第37話 「風が変わった・・・」生徒会長に睨まれる。
全校生徒集会。
各部活の表彰式が行われていた。
壇上で、校長先生から紹介され、表彰状を受け取る。
表彰者の列に加わった。
前回・・・去年も、ここに立った。
去年はリレーの優勝者として・・・・でも、ボクはバトンを落としただけで・・・・みんなの足を引っ張っただけで・・・・どこか居心地が悪かった。・・・・ここにいるべきじゃない。そんな感じがしていた。
今回は、自分自身の・・・個人競技、200mでの優勝だ。気後れすることもない。胸を張って壇上に立った。
壇上で表彰されるのは3位までや。
それでも、この中学校は部活動に力を入れている、表彰者の人数が多い・・・・そもそも、生徒数が多い。田舎とはいえ、都市部のマンモス校や。
バレー部キャプテンとして志村も壇上にいた。
野球部キャプテンの関川もいた。・・・・ボクの隣に立ってた。
反対側の隣には、同じ陸上部の本木が立ってる。
なんとなく、同じクラスとしての連帯感はある。・・・・志村のことは相変わらず大嫌いやけど・笑。
・・・・志村が隣の生徒と何か話している・・・・・顔は正面を向いたまま・・・笑顔で何かを囁き合ってる・・・
・・・・視線を走らせた。
志村の隣・・・・バスケット部キャプテンの長田や。
県会議員の息子。
地元有力企業の御曹司。
バスケット部だけあって長身。
もともと強かったバスケット部を引き継いだ。
地元の、サラブレッド中のサラブレッド。
家系は、この地の武家の血筋だってことやった。
家には、ご先祖の「鎧兜」が飾ってあるらしい・・・・・友達じゃないので行ったことはない。聞いた話ってことや。
しかも、成績優秀。
文句なしの生徒会長やった。
長田と目が合った。
睨まれた・・・・ような気がした。・・・・というか、どこか小バカにされたような表情。
「ああ、お前が、あの水上か・・・・?」
そんな嘲笑が見えたような気がした。
志村と何やら話している。
バレー部と、バスケット部は、体育館の部活、しかも、両方とも強豪ってことで仲がいい。
志村と長田も仲がいいんだろう。
志村と仲がいい・・・・しかも、恵まれた家庭環境の地元有名御曹司・・・・・・・・ボクが好意的でいてやる理由はない・笑。
・・・・少なくとも、仲良くはなれないなぁ・・・・
まぁ、長田の方で願い下げやろうけどな・笑。
「凄かったらしいな・・・・」
隣の関川が前を向いたまま言った。
ボクの優勝のことを言ってるんやろう・・・・
「雨で・・・スパイクのピン替えたんが当たったんや・・出水が替えてくれた」
ボクも、前を向いたまま答えた。
なんとなく、関川と話すようになっていた。
クラスは「志村派」と「反志村派」に分かれていた。
「反志村派」の、急先鋒が関川やった。
この学校は、バレー部、バスケット部、野球部の、3派閥で回っている。
バレー部と、バスケット部は仲がいい。
クラスの中でも、そのまんま。・・・・志村が中心になって、クラスのことを強引に決めようとする。
そこに「No」を突き付けたのが関川や。
あの、ホームルームのサッカーから、関川と話すようになった。
別に、特別仲がいいってわけやない。
関川の家も、地元に根を張った「名士」の家柄や。・・・・しかも、野球部のエースで、キャプテン・・・・そのうえ、成績は、学年ヒトケタ。・・・・ボクなんかの、クラスの窓際族とは釣り合いがとれない。
ところが、同じ陸上部の本木が、関川と仲が良くて・・・・小学校から仲が良かったらしい・・・・そんなこともあって関川と話すようになっていた。
成績、学年ヒトケタの関川と、(逆)学年ヒトケタの本木が、なんで仲がいいんだか・・・・笑
まぁ、野球部と陸上部も、同じグランド部活組ってのはある。
何より「反志村派」ってことなんやろう。
・・・・しっかし・・・・
中学校から転入してくると、それ以前の「人間関係」は、わからない。
中学校の人間関係は、小学校延長線上にある。
小学校は、幼稚園からの延長線上。
そんな・・・・そんな、人間関係がわからないままに・・・・ましてや、言葉も違うところから、その人間関係に入っていくのは、相当に難しい。イザコザは起きる。
・・・・そして、そこに田舎の「排他性」が加わると、もう絶望的だ。・・・・しかも、大阪という大都市からの転校生。・・・・受け入れる方は、面白いはずがない。
新参者。余所者は虐められる。
1年生の途中から転入してきた。
言葉は通じす・・・・生徒たちの会話に入っていけない。・・・・先生の言葉すらわからない。授業がわからない。落ちこぼれた。
大阪・・・都会からやってきたボクは、異邦人・・・・宇宙人やった。
「嘘つき」と決めつけられた。
「関西弁」をバカにされ、虐められた。
クラスに居場所はない。
昼休み、教室を出て一人で過ごした。
壇上から、体育館を見渡した。
体育館からグランドに出る出口がある。
今は扉が閉じられているけど、普段は解放されている。
扉からはグランドに降りる・・・・4段くらいの階段がある。
クラスに居場所はなかった。
・・・・いつも、その階段に座って時間を潰した。
誰もいないグランドを見て過ごした。
・・・・そのうちに、弁当を食べた生徒たちがやってきてバスケットを始めたり、バレーを始めたりする。
毎日、一番乗りで体育館へ・・・・・出口の階段に座っていた。
・・・・すぐに、ひとりの女子生徒がやってくる。
制服のまま、スカートのまま、ひたすら、バスケットのフリースローを繰り返していた。
背が高い。・・・・ボクより長身だ・・・・170cmは超えてる・・・・
サラサラのショートカットに、切れ長の目。意思の強そうな、キっと結んだ口元。
・・・・・すぐにわかった。
同じ空気がしていた。
「異邦人」の空気や。
この地に根を生やしていない。「余所者」の空気やった。
彼女も虐められてるのか・・・・でも、そんな風には見えなかった。・・・・何か、ボクにはない、強さを感じた。
来る日も来る日も彼女はやってきた。
見るともなしに・・・・視線の隅で見ていた。毎日見ていた。
・・・・たぶん、ボクが来る前からの彼女の日課やったんやろう。
そのうちに、目礼くらいはするようになった。
・・・・・・体育館に生徒が集まってくる頃に、彼女はいなくなる。
彼女は、バスケット部だった。学年は、いっこ上。
ボクが2年生だった去年は、3年生でキャプテンやった。
背が高く、キリっとした彼女には、男子生徒には近寄りがたい雰囲気があった。・・・・だけども、女子生徒たちからは圧倒的な人気があった。・・・・特に、後輩女子から・・・・タカラヅカに憧れる女の子心理ってとこなんか。
「バスケ部の、奈緒子先輩カッコいい」
クラスで何度も聞いた。
壇上から、全校生徒が見えた。
陸上部の壮行会。表彰式・・・・何度かの経験もあって、慣れてはきた・・・・いや、慣れない・・・・ただ、なんとなく、落ち着いて見渡すくらいの余裕はできてきた。
「虐めが止んでいた」
ピタリと止んでいた。
2年生になって、陸上部に入ってからは沈静化していった。
それが、トラッキー事件から再燃して・・・・・ダラダラと、小さな嫌がらせが続いていた。
それがピタリと止んだ。
元々目つきが悪かった・・・・その育ちから、どこか、斜に構えてモノを見るクセがついてしまい、そのクセが目つきに表れていた。
それが、陸上を始めてから「鋭い目」に変わってきていた。
同じような目つきが・・・・心の「ヘドロ」が浄化されるにつれ「目つきが悪い」から「鋭い目」に変わってきていた。
・・・・全体に、顔つきが変わってきているのは自分でも感じていた。
「虐め」がピタリと止んだ。
・・・・・それどころか、風向きすら変わってきているのを感じていた。
学校内での、ボクを見る生徒たちの目が変わってきているような気がしていた。
壇上から、全校生徒が見渡せた。
陸上部の後輩たちの姿も見えた。
・・・・ボクは2年生から陸上部に入部した。・・・1年生と一緒に新入部員として過ごした。・・・それもあってだろう、他の2年生より、彼らには近い存在なんやと思う。
よく声をかけられた。
そんな後輩たちからの視線が眩しかった。・・・・なんだか照れてる。
隣で、本木が、笑顔で微かに手を振っている。・・・・誰に手振ってるねん・・・・ったくアホやねんからな・・・・
「県大会、頑張れよ」
隣で関川が言った。
頷いた。
陸上200m 市のチャンプになった。
県大会に進む。
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