高校なんか、農家の子供でもないのに行く意味がない。
工業高校は・・・・進学する生徒がいない。高校就職するための学校だ。
商業高校も似たり寄ったりや。
商業高校が女子中心で、工業は男子が中心。それだけの違いやった。
グランドでサッカーをやってる生徒たちが見えた。・・・・野球部の関川たちや。
・・・・他の「窓際族」の生徒たちが集まってきた。
紺野をはじめ、数人がギターを弾いている。
沖永、南原・・・・ボクは、それを見ながら、どーでもいい話をしていた。
弾いているのは今時のヒット曲・・・・・思わず、みんなで口ずさむ・・・・
窓から、長閑な陽射しが入ってくる・・・・
毎日毎日、音楽室にいた。
「文化祭に出ようぜ」
誰が言い出したのか・・・・いつの間にやら、そんな雰囲気になってきた。
ギターは誰がやるんだよ・・・・??
ギターは紺野と東。
ベースは・・・どうすんだ?
ベースは南原・・・・ブラスバンド部長。・・・・ギターが弾ければベースだってできんだろ??
キーボードも決まった。
で、誰が歌うんだよ・・・??
ボーカルは高柳と沖永。・・・・・ギターを弾く気がなかったからだ。
・・・・・ドラムがいない・・・
ドラムは、どーーすんだ??
ギターもベースも、基本は同じだ。
ギターが弾ければベースも弾ける。・・・・鍵盤、キーボードだって、ギターが弾ければ考え方は同じだ。
・・・しっかし、ドラムは難しい。
ドラムだけは、楽器の中で「異質」や。
他の楽器のように「和音」とか、そういった、音楽の基礎になるものが全く違う。
それに、ギターは音楽室で触れるけど、ドラムセットってのは、なかなか触る機会もない。
んなことから、ドラムを叩ける人間は、なかなかいない。
どっから手をつければいいのかわからないのが「ドラム」って楽器や。
・・・・でも、バンドってなってくれば、「ドラム」が必要だ。
だけど、ドラムを叩ける人間なんて聞いたことないなぁ・・・・
・・・・どうすりゃいい・・・・思い浮かばない・・・・・
「わかった、じゃあ、ボクがやる」
えっぇえっっぇ~~~~~~~!!!???
ってことで、文化祭でドラムを叩くことになった・笑。
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