第40話 「御曹司 VS 関西人」川中島の騎馬戦。
快晴だ。
体育祭当日を迎えた。
数々のプログラムが消化されていく。
「騎馬戦」は、最終種目だ。
体育祭の「華」だ。
伝統行事だ。
・・・・出番が迫ってくる。
校舎内。
ボクは・・・・ボクたちは控室になってる教室にいた。
上杉謙信陣営。首脳部全員が教室に集まっていた。
騎馬戦には数々の準備が必要だ。
演者の控室よろしく、誰もいない教室に集まって準備をしていた。
最後の打ち合わせ。
・・・グランドから「体育祭」の喧騒が聞こえてくる・・・・
校舎の中は静かだ。
今、この校舎内にいる生徒は、上杉謙信陣営、武田信玄陣営の両首脳部だけだ。
同じように、武田信玄陣営も、どこかの場所で出陣の支度をしているに違いない。
純白の鎧兜を身に着けていく。
各学年、大将のみが鎧兜の装束を許される。
剣道部から借り受けた防具を基に、装飾を施した武具を身に着つけていく。
1年大将、2年大将が、兜に、防具に「白」を施しただけの簡単なものであるのに対し、3年、総大将は兜、肩垂れ・・・・凝った装飾が施されている。
軍配、そして純白の軍旗。旗印は「毘沙門天」の文字。
この旗を奪われたら、この戦は負けだ。
身支度を整えて椅子に腰かける。
鎧武者が3人。
各馬役を兼ねた参謀9人。
総勢12名の首脳部だ。
今さら、あらためて言うこともない。・・・・時間もない。
全ては何度も打ち合わせてきた。
軍議を重ねてきた。
緊張感もない。・・・・陸上の「大会」から比べれば、チリほどの緊張もない。
・・・・笑顔があった。
なんだか、「家族」のような雰囲気になっていた。
「兄弟」の雰囲気になっていた。
「軍議」と称しての集まりは毎日のように行われた。
「騎馬戦」の話はもとより、学校の事、部活のこと・・・・恋愛のこと・・・・いろんなことを話した。
大家族の「兄弟」のようになっていた。
緊張感もない。
出番を待って、控室でみんなで談笑する。
長いようで短かったな・・・・こうやって集まるのも今日で最後か・・・・
・・・・窓から、ノーーーンビリとした陽射しが入ってくる。
微かに「体育祭」の喧騒が聞こえてくる。
・・・・馴染んでいた。
転校当初は虐められた。
去年だって「トラッキー騒動」があって・・・・「タバコ騒動」もあった。
今は、静かだ。
すーーーっかり、この田舎の中学校に馴染んでいた。
もう、「虐め」の片鱗もなくなった。
目の前で、柔道部の横井がつまんない話をしてる。・・・・それにみんながケタケタと笑っていた。
ノーーンビリした日だ。体育祭日和だ。
平穏な日々だ・・・・・
毎日、毎日、連れ立って登校してくる志村は気に入らないけどな・笑。
・・・・・そして、学校を牛耳ってる、バスケット部にバレー部も気に入らない。
その筆頭の、長田は・・・・
地元有名企業の御曹司。
バスケット部キャプテン。
成績優秀。
完全無欠の生徒会長。
・・・・恵まれた家庭環境。
・・・・・しかも、長身・・・・・イケメン・・・・・
ワーキャー・・・・と、女どもの嬌声の的・・・・
学校内、気に入らない選手権のグランプリだな・笑。
そして、それは、ボクだけの思いじゃない。
ボクたち、学校内「その他大勢」組にとっては、最も気に入らない相手だ。
そして、我が軍は、今や「その他大勢」組の希望の星だ。
多くの「その他大勢」組の想いを背負った陣営だ。
・・・・だから・・・勝たねばならん。
ドアがノックされた。
体育祭実行委員の生徒が顔を出す。
時間だ。
立ち上がる。
鎧兜。白装束の武者たちが立ち上がった。
我が軍、首脳部が立ち上がった。
全員の視線が集まる。
上杉謙信が憑依した・・・・
神妙な顔で口を開く。
「各々・・・・では、参るぞ・・・・」
全員が頷いた。
・・・・そこで、ニヤっと笑った。
「おーーーし。生徒会長、長田をぶっ倒しにいくで!!」
拳を突き上げる!
「おおぉ~~~~!!!」
教室を駆け出していく。
グランド。
総勢840名の男子生徒が二手に分かれて入場していく。規律正しい入場行進だ。・・・・当たり前だ。行軍だ。
各大将のみが騎乗だ。
1年大将・会田の騎馬が1年隊を引き連れて入場していく。
2年大将・河本の騎馬が2年隊を引き連れて入場していく。
あちこちで、静かな嬌声が上がっている。
・・・・・女子生徒たちは、この時初めて、各大将の正体を知ることになる。
抑えた・・・・溜息にも似た嬌声が上がっている。
派手な声は上がらない。
この「騎馬戦」は伝統行事だ。軽々しく黄色い声を上げてはならない。
会場の騒めき。
グランド全体を覆っていく静かな嬌声。
・・・・たまに洩れるような黄色い声があがる。
1年隊、2年隊・・・・その後ろ。ひと際鮮やかな装飾を施された3年総大将。
ひと際立派な体格の3年生、その全員を率いて、いざ、入場をはたしていく。
ボクは、横井たちの「馬」に跨り、1年隊、2年隊の後を進んでいく。
右手に軍配。背中にたなびく「毘沙門天」の旗印。
・・・・・誰・・・・?・・・・・誰・・・・・・?・・・・・誰・・・・・・?・・・・
右から、左から、女子生徒たちの囁き声が上がっている。その中を騎馬を進めていく。
各大将は、鎧兜に包まれている。・・・・顔がわからない・・・・誰だかわからない・・・・・
・・・・水上くんだ・・・・・水上くんだ・・・・・・水上くんだって・・・・・
伝言ゲームのように、観客席、女子生徒たちの中にボクの名前が伝播されていく。
その囁き声に包まれながら入場していく。
囁きが抑えた嬌声に変わっていく・・・・溜息交じりの熱気が伝播していく・・・・
充満していくのがわかる。
1年大将、2年大将、3年総大将の人事が明るみに出た。
会場全体に・・・・観客席全体に、女子生徒全体に、マグマのような熱気が充満していくのがわかる。
会場のボルテージが上がっていく・・・・熱気、視線が肌に突き刺さってくる。
両軍の整列が完了した。
観客の熱気。微かな騒めきの中。両軍が対峙する。
眼前に広がる敵。真赤な軍団。
1年隊、2年隊を左右に従え、中央に真赤な鎧兜の装束。
武田信玄公・生徒会長・地元名士の長田。
「風林火山」の旗頭がなびく。
同じように、我が軍も左右に1年隊、2年隊を従えた。純白の軍団。
中央。真白な鎧兜の装束。
上杉謙信公・関西人・夜逃げしてきたボク。
「毘沙門天」の旗頭がなびく。
両軍の睨み合い。
会場から音が消えた。嬌声が消えた。
シーーーーン・・・・擬音が聞こえるような静寂に包まれた。
戦場を静寂が支配した。
観客席。女子生徒たちの熱気がゆらいでいる。
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