・八

 ラム・シュウも疲れていたようで、イトを追って眠りについた。

「みんな無理してるんですよね。ヤオさんも、運転を任せてしまってすみません」

「いいんですよ。私も楽しみなんですから」

 この時間になると、街の電気はほとんどついていない。城はもともと炭坑夫向けの町だ。だから発電施設もたいして大きなものがなく、自然と電気を節約するようになってる。

「この緑色の光、便利ですよね。夜、トイレにいきたくなった時に重宝しました。それに、なんだが、とても優しい光で落ち着きます」

 僕も、この光がとても優しいものなのは感じていた。だからこそ、辛かった。それは、イトもラム・シュウも感じていることだと思う。川に蛍を見に行ったあの日のことを、緑の光に照らされるたびに思い出してしまう。

「私は途中参加なので詳しいことはわかりませんが、あまり自分を責めないでくださいね。それだけで人生が終わってしまうことだって、あると思いますから」

 ヤオさんは、言葉を選びながらゆっくりと話してくれた。僕は、いつか僕自身を許さなくてはいけないのだろう。頭ではわかっていても、毎日夜になると現れる緑色の光は、そうさせてくれるとは思えなかった。

「さて、もうそろそろつきますよ。ユアンさん、二人をゆっくり起こしてあげてください。まあ、どうしても起きなければ寝かしておいても良いかと思いますが」

 イトをすこしだけ揺する。すると案外すぐに目を覚ました。

「着いた?」

「もうすこしだよ」

 ラム・シュウも同じように揺すった。しかし、なかなか目を覚さない。

「起きないみたいだから、着いたらもう一回起こそう。ラム・シュウに来てもらわないと意味がないから」

 そして車が到着した。僕がまたラム・シュウを揺すろうとすると、今度はすぐに目を覚ました。

「ふあ〜。ここはどこだい?」

 少しわざとらしいような気がするあくびをして、やっと目を覚ます。

「起こしてしまってすみません。ただ、どうしてもラム・シュウには来て欲しくて」

「あれ、ここって、今は閉まってるんじゃない?」

 目の前には、昼に来た温泉の門がある。

「実は、開けてもらってます。ほぼ貸し切りなんで、またゆっくり入ろうかなと」

 ラム・シュウは一瞬口をつぐんでいた。なにか逆鱗に触れてしまったのかとひやひやして言葉を待った。

「それじゃあ、入らせてもらおうかな。僕ね、温泉好きなんだよ。長風呂するけど、付き合ってもらうからね」

「もちろんです」

 イトが不機嫌そうな表情になる。

「ちょっと、私だけ一人なんだけど」

 寝起きで小さな声だが、確かに怒っていた。ぼくは、こんなふうに起こるイトを久々に見た気がして、より安心感がます。

 しかし、そんな気持ちとは別に、目の前のイトは結構怒っていた。

「私がお思うのはですね、貸切なら一緒に入っても問題ないんじゃないでしょか。もちろん、イトさんさえ良ければの話ですが」

 イトは二つ返事で答える。

「上等よ」

 イトが上等でも、僕は困ると思いながら、ラム・シュウをみると、同じように眉間にシワを寄せて困ったような表情をしていた。

「売ってれば、水着とかを来て入ろうか。タオルじゃ心許ないしね」

 ラム・シュウの提案にみんなが賛成して、僕らは車を降りた。門が開き隙間から光が漏れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る