第30話 「ラストスパートの源泉」最後の大会。



中学生最後の「市大会」が近づいていた。・・・・もちろん、ここで優勝すれば「県大会」に駒を進める・・・・そこで勝てば、さらに「北陸三県大会」

・・・・でも、そこまでいけるはずもない。市の大会での優勝とかもあり得ない。


単純に、この大会が、中学生最後になるんやろう。


出場種目は100m、200mに決まった。




走っていた。


3年生になったからといって何も変わらない。

相変わらず村木の背中を追った。



陸上部の練習場は、校庭の端にある。

校庭は、一辺が120m×100mくらいの長方形。その端に、直線120m×4コース分がきれいに整地してあって、陸上部の練習場になっていた。

そして、あとは、野球部、サッカー部、テニス部のグランドになっている。


陸上コースのスタート部分が野球部と隣接していて、中間部分がサッカー部、そして、ゴール部分にテニス部が隣接していた。


テニス部の部分にはネットが設置されていて、常設コートになっていた。

テニス部は男子、女子に分かれて練習していて、陸上コースと隣接している方のコートを女子テニス部が使用していた。



・・・・んで、テニス部には可愛い娘が多いと評判やった・笑。



確かに可愛い娘が多い・・・・この中学校の美少女ランキング、トップ10をテニス部が独占していた。




スタート位置に村木と並んだ。


スタートの部分が、野球部のライト後方や。たまに、ボールが飛んできた。

だから、ライトの守備は責任重大で、エラーでもしようものなら、陸上部へボールが転がってきてブーイングの嵐になる。だから、ライト・・・外野の球拾いの1年生たちは、他のポジションよりも真剣にボールを追っていた。


野球部のグランド越し・・・・ホーム側には体育館が見える。



・・・・・高原 舞 のいる体操部がある。


また、同じクラスになった。

それでも、相変わらず話すことはない。


今は、高原に対して特別な想いはない。



・・・・いや、ある。


ないってことはない。


ボクが陸上部に入る背中を押してくれたのは高原や。


今でも・・・・今でも・・・練習中、つい、体育館を見て、自分を鼓舞してることがある。



「高原も頑張ってるんや、と」



同じ大阪から、この田舎町に転校してきた高原も頑張ってる。


それが、どこか・・・・なんだろう・・・・励みになるってのか・・・・そんな気持ちはあった。


あんなことになって、あれ以来、話すこともできなくなったけど・・・・どこかで、何か、繋がってるような気がしてた。

どこか、高原の存在が、ボクの支えになってる気がする。


「好きだ」


そんな気持ちとは、ちょっと違う・・・・姉弟に近いような感情・・・親族に近いってのか・・・・そんな気持ちがあった。




「GO!!」


村木と並んで走り出す。


スタートダッシュは野球部の部分・・・・・村木に離されない。並走。・・・・それでも村木は90%でテーマを考えながら走っている。ボクもテーマは考えてはいる。それでも全速力や。100%や・・・・・それでようやく村木と並走できた。


中間走。サッカー部の部分・・・・・村木に離されそうになる。ボクはこの中間走が弱い。・・・・どうしてもダレてしまう。

・・・・ついていく、ついていく・・・・離されないことで精一杯だ・・・・メインメニューのテーマなんかどっかに飛んでしまう。



・・・・そこを走り抜ければテニス部の部分や。



ラストスパート!


ボクは、意図的にスパートをかけ、それまで以上の全力疾走に移る。・・・・村木に並ぶ・・・・村木を抜きにかかる。・・・・村木がアクセルを踏み込んで抜かせない。



女子テニス部の脇を、二人並んで走り抜ける。



最後の最後のラストスパート!・・・・抜く、抜かせない、抜く!抜かせない!・・・・二人の意地がもつれこむようにそのまま並んでゴールライン!

・・・・さらに、急に止まることもできずに突き当たりまで余力で走り抜ける。



ガシャーーン!



突き当たりは校庭を囲む金網になっている。金網にブチ当たるようにしてボクたちは止まった。



・・・・・はぁはぁはぁはぁ・・・・



息が切れていた・・・・

村木は、金網に指を絡めるようにして上体を支えていた。肩で息をしている。

ボクは両手を両膝において、崩れそうになる上体を支えていた。

足元を見ていた、汗がオニツカタイガーのスパイクに落ちていく・・・・



「もしも・・・もし・・・・」



村木があえぎながら言う。


・・・なんや・・・?なんや村木・・・・何を言い出す・・・・???



「・・・・もし・・・・スタートとゴールが逆だったら、ラストスパートはきかないかもなぁ・・・・」



・・・・・そうかもなぁ・・・・イ、イテテテ・・・・



笑いと、深呼吸でボクの腹筋はひきつりそうになった。

この、いつも何を考えているかわからないムッツリ村木は、たまーに、真面目な顏をして、メッチャ、ツボに刺さることを言う時がある。


・・・イテテテ・・・イテ・・・


メッチャ、ツボにはまった・・・・ヒクヒクと、笑いがこみ上げる・・・腹筋が・・・わき腹が痛い・・・


・・・イテテテ・・・



確かに、女子テニス部のこの場所での存在は、陸上部のラストスパートの練習には、多大な貢献をしてたかもしんない。



美少女揃いの女子テニス部に隣接するコース。ゴールライン。


誰だって力が出るって・笑。



陸上部に入って無我夢中の1年が過ぎた。

ボクにも周りを見る余裕ができてきていた。



・・・イテテ・・・・


呼吸を整え、ひきつる腹筋を押さえながらテニス部を見た。



・・・・・スマッシュを打つ 中沢美貴 がいた。



同じクラスになったことはない。


洗練された大きな瞳。陽に照らされて、他の生徒たちより茶色になびく髪が印象的や。真白なテニスウェアに良く映える。

美少女揃いのテニス部には・・・・美少女というより「美人」といった大人びた女の子が多かった。

そんな中で、中沢の「可愛い」はひときわ目立った。



ボクにとってのラストスパートの源泉は、間違いなく 中沢美貴 やった。





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