・六

 臨時事務所では、ゆったりとした時間が流れていた。

 現状、大した進展も見られない。分かっていることは、巨大な怪物が毎日夜になると泣いて光ることと、植物配線者の多くが龍木に変わったことくらいだ。それ以上を知るためにはまだまだ街が混乱しすぎていた。しかし、普通に暮らす分にはこの上なく暇だ。

「焦っていてもしょうがないとは思うけど、これだけなにもないと、平和ボケしちゃうなー」

 ラム・シュウは椅子に座りながら適当にパソコンをパチパチやっている。

「ロン・ダン・ガイが落ちたことと、通信障害の関連性もあるんだろうけど、調べる余裕がないな。そもそもロン・ダン・ガイに踏み込んでい良いのかも分からない」

 僕はラム・シュウの机に、温泉で買ったコレットティーを置く。

「どうぞ」

 コレットティーをチラッと見ると、ちびりと飲んで一言、

「こんな上司に気を使ってくれる部下がいて、はあ、全く平和すぎる!」

 そしてラム・シュウが立ち上がった。

「急にどうしたの?」

 イトが観賞植物に水をあげるのをやめた。

「外の手伝いをしてくる」

 そういって事務所を出て行く。僕もイトもついて行った。

 スーチライトの社員は雨に備えて屋根のある建物を作っている。といっても、家のような立派なものは作れないので、天井に撥水性の布を張っているだけのものだが。

 この城に逃げてきた人たちも当然のように手伝っていた。

 布の屋根がある簡易的な建物の建設と同時に、しっかりとした建物の建設も始めていた。こちらは少数に絞って作業している。

 今、この城でやるべき事は全て決まっていた。あとはその膨大な作業をひたすらこなすだけだ。

「僕らみたいな素人はこっちの作業だね」

 とラム・シュウがいい、僕もイトも布の屋根を三メートルほどの高さがある仕切りにかける作業をした。

 布の端に重りをつけて、思い切り投げる。仕切りにかかればあとは慣らす。わずかに風が吹けばその勢いを利用した。いっぱいの風をため込んだ布がクラゲのように空を舞った。

 突然、突風が吹き布が飛んでいく。

「あ、ごめん、手離しちゃった」

 イトが真上を見て言う。

「僕も掴んでられなかった。今の風、強かったね」

「ねー」

 布はひらひらと空を舞うのと、細長くなって急に落ちるのを繰り返しながら僕らに近づいてくる。

 そして地面に落ちたとき、一部分に空気がたまり、きのこみたいになった。

 僕はまた布を仕切にかけようとしたが、イトに止められる。

「もうすこし見てようよ」

 そう言われいっしょに見ていると、次第に空気が抜けしぼみ切った。

「早かったね。しぼむの」

 イトはそう言って地面でべたりと広がっている布を見ていた。

「よし、じゃあもう一度布をかけようか」

 そう言いながら僕はまた重りをつけて投げる。うまく仕切に乗った。

「イト、広げよう」

「うん」

 布を広げてから、四つの角の部分を杭で地面に固定した。イトは戦っているときからは想像できないほど非力で、なかなか杭を地面に刺すことができていなかったので、ほとんどは僕が終わらせた。

「もう、この布はここから動かないんだね」

 イトが張った布を見て言った。

「しっかり固定したから」

「私は、さっきの空を飛んでたときの布の方が好きだったけど」

 そう言いながら、イトはまだ準備ができていない仕切りのほうに行き、布を手に取った。埃を払うようにバタバタさせている。

「でもまあ、そういうのって私が判断することじゃないんだろうね」

 重りが宙を舞った。仕切りを高く飛んでいった。

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