第13話 「秋季大会発表」絶対に負けられない伝統。



100m。スタートライン。


「GO!」


村木と並んで走り出す。


・・・・ジワリ、ジワリと村木が前に出る。


それでも離されない。

前みたいに、100mを走り切った時に3mも置いて行かれることはない。


手を伸ばせば届くところに村木がいる。



毎日、毎日、毎日・・・・・ボクは、村木にへばりついて練習していた。まとわりついて練習していた。

昨日より今日・・・・今日より明日・・・・ボクは確実に速くなっていった。

それでも、村木には当然勝てなかった。あいかわらずボクは100%で走り、村木は90%で練習メニューをこなしていた。・・・だけど、1日に何本かは、ボクの全速力が村木の90%を追い抜こうとする。その度に、村木は少しアクセルを踏み込みボクを突き放した。



村木が前でゴールラインを駆け抜けた。

突き当りのフェンスで止まる。



・・・・それでも、日を追うごとに、ボクの全速力が村木の90%を追い越そうとする本数は増えていった。


陸上部内での順位が確実に上がっていった。


・・・・でも、村木、宮元、富岡には全く歯が立たない。

そして、その他の部員は、ハードルの選手だったり、跳躍競技の選手だったり・・・・単純走以外の競技の部員や。ボクが彼らより、単純走で速いっていっても意味はない。


・・・・それでも・・・速さを手にすること・・・・一日一日速くなっていくのを実感するのは、メチャメチャ楽しいことやった。毎日の練習がそれまで以上に楽しくなっていった。




教室。

陸上部全員が集められた。


時田先生が前に立っている。

秋の大会の選手発表や。


前の大会・・・「走り幅跳び」で惨敗した・・・・ってか、問題外の予選敗退。

だから、選手になることは諦めていた。


・・・・諦めるってか・・・そんなことを考えたこともなかった。


あの惨敗から、もういっかい走り幅跳びのチャンスがくるとは思えなかった。


・・・・そして・・・「走り幅跳び」がダメ・・・・そうなれば、ボクは、ジャンプ力をかわれてスカウトされたわけで・・・・じっさい、走ってみても、村木、宮元とは、雲泥の差があった。短距離競技の選手になれるはずもない。



ただ、手を拱いていたってわけやない。


・・・・どうにもこうにも「走り幅跳び」が上手くいかなかった。


時田先生も、なんとか、ボクにチャンスをやろうと思ってくれたんやろう。

次に「やってみろ」と言われたのが「走り高跳び」やった。・・・・確かにジャンプ力が生かせる・笑。


・・・・とっころが、「走り幅跳び」で足が合わない・・・・それが、「走り高跳び」で合うはずもない・笑。


すぐに「無理」ってなった・笑。


で、次に「やってみろ」ってなったのがハードル・・・・



「110mハードル」


110mの直線の中に10個のハードルが並んでるって競技や。


村木にへばりついて練習してきたおかげで、ずいぶん足は速くなった。

で、障害物のハードルを「跳ぶ」って競技ならジャンプ力も生かせる。・・・・確かにいい選択かもしんない。



同じ「走り幅跳び」の選手だった富岡と一緒に「110mハードル」に挑戦した。



・・・・やってみた。


・・・・ダメやった・笑。


・・・・どーにもこーにも・・・・どうやら、ボクはリズム感が悪いらしい・笑。


単純に走る。

単純に跳ぶ。


やったら、なんとかなるんやけど・・・・それを合わせると、どーにも上手くいかない・笑。


「走り幅跳び」も「走り高跳び」も「110mハードル」も、ジャンプ力は当然として、じつは、ものすごーくリズム感が大事や。


流れるような動作・・・・スムーズな・・・流れるようなリズム感が大事なんや。

・・・・どうやら、そこの才能が、ボクには全くないらしい・笑。



・・・・で、だからといって、長距離競技は問題外やった。


陸上部には3,000m競技、市のチャンプ、本木がいた。

・・・・・練習相手を務めれば、才能の違いは一目瞭然やった。


全く勝負になりそうにない・・・・



もちろん、時田先生から、やらされるってこともなかった。


時田先生の、部員の種目の決め方は、実に見事やった。的確やった。



先生に説明された。


同じ「陸上競技」・・・・同じ「走る」って種目でも、長距離走と短距離走では、その筋肉の質が全く違う。


短距離走は「瞬発力」が必要な筋肉や

長距離走は「持久力」が必要な筋肉や。


「瞬発力」は白色の筋肉だ。

「持久力」は赤色の筋肉だ。


・・・・だから、マグロなど回遊魚の筋肉は赤い。赤身や。

そして、近海の魚の筋肉は白い。


人間でも、赤身の筋肉が多ければ長距離向きだし、白身の筋肉が多ければ短距離に向いている。・・・・そして、これは、持って生まれた身体の素質であって、鍛えてどうにかなるもんやない。


・・・・なるほど、同じ「陸上競技」「走る」ということでは同じやのに、短距離、長距離、両方でメダルを獲る選手がいないのは、そうゆうわけやったんか・・・・



・・・・いずれにしろ、ボクが長距離を走らされることはなかった。



・・・ってことは、ボクが選手としてなれそうなものは何もなくて・・・・そして、それでいいと、素直に思っていた。


まだ、入部して半年や。

まずは、基本をみっちりとやろう。


・・・・そう、考えていた。



時田先生が、各競技と、選ばれた選手の名前を告げていく・・・・


「走り幅跳び・・・・富岡・・・出水・・・・」


富岡、出水が、短い返事を返す。


・・・・やっぱりや・・・・ボクは選ばれなかった・笑。



「110mハードル・・・・富岡・・・・」


・・・・富岡はハードルにも出るのかぁ・・・・すげぇなぁ・・・



「100m、村木、宮元・・・・水上」



ゲッ!!!!!!


「はい!」


弾かれるように返事をした。


えっ?・・・・えーーーーーー???

ええええーーーーーーー???


・・・・ビックリした。



「100m×4 リレー・・・・村木、宮元、富岡・・・水上」


えっええぇーーーーーーー!!!!!


うそやん・・・・え、ええぇーーーーー!!!!


「はい!!」



・・・・びっくりした。


うそやん・・・ええんか・・・ほんま・・・ええのん?・・・・???



・・・・でも、うれしかった。

本当にうれしかった。メチャメチャ・・・・メッチャうれしかった。


ボクは選手として再度のチャンスを与えられた。


ボクは100m、200m・・・そして100m×4人のリレーの選手に選ばれた。


ボクが本当にうれしかったんはリレーの選手やった。

リレーの選手は4人や。

・・・・ってことは、選ばれる選手は、陸上部で100mにおいて速い者から順次4人が選ばれるわけや。その4人の中に選ばれたことが・・・・認められたことが、ボクはメチャメチャ、んで、すんごく嬉しかった。




練習が始まる。


ボクが出場するのは100m、200m、そしてリレーや。


・・・・初めて、陸上競技用のバトンを触った。


100m、200mでは、同じく選手に選ばれた、村木、宮元と一緒に練習した。


・・・・・やることは、いつもと同じや。


ひたすら村木の背中を、宮元の背中を追った。



・・・・日が暮れていく。



「本日のメインメニュー」


ゴールラインを駆け抜けた。


最後の1本を走り切った。


フェンスにへばりつくように止まった。



練習が終わった。


いつものようにヘロヘロや。

・・・・埃まみれだ・・・・汗まみれや・・・・



呼吸を整えながらスタートラインに戻る。


ひとり、またひとり・・・・部室に戻っていく。



「カズ!」


砂場の脇に座った出水。手招きしている。


行くと、隣に座れと言う。


「スパイク脱げ」


スパイクを脱いだ。・・・・出水が持って靴底を見る・・・・

緑色のシューズに履き替える。


「カズ・・・・どうも、やっぱり、ラストで足が流れるよな・・・・・」


ラストスパートで後ろ足が前に引き戻せない。背中に流れてしまうって指摘だ・・・・


「やっぱりだ・・・・」


スパイクの底には、釘上のピンがついていて地面を噛むようになっている。

出水が、自分のスパイク袋から道具を出す・・・・


「カズはバネが強い・・・・足の力が強いんだ・・・それで流れるってのもあるんだと思う。

・・・・ほら、ピンがすり減ってる・・・・それに、ピンをちょっと長目にしたほうがいいと思うぞ」


出水が黙って新しいピンに・・・・さらに1mm長いものに交換してくれた。

・・・・もちろんピンは私物だ。個人で用意するものや。



出水は、シューズを始め、いろいろな道具にも詳しかった。

ある意味で、時田先生の「陸上理論」を一番理解してるのは出水なんやないかと思う。


・・・・出水は身体が小さかった。

160cmのボクよりも、さらに小さかった。

そのために、記録が伸びなかったんやと思う。・・・・そのハンデを何とかしようと、理論の勉強にも力を入れたんやと思う。



・・・・いいヤツだった。


出水はボクの・・・・2年生の新入部員のボクの世話を何かと焼いた。


走りで気になったところは、いつもアドバイスをくれた。


スポーツ店に連れてってくれて、色々教えてくれた。



・・・・シューズに履き替えた富岡もやってきて座った。


富岡を含めたボクたち3人は仲が良かった。

同じ「跳躍競技チーム」ってこともあって仲が良かった。

休みの日に、一緒に遊びに行ったりもした。



「それにしても・・・・これ、もう、ボロボロだな・・・・」


出水が、ボクのスパイクを確認しながら言った。


穴が空きそうやった。爪先、小指の部分の皮に穴が空きそうになってる。

靴底が剥がれそうになっていた。



入部してすぐに「走り幅跳び」の選手に選ばれた。

とうぜん、スパイクはなかった。


陸上部の部室には、いろいろな用具が置いてあった。

その中に、先輩が残していったり、持ち主不明だったりの、スパイクやシューズもあった。


「とりあえず」ってことで、そこから使えそうなスパイクを掘り出してきた。

大会で惨敗した後も、それを、そのまま使っていた。



・・・・スパイクも欲しかった。


だけど、スパイクは高い。

安にのでも12,000円・・・・いいやつなら30,000円とかって値段や。


大会に出るわけでもない。選手に選ばれるわけでもないと、そのままになっていた。



足元。緑色のMラインのシューズ。


母さんに買ってくれとは言えなかった。

この前、このシューズを買ってもらったばっかりや。



・・・再び、大会に出ることになった。


100m。200m。


そして・・・・ 100m×4 リレー に出場することになった。


リレーは、陸上部で伝統的な強さを誇っていた。

先輩たちから受け継いできた連勝記録がかかっていた。


・・・・絶対に負けるわけにはいかない競技やった。



スパイクは、なんとかせなアカンな・・・・



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