第41話 「先手必勝!か・・・」獣たちの蹂躙。



熱気・・・・声ひとつない。静かな・・・声のない女たちの熱気。



「全軍、騎乗!!」


総大将、上杉謙信、武田信玄の下知が響く。



赤と白。

両軍200騎からの騎馬武者どもの睨み合い。



両軍から総大将が単騎で飛び出す。


中央で相対す。


旗印をなびかせた、総大将、上杉謙信、武田信玄の睨み合い。



シーーーーーン・・・・静まり返った戦場。



「やぁやぁ我こそは・・・・・」



敵総大将、長田、武田信玄の口上。

興奮気味。微妙な擦れのかかった声がマイクを通して場内スピーカーから流れる・・・・


「武田信玄・晴信である・・・・古より・・・ピィ~~~~~!!・・・ガガガ・・・・」


そこにマイクのハウリングが響く・・・・

会場にびみょーな空気が流れる・・・・・笑っていいのか、悪いのか・・・・・・・・やっぱり笑っちゃダメなんだよねぇ・・・・



・・・マイクが近いや、アホが・・・・・・


声に出さずに呟いた。・・・横井たちの組んだ大将騎馬の上。


耳障りな、ハウリングの中で歪んでしまった長田の声が戦場を包む。

ボクは黙って長田の口上を聞いていた。


「・・・・今日こそ、その命頂戴するぅ~~~ピィ~~!!ガガガ・・・ピッピィ~~~~!!」  


熱気を帯びた時代がかった独特の節回し。・・・・・で、最後までハウリングまみれの声・・・


武田信玄の口上が締めくくられた。



・・・・・・・・・・・しばしの沈黙・・・・・・



いや、ボクが、あえてとった「間」や。


ここからボクの・・・上杉謙信の口上が始まる。


ボクも四角四面の口上は考えていた・・・・

でも・・・・ここは関西人の本領発揮や。



「まあ、口やったら、なんぼでも言えますわなぁ~・・・・・」



ベタな関西弁のイントネーションで返した。とっさのアドリブ。


場内が思わず吹き出す。

ハウリングでたまった笑いが堪えきれずに噴き出した。遠慮がちな笑いが起こる。



「ほな、ボチボチきばりまっかぁ~~?」


関西弁でたたみかけた。今度は、ドッと、堪えきれずに爆笑が起こった。

ドカン!と会場に笑いの渦が咲いた。

場内が一気にヒートアップしていく。



やったぁ~~~掴みはOKやぁ~~~


・・・・(注)完全にスベってたという意見もあり・笑。



総大将、互いが踵をかえし陣営に戻る。

・・・・と、我軍の隊列は見事に完了していた。攻撃準備は整っていた・・・・・ボクは思わず振り返った。敵軍を見た・・・・



・・・・敵軍。未だ隊列を整えたとはいえない状況。・・・・つまり整列準備中・・・・・



かんっぜんに油断している!!!



 今だ!!  一瞬の判断!



「攻撃隊、かかれー!」


先手必勝や!

ボクは軍配を振りかざし叫んだ!マイクに向かって叫んだ!!


我軍は・・・3年守備隊は完全に防御陣形を整えていた。きれいに一列に整列していた。

その前で1、2年隊が攻撃陣形をとっている。・・・・戦闘準備完了だ。

それにひきかえ、敵軍は、まだ、まったく体勢が整っていない。烏合の衆よろしくの状態だった。


「かかれ、かかれぇーーーーぃ!!」


上杉謙信の下知に、会田1年大将が突撃を開始しようとする・・・・


・・・・・が、・・・が・・・


先手必勝!

まさしく、そう言えた!!


・・・・・はず・・・・・だった・・・・・のだ、が・・・・


我軍の攻撃隊は、会田の1、2年隊だ。


だけど、2年隊の4割ほどは、河本隊・・・・真の意味での攻撃隊主力となっている・・・・敵、本陣への攻撃部隊だ・・・・・突撃途中で分かれる作戦だった。そのため河本隊は攻撃隊後方に位置している。

つまり、先陣はまったくの1年隊だけだった。



敵軍、体制整わず、先手必勝。



そのとおりだ・・・が・・・・


敵軍、体制整わず。


それは、先陣の1年隊の目前で、敵軍が一塊になっていることを意味する。

敵の1年隊、2年隊、3年隊、その全軍が展開しているようにも見える。


シミュレーションでは・・・・この段階で、敵は1年隊、2年隊、3年隊の各隊に分かれているはずだった。その攻撃第1隊がこちらに対峙しているはずだった。


だから、我軍は、それにめがけて、1年隊、2年隊の合同攻撃隊が攻めかかる。

そうすれば戦力比、敵軍1に対して我軍2。圧勝とふんだ。


ところが、敵軍の体制は整わず烏合の衆・・・・・固まったまま・・・つまり一塊。

・・・・ってことは全軍終結ってことにもなる。目の前に100騎の騎馬が一塊だ・・・・・


・・・・・・1年隊に「恐怖」という動揺が走っているのが見えた。


いや~な感じがした・・・・・


「突撃――!」


意を決した1年大将、会田の気合!


会田の指揮する1年隊、2年隊が、恐怖を乗り越え突撃していく。


・・・・・・しかし、しかし・・・・なんだか浮き足立ってる・・・・・・しかも、2年隊の主力、河本隊は次の展開を考えているわけで、この突撃には攻撃の意思がない。・・・・ただ、後ろで追従してるだけだ・・・・


結果として、1年隊の全て、2年隊のほぼ半数といった数で、敵の全軍への突撃という状態になってしまった。

だから、その兵力差は我軍1に対して敵軍2。


しかも、こちらは、1、2年隊だけ、3年隊が参加していない・・・・・・



半数の兵力で・・・・さらに、体力的に優れた敵に突撃せよ!



・・・・・浮き足立って当たり前・・・・・・



すぐに合戦が始まった。



我、謙信の目前には3年守備隊が展開していた。・・・・1列に整列して我を守っている。


この「戦」は、総大将の持つ旗印を奪われた方の負けだ。


3年隊は、我を討とうと向かってくる敵軍を木っ端微塵にすべく、手ぐすね引いて待っている。

さらに、我の周りにはぐるりと親衛隊が囲っていた。


そこから戦況を見つめる。


最初こそ敵軍は意表を衝かれた態だった。・・・・が、しかし、すぐに数を頼みに落ち着きをとりもどした。

そうなってしまっては、もともと浮き足立った1年隊中心の我軍は、敵軍に飲み込まれていくだけだった・・・・


河本隊は、隊としての陣形を整えながら敵総大将を狙う。・・・・しかし、元々、敵総大将が裸になったところを討つ策だった。・・・・少なくとも、敵本陣が、親衛隊のみになるまで待たねばならない。

まだ敵軍は一塊のままだ・・・・武田信玄公は最後尾に陣取っている。しかも手厚い親衛隊に守られている。・・・・よって、河本隊は、なす術なく、ただ観戦、傍観しているだけになってしまっていた。


・・・・が、そのうちに敵に攻撃され、戦に引きずり込まれてしまった・・・・



「・・・・うう・・・・む・・・・・・不味いわ・・・・」



これでは、いたずらに兵力分散を行なっただけだ・・・・

1年隊中心の攻撃隊を犠牲にしただけ・・・・しかも先鋭部隊の河本隊まで「戦」に引きずり込まれてしまった・・・・・このままでは最悪の結果となってしまう・・・・



どうする・・・・・? ・・・・・どうしたものか・・・???


「仕切り直されるがよろしいかと・・・・」


総大将の馬であり、参謀総長の横井が意見具申をしてくる。



「退けー!」


叫んだ。


飲み込まれた1年隊、2年隊の消耗が激しい。

もうバタバタと・・・・それこそバタバタと倒されていく・・・・・

このままでは河本隊まで失うことになる。いったん、体勢を整えねばならん・・・・


「退けー、退けぇ――!」


1、2年隊は倍する敵軍のなかで恐怖の中にいた。・・・・それでも、奮闘している。


倍する敵軍に突撃。・・・・最初こそ優勢を保った・・・が、しかし、すぐに一塊の敵、倍する敵に包囲されてしまった。

敵軍包囲の中、1騎・・・・また1騎と打ち果たされていく・・・・潰されていく・・・・・すでに隊としての組織的な攻撃は不可能となっていた。各騎の判断による戦となっていた。・・・すでに殲滅の危機ですらある。


「退けー、退けぇ――!」


スピーカーから我の下知が叫ぶ。


が、しかし、当然、退却も隊としては行なえない。各騎の判断となる。

バタバタと倒され、ただでさえ数が少なくなっていた・・・


・・・・そこでの退却命令だ・・・・・生き残った騎馬、全てが、一斉に敵に背中を見せてしまった・・・・・・



「いかん!・・・・・いかんわ!!!・・・・・」



敵が・・・・敵が、その背中に向かって飛び掛ってきた。

敵軍には、隊としての動きはなかった。


「逃げるものを追う」


動物の本能としての追撃戦が始まった。

1、2年隊は、壊走状態となり退却してきた・・・・退却・・・・・否、ただ逃げまどっているだけだ。・・・・3年生に追いかけられ逃げまどう1年生・・・・

意味なく、いたずらに潰されていく1年隊・・・・・すまぬ会田・・・・


河本隊は隊として機能しながら退却していた。まだ、河本隊は敵陣に深く入っていなかった。・・・・それでも危うい状況だ。・・・・すぐ後ろに敵!!


「こっちだーーーー!!」


本陣の右を指差し叫んだ!河本と目が合う。通じた。なんとか、本陣の右翼に回避させる。


・・・・が、壊走状態の1、2年隊は追う敵軍に呑まれていた。・・・・目の前で会田の1、2年隊が蹂躙されている・・・・・すぐに全滅といった状態になってしまった・・・・凶暴な獣たちが散々に、我1、2年隊を食い散らかしている・・・・・



「・・・・しくじったわ・・・・・」



先手必勝。

先手をとったがための失策。



敵軍が、わが軍の1、2年隊を蹴散らした。思う存分蹂躙した。士気が上がっている・・・・組織も、指揮もない。ただ、凶暴なエネルギーの塊と化している。



・・・・・凶暴な獣たちが、その勢いのまま、我本陣へと向かってくる・・・・



目前。一列になり3年守備隊が防御陣を張っている。


もともと敵軍の1、2、3年隊の波状攻撃を想定しての、3年隊のみの防御陣だった。・・・・それであれば、その局面で戦力比は1対1。こちらが3年隊であるぶん、我軍圧倒的に有利。


ところが、そこへ、勢いに乗った敵全軍・・・・しかも、士気が上がり切った軍勢で突入されては、さすがの3年隊とはいえ守り切れるものではあるまい・・・・



敵が、凶暴な獣が目前に迫る!



その・・・・その・・・・凶暴な獣、敵軍、全軍・・・・全員が、狙っているのは・・・・・ひとえに我だけだ。

ただ、我の命、この謙信の命だけを狙ってくる。



カッと目を見開く。敵軍を見据える。



凶暴な獣の徒がヨダレを垂らし、謙信ひとりに狙いをつけて責めかかる!!!


目前。3年隊が気を充満させて待ち構える。

凶暴な獣、全てが駆けてくる!!


もはや、敵軍には軍としての陣形も、秩序も何もなかった。

突撃!!ただ、それだけ。


山があるから登るのよ。川があるから泳ぐのよ。



ドッカーーーーーン!!!



敵軍が一塊となって我が防御陣、3年隊に突撃してきた!


衝撃! 圧力! 

目前、我防御陣と凶暴な獣との「戦」が展開される。

怒号!肉体のぶつかり合う音、音、音、音!


突撃してきた獣は、防御陣に包まれるように包囲され叩き潰される。


目前で、周囲で、阿鼻叫喚、狂乱乱舞の地獄絵巻が展開されていく・・・・


騎馬の潰れる断末魔の悲鳴。そして骨がぶつかる音。弾幕のように砂塵が舞う。




・・・・・耐えられるのか・・・・・凌げるのか・・・・・わが命・・・・・もはや、これまでとなるのか・・・・・





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