_十二

 ラム・シュウは弁当箱を弄りながら、ポーリンさんに話かけている。

「でも、さっきの話だとおかしくないですか? キープリンさんに肩入れして植物配線を入れたって、キープリンさんはどう考えても植物配線に反対の人ですよね?」

「それが、クオンさんが死んじまってから様子がおかしいの。そもそもね、アイザはキープリンさんとすっごく仲が良かったんだから。クオンとは喧嘩してばっかりだったけどね」

「まあ、年頃の娘だと、そうですよね」

 ラム・シュウが相槌を打つと、ポーリンさんは首を横に振った。

「違うの。そんな単純な話じゃないの」

 そして、それ以上は話してくれなかった。


 画面に映る赤いお面の怪物の動きが変わった。

「みんな注意して」

 イトがその変化にすぐに気がつき僕も確認する。

 どうやら、動きを止めたようだ。

「このまま帰ってくれないかな」

 ラム・シュウは呑気そうに言ったが、本気でそう思っているのだろう。

「少しずつ、小さくなっていませんか?」

 二つの人影は確かに小さくなっていた。画面を下に動かすと、その足元には計十二匹の、小さくなった赤いお面の人影がいた。

「ラム・シュウ。これはまずそうですね」

「ああ。まずそうだ。きっと僕の網を潜り抜けるための作戦だろうね。頭いいなー」

 今度も呑気そうに言っている。

 赤いお面の怪物の速度が上がった。もう、行かなくてはいけなそうだ。

「イト、行こう。全部殲滅させるよ」

「わかった。その前に、一つやらなくちゃいけないことがあるからまってて」

「え、わかった」

 イトはラム・シュウに近いた。

「イトくん、大丈夫だよ。もちろん僕も行くから……」

 ドン、と鈍い音がして、ラム・シュウが倒れる。

「よし、ユアン、行こう」

 ポーリンさんが慌ててラム・シュウの様子を見る。

「ちょっと、あんたなにしてるんだい!」

「ポーリンお婆さん、ラム・シュウは頼んだからね」

「こんな頼まれ方、嫌だよ」

 その言葉を背中に、僕らはエレベーターに乗り込む。

「ポーリンさんとラム・シュウ。ごめんなさい」

 一応、僕から謝罪の言葉を送った。


 また、城の外に出る。西の空には眩しい夕日が落ちていた。

「向こうからすれば逆光だし、少しだけ有利かな」

 僕がいうと、イトは真っ直ぐ前を見たまま答える。

「あいつ、目なんかないでしょ」

 やはりそうか。わかっていただ、一応確認しておきたかったんだ。あまりに眩しいから。

「よし、イト、作戦はある?」

「ない。ただぶっ倒す」

 そして駆け出す。イトの姿はまた鎧に包まれた。

「全部で何匹だっけ?」

「十二匹」

 僕が答えるとすぐに動き出す。僕はまた傘を持ってイトの後ろについた。が、もちろん早すぎて追いつけない。とりあえず自分の身を守る。

「まずは一匹」

 赤いお面の怪物が地面に転がった。そして次々と刺していく。

「二、三、四、五」

 テンポよく、刺してく。僕は傘の影に隠れながら、様子を伺う。イトは五匹を倒し、右手側に三匹、正面に二匹、左手側に二匹、それで全てだ。

「よし、いけるぞ」

 また一匹、また一匹、どんどん数を減らしていく。

「よし、これで最後ね」

 剣を突き刺し終わる。

「あっけなかったね」

 イトが言う。ほんとにあっという間だった。

「帰ろうか。ラム・シュウにあそこまでしなくても良かったかもしれないね」

 そう言いながら振り返ると、赤いお面の怪物が一匹、城に入り込んでいた。

「ちょっと、どうなってるの?」

「分からない。でも確かに数は合ってたはずだ」

 イトが駆け出した。西日が眩しい。目を細めながら僕も駆け出す。

 西日の眩しさで見えていなかった人影が見えた。それは白い髪の少女だった。

「間に合わない!」

 イトが叫ぶ。しかし、叫んだところで、なにも変わらない。

 白い髪が、赤い血に染まって空を舞った。

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