第2話 「透明人間だった」無視かよ!笑。



校門を出た。

学生帽に詰襟の学生服、んで学生カバン。・・・・トラッキー・・・阪神タイガースのマスコットのキーホルダーがついてる。

歩いて帰る。・・・ひとりだ。

大通りに出るとすぐに本屋さんがある。・・・今日は売ってるかなぁ・・・・


入口に平積みになっていた。


少年マガジンをパラパラとめくる・・・追いかけてるマンガだけを読む。

・・・・次に、少年サンデー・・・そしてチャンピオンも。


少年ジャンプを買った。

小学校1年生からの習慣や。

毎週発売日に買う。

・・・・でも、最近は、あんま面白いとは思えなくなってきた。「漫画」というもの自体に興味がなくなってきたのか・・・好きだったマンガが、次々連載が終わったのも大きかった。

それでも、なんとなくの習慣で買っていた。



大きな公園を抜けていく。

桜が何本も咲いていた。


都会じゃ考えられないくらい大きい公園や・・・・昔は城内やったらしい。

池があって・・・城内というのも頷ける東屋もあった。石垣の名残もあった。



空にジャンボジェットが飛んでいた。

ゆうゆうと浮かぶように飛んでいた。




玄関先。

色を塗っていた。

プラモデルが大好きやった。

もう、何より大好き。


・・・・まだ、小さい・・・幼かった頃「お菓子を買ってあげる」と連れていかれた駄菓子屋で、ボクは迷わずプラモデルを選んだらしい。

お菓子より、何よりプラモデルが大好きやった。


初め、飛行機から始まったプラモデルは、そのあと戦車模型になっていった。

小学校高学年の時には、お年玉を貯めて、数万円もするラジコンモデルを造っていた。


戦車を造って、色を塗って、ジオラマを造って・・・・コンクールに出品したこともある・・・・その、大好きだったプラモデルも、すっかりやめてしまった。

学校が終われば弟の面倒をみなきゃいけなかった・・・・それで、プラモデルどころじゃなくなった・・・


・・・それでも、家には、プラモデル用の塗料がいっぱいあった。



・・・・その塗料で色を塗っていた。



シューズに色を塗っていた。


ボクが履いていたのは、スーパーで母さんが買ってきた、ちょー安物のシューズやった。

粗悪で、薄くて、踵がペラペラで・・・ただの通学用、普段使いの安物。



・・・・明日から「陸上部」が始まる。



せめて「カッコよく」見えるようにと、安物くさい白のラインを「真赤」に塗っていた。



・・・なんせ、ボクはスカウトされて陸上部に入るんやからな。



そうや。足には自信がある。

小学校のクラス対抗リレーでは、必ずアンカーを任された。

サッカーでは、鉄壁なディフェンスを誇ってきた。


相手オフェンスのパスを、俊足を生かしてカットした。

スライディングタックルで、相手ストライカーのボールを奪った。


・・・・確かに「陸上部」って選択はあった。・・・確かに。



嬉しかった。


・・・・ようやく、走り回れる日々がやってくる。

鬱々としていた・・・・

常に抑えつけられてるような感じやった。


小学校みたいに給食が食べられないってことはない。

・・・でも、常に頭が重かった。

わけのわからない頭痛がした。


・・・・どこかで、叫び出したいような気持になることがある。

常に閉じ込められてる感じがした。


・・・そんな毎日が終わるかもしれへん。




授業中。

窓から空を飛ぶジャンボジェットが見えた。

授業もどこか上の空で聞いていた。


放課後の部活のことが気になった。

ドキドキしていた。



・・・・ボクが、この中学校に転校してきたのは、去年・・・1年生の途中からやった。

全く知らない田舎町や。全く知らない土地や。

知り合いも全くいない。



・・・・夜逃げやった。


「都落ち」


・・・・話す言葉が違った。

全く話が通じなかった。

日本語が通じなかった。

同じ日本だと思えないくらい言葉が通じへんかった。


・・・・馴染めなかった。

そして、異邦人は虐められる。


ボクは「透明人間」として過ごした。

気配を消すことに専念した。


もう・・・・目立ちたくなかった。




放課後。

ついに、ドキドキした、その時がやってきた。


同じクラスに陸上部員が二人いた。・・・・本木と野田。

一緒にグランドに行くことにする。


本木は背が高くて・・・2年生の中でも頭ひとつ抜き出ていた。

運動神経はすこぶる良い。

が、授業の成績は反対にすこぶる悪い・・・・学年で最下位争いをしてる・・・なので、体育の授業だけが生き甲斐といったヤツや。

中でも、足はめっぽう速いらしく、全校生徒集会での優勝報告の常連や。

陸上3000m競技では、1年生で市内チャンプになってしまい、現在は県大会制覇を狙っている。・・・ってのは、その時に知った。・・・すげーな本木。


野田は、本木とは全くの逆で、部活の成績はパっとしない。とっころが、授業の成績は学年ヒトケタといったヤツや。

ふたりは家が近所で・・・つまりは幼馴染・・・しかも、クラスのお調子者なのも同じで仲が良かった。

ボクが陸上部に入ったってことで、一緒に行こうぜってなった。



昨日塗ったばかりの「真赤」なラインのシューズ。グランドに向かう。



陸上部の練習場は校庭の一画にある。



「え~・・・今日から、一緒に練習する、水上君だ、水上はワシが体育の授業中・・・・」



ってな、自己紹介セレモニーを、ちょっとは想像してたんやけど、そんなものは全くなかった。

・・・・ってか、先生がいない・笑。



誰も、話し掛けてこない。

だからって無視されてるってわけでもなく、練習が始まった。


身体を温めるためのジョギングから・・・・



・・・しばらくして、時田先生が校舎から現れた。


ノソノソといった風体。野生の俊敏なクマが二足歩行で歩いてる。そんな感じ。

なんだか、強烈なオーラを発していた。


陸上部ってより、柔道、空手といった武道の顧問のような雰囲気や。



グランドは、ほぼ3分割されていて、野球部、サッカー部、テニス部に分かれている。

そして、その全てに隣接するかたちで陸上部の練習場があった。

ほぼ100mの直線コースがキレイに4コース程とれるようになっていた。・・・前後を合わせれば150m以上の長さがある。


その直線100mで、スタート位置が、野球部のライトの後ろ。中間部分がサッカー部と隣接。ラスト20mが、テニス部と隣接していた。


その100mの中間地点に、走り高跳びのバーが置いてあって、マットがあった。


時田先生は、そのマットに腰掛けて皆の走るのを見ていた。



ジョギング・・・柔軟体操・・・・そして、ウォーミングアップ走・・・・・


時田先生の前を駆け抜ける。

ゴール地点まで走り切る。

踵を返して、歩いて、スタート地点に戻っていく・・・・


・・・時田先生の前を通る・・・


先生は、ボクを見ても何も言わなかった。


・・・まあ・・・・ボクだって・・・みんなの前で挨拶させろよ、とかは思わなかったけど・・・んなの恥ずいし。

でも、やっぱ、ボクは、スカウトされたっていう思いがあった・・・・

だから、「おお、よく来た」とか・・・せめて、「最初はしんどいかもしれんが、ガンバレ」とか、一言あっていいのになぁ・・・・なんてことを思ったけど、見事に、なーんもなかった。


・・・それでも、目は合った。


目礼をした。

先生は何も言わなかった。


・・・・それでも、目は合った。

間違いなく、時田先生は、ボクの目を見ていた。


言葉はなかった。

それでも瞬時に気持ちはわかった・・・・ような気がした・笑。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る