・七

 その後もひたすらに布をかぶせる作業をし、日が暮れ始めてから夕食の準備が始まった。

 ヤオさんはすっかり調理担当になっていて、子供たちから特別なエプロンをプレゼントされていた。

「ヤオさん、今日の夜時間ありますか?」

「あるけど、どうしたの?」

 僕が耳打ちして用件を伝えると、ヤオさんは笑った。

「わかりました。じゃあゆっくり食べてから出発しましょう。時間はまだまだありますもんね」

 今日は香辛料の効いた野菜の炒め物だ。周りの人が石で作られたかまどに木を詰め空気を送り込み、強い火を起こしている。

「熱すぎませんか?」

「ユアンさん。料理は火力が命なんですよ。強い火で油の温度を高くします。そして野菜を素早く炒める。全く、私みたいなひ弱な男には向きませんよ」

 笑って、大きな鉄製の鍋を持ってきた。分厚いタオルで持ち手を包みキツく握ると、火に当てもう片手で油を注ぐ。

「おーい、近づくな近づくな」

 近くのおじさんが火花が散るフライパンを近くでみようとするのを制している。

 ヤオさんが合図をすると、別の近くにいた女性が野菜の入った籠をヤオさんの右手のあたりに添えた。

 ちらりとそのカゴに視線をやり、豪快に掴むとフライパンに投げ込む。香ばしい匂いが漂う。すべて入れ終わると、顔を持ってきた女性が調味料の入ったコップを持ってきた。それもすぐに受け取り一気に流し込む。その場所の明るさが変わったのかと思うほど、衝撃的な匂いがした。

 真っ白な煙が夕焼け空を昇って行った。あたりも曇っている。ヤオさんは手によく洗ってであろう木の棒を使って野菜を混ぜ合わせていた。時折右手フライパンを揺らすと、野菜が弧を描いて飛び上がる。

 目の下を真っ赤にしながらヤオさんをその動作を素早く繰り返す。今度はまた違う男の人が現れて、車のタイヤくらいの大きさの皿を持ってきた。ヤオさんはそこに出来上がった野菜を載せる。

 そしてすでに脇には次の油が準備してあり、また野菜が準備され、調味料、木の棒、皿と、次々と料理を作っていく。


「いやあ、いい汗をかきました」

 風呂に入ったばかりだが、また油っぽくなってしまった前髪をはらい、ヤオさんがシートの上に座り込む。顔が真っ赤だ。

「うん、本当においしいね。でもまあ、ちょっとヤオくんへの負担が大きすぎる気がするけどね」

 ラム・シュウは野菜を頬張って言った。ヤオさんの負担を言う割には、ラム・シュウもかなり汗だくだ。それもそのはず、三メートルの高さの仕切りを建てる作業を率先してやっていたからだ。

「いいんだよ。今はまだこれくらいのことしかできないんだ。まずはここにいる人たちの生活を確保しなくちゃいけないよ」

 ラム・シュウの願い通り、この広場にいる人たちはほとんどが笑顔だ。そうして、今日もお祭りのような食事が続く。

 そして今日も、巨大な鳴き声と緑の光でそんな宴が終わりを告げた。


 あたりは不気味な緑色の光に照らされている。ラム・シュウはまた僕らを車に連れてきた。僕らに、特にイトにこの光を見せたくない様子だ。

「さあ、今日ももう寝よう。僕はもう少し事務所にいるよ」

 そうして去っていきそうなラム・シュウに僕は一言声をかける。

「あの、ラム・シュウ、いいですか?」

「なんだい?」

「ちょっと、出掛けませんか? ついてきて欲しいところがあって」

「ユアンくんの頼みじゃ断れないよ。一体どこについてきて欲しいんだい?」

「じゃあ、車に乗ってください。ヤオさんに運転してもらいます」

 少し離れたとこrで僕らの様子を見ていたヤオさんを呼ぶ。

「では、行きましょうか。いやあ、私も楽しみですよ」

 運転席にヤオさんが座ると、イトが起き出した。

「え、なに、これから何処かに行くの?」

 助手席に座っているラム・シュウが笑った。

「イトくんも行き先を知らないんだね。じゃあ、到着するまでの楽しみとしようか」

「そうね。じゃあ、私は寝て待ってるから」

 車が走り出すと、ものの数分でイトは寝息を立て始めた。それもそのはず、時間はすでに二十二時を回っていた。

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