第38話 「県大会」タカラヅカと再会。



県大会が行われた。


県立陸上競技場。


県庁所在地にあった。

住んでる場所と違って大都市やった。


・・・・高いビル。・・・長いアーケード・・・・広い道路・・・・なんや、雰囲気だけで圧倒された。




晴れてる。

よーく、晴れてる。




ボクは200mのスタートラインに立っていた。午前中。予選や。


スタートブロックを叩きつけた。



・・・・県立陸上競技場は「アンツーカー」やった。

地面が「全天候型」、ゴムで舗装された地面や。


天候の影響を受けない。


「アンツーカー」には、それ用のピンがある。

「土」の地面とは違って、あまり刺さらないように、先が尖ってないピンや。


「土」の路面と違って滑らない。・・・・走りやすい。



コース脇には、いつものように出水が立っていた。



スタート練習。

スタートブロックに足を乗せる。


スタート姿勢。


GO!


市大会と同じ。

50mを走って、振り返った。


・・・・各選手を見回し睨みつける・・・・・


そんな気にもなれなかった。


・・・なんや、雰囲気が違っていた。


市大会とは、明らかにレベルが違う、世界が違う・・・・そんな空気が流れていた。


並んでるみんながみんな、各地域を勝ち上がってきた選手たちや。

ボクの付け焼刃の「こけ脅し」なんかが通用する雰囲気やなかった。



・・・・スタート位置に戻る。



晴れだ。

快晴だ。

かんっぺきな、清々しい青空だや


不思議と緊張もなかった。



スターターの手が上がる。



「位置について」


「お願いします!!」


みんなと同じに、スタートブロックに足を乗せた。



「よーい」


腰を上げる。



号砲。



走り出す。



・・・・曲線100mが終わって、直線コース。

前にいくつもの後姿があった。



そのままゴールラインを駆け抜けた。



終わった。



突然の雨もなかった。・・・・・ずーーーっと快晴のままやった。


「ピン」を替えることもない。・・・・・「アンツーカー」の路面や。


奇跡の起こりようがなかった。



アッサリと。

県大会は、アッサリと予選敗退で終わった。



悔しいも、緊張感も、何もなかった。


市大会優勝。

200m 市チャンプ。


とはいっても、優勝タイムは遅いものやった・・・・まぁ、グランドコンディションがすこぶる悪かったってのは、あったけど・・・・

それを指しい引いても、ボクのタイムは、とても優勝タイムとは思えないものやった。


時間が経てば経つほど、冷静になればなるほど、あの「優勝」は、全くの奇跡やったと思えていた。


神様からのプレゼントやった。


そうとしか言いようがない。



・・・・・何よりも・・・・・「燃え尽きた」って感じが大きかった。


どこか、虚脱状態のような感じやった。


なんやろう・・・・長かった・・・・・張り詰めていた糸が、プッツリと切れてしまった・・・そんな感じ・・・・


「抜け殻」のような感じやった。


もちろん、悪い意味じゃなく。

充足感・・・・・満ち足りたような・・・ノーーンビリとした感じに包まれていた。


なんだか、穏やかな日が流れていった・・・・・



県大会。

200m 予選敗退。



なんの感慨もなかった。


「負けた」って気持ちもなかった。


県大会が終わった。


それだけやった。




県大会終了。


ボクはバスで帰る。

出水たちは電車やった。・・・・あと、自転車のヤツも。


みんなと別れて、ひとりでバスターミナルに向かった。


県庁所在地や。ずいぶんな都会や。


いったい何路線あるんやってな、駅前の巨大バスターミナルで帰るバスを確認する。

バス乗り場に向かう・・・



目の前・・・・ひとりの女の子の後姿・・・背が高い・・・どこか見覚えがある・・・



足の長いジーンズ姿が振り返った。高校生になった奈緒子先輩やった。カチっとした雰囲気の服装や。



「おめでとう」


・・・え???


「優勝したんでしょ。後輩から聞いてるよ」


ありがとうございます・・・


ボクが163cm・・・ボクよりはるかに背が高い。中学校の時も高かったけど、さらに高くなってないか・・・・10cmは違うような気がするわ・・・・



私服姿を見たのは始めてや。

奈緒子先輩は、県下で有数の・・・毎年「東大」へ数人を送り出す高校に進学していた。

しかも、さらに成績優秀な「特別クラス」への入学やった。

中学校で3番までの成績やないと、受験すらさせてもらえないって高校や。男子7割、女子3割ってな比率。


地元の駅前で何回か制服姿の奈緒子先輩を見かけたことがある。いつも、数人の男子生徒と一緒にいた。

そのメチャクチャ進学校の生徒たちにしては、珍しく着崩した制服の恰好をした集団やった。その中での「紅一点」や。それで背が高い。ひときわ目立っていた。


中学校では「目礼」だけやったけど、その頃には、挨拶くらいはするようになってた。・・・・っても知り合いって程度だよな。



ここは近場の一番の都会や。・・・そして私服姿・・・


「デートですか・・・?」


思わず聞いた。


「デートじゃないんだけどね・・・・」


同じバスに乗った。並んで座る。



窓の外。

ビルを縫うような広い道路をバスが走ってる。



「家に帰ってたんだ・・・」


奈緒子先輩の家は、ここ県庁所在地の都会にあった。


・・・・え?・・そうなんですか・・・・


なんだか、とても複雑な家庭環境らしい・・・

・・・それが奈緒子先輩の「翳」の原因やったんか・・・



バスが国道沿いを走ってる。都市部を抜けた。・・・・田畑が広がってきた。・・・・遠くに山々が見えた。

なんだか、ホッとしてくる・・・・



奈緒子先輩は、都市部の実家を離れて、ボクたちの地元にある叔母の家から中学校に通っていた。高校も、そこから通っている。

週末とかは都市部の実家に帰る。その実家から叔母の家に戻るところなんだと言う。



降りるバス停も一緒やった。



・・・・それから、ふたりで会うようになった。


映画に行った。


ゲーセンに行った。


ボーリングに行った。


海にも行った。


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