第22話 「生徒指導からの呼び出し」豆鉄砲をくらった鳩を見た・笑。



学校内の小部屋。

小会議室のようなところに呼び出された。


目の前にオカマ野郎の音楽教師がいる。・・・・・ふたりだけや。



髪の毛を7・3に分けてる。音楽教師に見えない、いつも常識的な背広を着ていた。


美術の先生。音楽の先生・・・・どこの学校でも、どこか芸術家の匂いがしてるもんだ。

どこか、学校運営とか、そういったことと無縁の感じがしてる。


・・・・が、この教師には、そんな芸術家の匂いが全くなかった。



学校の先生は忙しい。授業に、部活・・・・だからやろう、動きやすいカッコで動き回ってる。


その中で、この音楽教師は、いつも、ちゃんとした背広姿だ。・・・・スーツじゃない。背広姿。


音楽教師ってより、若作りをした小役人って感じだ。

だから、生徒指導なんかをやってるんやろうけどな。


実年齢がよくわからない。

50歳といえば50歳だし、40歳といわれても、そうかもな・・・・


ノベっとし間延びした顏で、頬がピンク色や。・・・血色がいいってのか・・・・ヤラシいって顔つきってのが正しい。・・・・・しかも、そのヤラシさは「オカマ」っぽいって方向や。


・・・・ついでに言えば、この中学校には、女子生徒をターゲットにした、正真正銘の「ヤラしい」教師もいた。


「体育祭」なんかのときに、自慢のカメラで生徒たちを撮りまくっていた。・・・・・そのレンズの向いている方向は、明らかに女子生徒だけやった。

女子生徒たちの「胸」を、女子生徒たちの「股間」を、大きなレンズで狙っているのがミエミエやった。

本人は、さり気ないふうを装ってるつもりなんやろう・・・・・でも、被害者である女子生徒たちの方では、とっくにバレてる。

全校生徒をあげての「注意」が、女子生徒たちの中で走っていた。


・・・・なんせ、下校時に、声を掛けられ、車に誘われるって女子生徒がいっぱいいた。


・・・・で、ボクたち男子生徒も、女子生徒たちからの話で、もちろん全てを知っていて、呆れた冷笑、失笑を浴びせていた。


・・・・が、知らぬ本人は・・・・知ったところで、かまうもんかってことか・・・・・しょせん、生徒など、3年間で入れ替わる。

多少の雑音が聞こえたところで、生徒の「生殺与奪」権を持った、大人の教師であれば、なんとでもなるってことか・・・・・このクソ教師は、学校イベントごとに、不似合いなバカでかいカメラを持って、校内の女子生徒たちを撮りまくっていた。




音楽教師が、目の前に座っている。


笑顔を向けてくる・・・・・笑顔じゃない。ニヤニヤとした汚らしい笑いや。


明らかに、教師という権力をカサにきて、生徒を「校則」という武器で虐めている。

生徒の「生殺与奪」の権利をもてあそんでいる。


その、自分の態度に一喜一憂する、生徒の様を見て楽しんでる。


幼児が、捕まえた虫を、時間をかけていたぶる・・・・足を1本捥ぎ・・・・羽を1枚ちぎり・・・・そんな様が、常に薄ら笑いを浮かべた顏から見て取れた。



一言で言えば、



気持ち悪い。クソ教師。



その、音楽教師と、サシで座っていた。



・・・・・そもそも、なぜ呼び出しを受けた???



その理由がわからへんかった。



高原 との件は・・・・



自転車の二人乗りは、


トラッキーをあげた件は、



もう、終わったはずや。


・・・・校長室に呼び出され・・・・けっきょく、何という意味もなく・・・・

最後には、抜き打ちの「持ち物検査」が、行われて、トラッキーは没収された・・・・・・高原のトラッキーも没収された。


トラッキーが没収されたことで・・・・ボクと、高原を繋いでいた「糸」も切れた。


お互いに話す糸もなくなり・・・・今では目も合わせない・・・・お互いに避けるようにすらなってしまった。

一緒になれば、話せば、中身が小学校3年生の、田舎の中学校2年生が騒ぎ立てた。はやしたてた。

アホくさい。めんどくさい。

お互いに避けるのが、一番懸命やった。


お蔭さまで、ボクの学校生活は、至極、過ごしにくい・・・・生きにくいものになってしまった。



・・・・あの、抜き打ちの「持ち物検査」の時の、嬉しそうな、この音楽教師の顏を忘れへん。


嬉しそうに、ボクの羽を・・・・足の1本を捥ぎ取っていった顏は忘れへん。




・・・・今、同じ顔をして、目の前に座っていた。


汚らしい笑みを浮かべて座っている。



・・・・・そっか・・・・・残りの手足も捥ぎにきたんだな・・・・瞬間的に悟った。


・・・・でも、何の話や???




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」



嬉しそうな笑顔で言った。


・・・・・こいつにとっては、嬉しい・・・・楽しい時間なんやろう。


生徒を虐める楽しい時間。


捕まえた虫を切り刻む・・・カタワにしていく至福の時間で、狂喜してアドレナリンが隠せず、笑顔が零れるんやろう。

・・・・そっか・・・・それを養分として、この血色のいい顏はできあがってるんやな。



「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


開口一番に言い切った。



それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???


一方的に・・・・それでも理知的に・・・・いや、楽しんでる・・・・ニコニコ楽しみながら、ゆっくり聞いてくる。



「身に覚えはない」



ボクは、タバコを吸ったことはない。


確かに、山川 がタバコを吸ってる現場に出くわしたことはある。

・・・・でも、ボク自身は、タバコを吸ったことはない。

あの現場だけやない。


その他の場所でも・・・・・


ボクは、人生で、これまでにタバコを吸ったことはない。



しかも、山川が、タバコを吸ってるのを見たのすら、あの一回限りや。




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???



「吸ってません・・・・・」



ようやく事態が飲み込めた。理解できた。



ボクが、タバコを吸っている・・・・学校内で、そうゆうグループがあって、それの一斉摘発ってことやな・・・・



「吸ってません・・・・」



・・・・通用しない。



「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???



「吸ってません・・・・」



ボクとしては、タバコを吸ってる現場に出くわしたのは、後にも先にも、あの一回だけや。・・・・だから、仲間も何もない・・・・学校内に、そういったグループ・・・・不良グループのようなものがあるのかもわからない。


・・・・いや、たぶん、ない。

見たこと、聞いたことがない。



「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???



「吸ってません・・・・」



・・・・当然のように、クソ音楽教師に聞く耳はない。


全ては、ボクが、タバコを吸ってるのは「大前提」であって、・・・・あくまで、他に誰がいるのか・・・・仲間は誰なのかに終始していた。



・・・・・そっか・・・・



理解した。


ボクなんや。



狙いはボクなんや。



ボクが「タバコを吸ってるグループ」の中心なんや。


大阪から・・・・都会から来た転校生・・・・わが校に害毒を流す「腐ったリンゴ」がボクってわけや。


その「腐ったリンゴ」の被害から、音楽教師は「わが中学校」を守るために・・・・ヒーローとして、ボクと対峙・・・・戦っているわけだや


腐った虫ケラの、足を・・・・羽をむしりにきてるんや。

手を捥ぎ、足を捥ぎ・・・・ひねり潰すつもりなんや・・・・


正義の鉄槌というわけや。




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???



「吸ってません・・・・・」



・・・・仲間か・・・・


山川は、ボクの友達や。・・・・この学校で数少ない友達や。


・・・・そもそも、この話は、山川から出てきた話かもしれんな・・・・あるいは、朝倉か・・・・


・・・それでもな。


アンタには、言わねーよ。


アンタみたいな、権力をカサにきたクソ野郎には何も言わねーよ。



血が逆流していくのがわかった・・・・・


血が沸騰していく。


・・・・・このクソ教師は、ボクの言うことを一切聞かない。



「吸ってません・・・・」



わかった。わかった。・・・・・それで、仲間は誰なんだ・・・・?



「吸ってません・・・・」




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???



「吸ってません・・・・・」



・・・・・だから・・・・吸ってねぇって言ってんだろうが・・・・



ボクはな・・・・陸上部なんや・・・・


陸上部ってのは、走るって競技なんだよ。


その・・・その・・・走るために大事な・・・・走るために、一番大事な「肺」を・・・・・痛めるような真似をボクがすると思ってるんか・・・・?



ボクはな・・・・命がけで走ってるんや・・・・


毎日毎日毎日・・・・・アンタのおかげで、過ごしにくくなった、この中学校で・・・

それでも、毎日毎日・・・毎日毎日・・・・村木の背中を、命がけで走ってるんや・・・・


その「肺」を傷つける、タバコを・・・・ボクが吸うと思うんか・・・・・?



・・・・アンタにわかるか・・・??


このクソ田舎で、ノホホーーーンと、従順な子羊をいたぶってるだけの生活をしてる、アンタに・・・・このクソ田舎しか知らない「井の中の蛙」のアンタに・・・・そのアンタのおかげで・・・・ボクが、どれだけの思いをして、毎日、ここへ登校してるかを・・・・



・・・・ボクはな・・・・陸上部に、全てをかけて生きてるんや・・・・



「吸ってません・・・・」



・・・・吸ってないんだよ・・・・ボクは・・・

ボクが、タバコなんかを吸うわけがないんや・・・・




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???



「吸ってません・・・・・」




・・・・何より腹が立ったのは、この押し問答やった。




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」




何度言うても、このセリフは1mmも揺らぎはせーへんかった。


決まったこと。大前提だやった・・・・・



・・・・そう、そうゆーことや。


もとより、今回の「喫煙問題」の首謀者は、ボクやってことや。

だから、とーぜんのことなんやろう。


それを理由に、一気に、ボクに残った手足を、羽をむしりに、千切りにきたんや。そこを論議する気は、サラサラないっちゅうことやろう。



このクソ教師の狙いはひとつ。


ボクの交友関係や。


腐ったリンゴのボクから、他の生徒を引き離し・・・・ボクから守るって正義を行使し・・・・なお一層、ボクを孤立させるって腹なんやろう。


孤立させて、ひとりで腐り果てさせる。


「腐ったリンゴ」

学校挙げての看板を、名札を張り付け、誰も寄り付かないようにするのが、このクソ教師の狙いなんやろう。



・・・・そうか・・・・そーゆーことなんか・・・・



ボクがタバコを吸うてる???

ほんなら、証拠は・・・?

誰が言うてる?

誰が見たんや?


呼んで来いや。


・・・・おらんはずや。


そもそも、ボクはタバコなんか吸ってないわ。

見たヤツがおるはずがないんや。


・・・・このクソ教師の意図は完全に読めた。




「お前がタバコを吸ってるのはわかっている」


それで、仲間は誰だ?

あとは、誰がいるんだ?

何年何組の誰だ???




・・・・アカン。


キレた。

頭の中で火花が散った。




「だから・・・・吸ってねーってんだろうが!このボケが!!」




目の前で、


豆鉄砲を食らった鳩  がいた。



中学校2年生が、豆鉄砲を教師に放った。



「豆鉄砲を食らった鳩」



実物を見たのは初めてやった。



背広を着た、小役人の「鳩」が、


目を見開いて、口をアングリと・・・・パクパクとさせていた。





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