_六

 臨時事務所は、なにやら騒がしい気配がした。それに、梅の花の香りがする。

「白い髪の方が来てるみたいですね」

 車から降りて僕が言うと、キープリンの表情が変わった。

「アイザの奴、いくら言ってもなんで出歩き回るんだ!」

 誰よりも先にドアを開け、入って行った。顔を真っ赤にしながら。

「あの娘、アイザって言うんだね」

 すっかり疲れ果てているラム・シュウが呟く。事務所の中では怒号が鳴り響いていた。その渦中に入り込みたくないと言う思いで、足が重い。

 しかし、イトはあまり気にしていないようで、立ち止まった僕とラム・シュウを一瞥すると中に入っていった。

「時間がないんでしょ」

 そう言って。イトは怒っているわけではなかった。ただ、僕たちよりも危機感を持ち、着々と感情の整理をしているのかもしれない。

 僕らも中に入ると、アイザさんとキープリンが向かい合って言い合いをしている。ヤオさんは涼しい顔で話の行方を聞いていた。

 部屋の椅子に一人座っている人がいる。その人がポーリンさんだと気がつくのに時間はかからなかった。

 ラム・シュウは近くの椅子に座って休んでいる。僕はポーリンさんのもとにいった。

「止めなくていいんですか?」

「ああ。言い合いくらいならいくらでもさせてやるよ。二人とも色々とあるんだろう」

 ポーリンさんに話を聞いている間にも、二人の言い合いはどんどん激しくなっている。

「お前はロン・ダン・ガイに近くなって何度言えばわかるんだ!」

「私の体です。私自身がどこまでいけるかはわかるんです!」

 キープリンが近くの机を叩いた。ポーリンさんの視線が動く。しかし、机を叩く以上のことはしないとわかると、また観客に戻った。

「やっぱり、二人とも不安なんだろうね。キープリンだって、散々いがみ合ってたけど、まともに取り合ってくれる男なんてあいつくらいだったもん」 

「あの二人、何かあったんですか?」

 ポーリンさんが僕をじっと見据えた。

「もちろん、なにかあったんだよ。別に隠してるわけじゃないから教えてやってもいいけど、どうするんだい?」

「教えてください」

「それは、好奇心、かい?」

 試すような目だ。その目をじっと見返す。

「キープリンさんからは、悲しい匂いがします。やれることはやりたいんです」

「ふふ、本当だ。あんた、だいぶ見所がありそうだね」

 ポーリンさんが笑った。その声で二人の言い合いが止まり、視線が集まる。他のみんなもこっちを見ていた。

「アイザの父さん、そしてキープリンと植物配線について語り合った男、それがクオンなんだよ」

 みんなに聞かせるように言う。終始困ったような顔をしていたラム・シュウは目を丸くして驚き、ヤオさんはいつもの笑顔だが、口がいつもより大きく開いている。イトはクオンという名前自体にピンと来ていなかったようだが、すぐに思い出して口を窄めて驚いていた。

 僕はどんな顔をしていただろう。頭の中には、パックリと開かれた肉塊と龍木を思い出していた。

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