_十五

 見ていて気持ちがいいものではなかった。

 まず、ヤオさんの体の内側が、植物配線の根でいっぱいになるのが見てわかる。次に、その下に重なった遺体に根が張る。表面は人だが、その内側には根がいっぱいに詰まっているのだろう。

 次に、だんだんと水分が無くなっていくような形になった。小さくなっていく。

「ねえ、これ大丈夫なの? なんかおかしくない?」

「おかしいことばっかりだよ」

 とにかく、行方を見届けた。次第に、小さくなった体たちが、薄い膜で覆われ、卵のような見た目になる。その卵は空気を入れた風船のように少しずつ大きくなり中、からはわずかな光が漏れていた。

 両手で持ち切れないくらいの大きさになると、光を失い薄い膜から硬い殻のようになった。

 イトが僕の手を握った。気温は低くないのに、とても冷たくなっている。

「なんか、怖いな。本当に人が生き返ったりするの?」

 たしかな疑問だ。それでも、待つしかなかった。

 白い殻に、ひびが入る。少しずつその隙間が広がり、ヤオさんが顔を出した。

「お待たせしました。どれくらい待たせたのでしょうか?」

 あまりにいつも通りのその声に拍子抜けしてしまう。

「全然、十分も立ってないですよ」

 僕はとりあえずヤオさんが無事で安心した。卵のひびはまだ大きくなり、完全に割れた。ヤオさんの隣には、完全に元の姿に戻ったアイザさんがいる。

「ああ、私、助かったんですね」

 そう言いながら涙を流している。

「良かった。二人とも、とりあえず中に入ろう。ここは暗すぎる」

 僕とイトの後に二人は着いてきた。エレベーターに入る時の明かりで、ヤオさんとアイザさんの姿がちゃんと見える。

「え、その手、どうしたの?」

 二人の手は、一つになって繋がっていた。

 アイザさんが緊張して、ヤオさんの目を見ていた。言葉を待っている。

「似合ってますか?」

 その言葉は、アイザさんに向けられていた。

「もちろんです。ヤオさん」

 二人が見つめ合っている。僕もイトも、早くエレベーターの扉が開くように祈っていた。


 エレーベータが開くと、ラム・シュウが心底驚いて、弁当箱を片手に部屋の隅に逃げた。

「なにが起きたんだ!」

 ポーリンさんも目を丸くしている。

「どうなってるんだい」

 二人はくっついた手を見せながら言った。

「永遠に一緒になることなりました」

 二人だけ、とても笑っている。その違和感に僕も笑ってしまった。イトはなんとか笑いを堪えている。

「なにも分からないよ」

 ラム・シュウもそうはいうが、二人の幸せなオーラにおもわず笑っていた。

「まったく、植物配線ってのは、ほんとに変なのばっかじゃないか」

 と言って、笑った。

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