・五
しかし、探しとは言うものの、見つけるまでにさして時間は掛からなかった。
城の東の外れに、一目見ればなにかが違うと分かる大きな平家があった。空から見下ろせば呂の字の形をしている。
大きい空洞の方には、温泉が六つある。三つと三つで男性用と女性用に分かれていて、光を通さない薄い壁が遮っている。ちなみに、水質はどれも同じらしい。
もう一つの、小さい空洞の方には、龍木が編み込まれた絨毯がいくつも敷いてあり、主に風呂上りの人たちが休んでいる。
食事も出るし、机もあるので、それを目的にきて、風呂に入らない人も多くいた。
「そうそう、ここで休憩しながら飲むコレットティーが最高なんだよね」
僕たちの不審な行動にすぐ気がつき、それが風呂探しと言うことに気がつくと、むしろリーダーシップを発揮してすぐにここを見つけたラム・シュウがそう言いながら、勢いよくコップに注がれたコレットティーを飲んだ。
「でも、本当に入らなくていいんですか?」
ラム・シュウはここまで僕らを連れてきてくれたのにも関わらず、自分は入ろうとしなかった。それは、やはり右腕のことが原因らしい。
「いいんだよ。僕は人混みが苦手だから。なにより、君たちがさっぱりした姿を見て嬉しいよ」
隣にいるヤオさんとイトは、ラム・シュウに言われるがままに買ったコレットティーを飲んでいた。
「とても、甘いですね」
「うん、これ、甘いよね」
二人の反応を見ながら僕も一口飲む。予想通り、甘い。風呂上りに飲むには甘すぎるほどだ。
「よし、体もスッキリしたし、またみんなのために働かないとね」
イトはずいぶんと元気になっていた。それに加えて丸くなったような感じがある。鱗を全て取った魚のような当たり障りのなさを僕は感じていた。
「そうだね。じゃあ戻ろうか」
ラム・シュウの一言で、僕らは出口へと向かった。出入り口には、ここの開店時間と閉店時間が書いてある。夜は十時まで。意外に遅くまでやっていると思った。
「ラム・シュウ、コレットティー、もう一つ買ってきてもいいですか?」
僕は向き直り聞く。ラム・シュウは急な僕の動作に少しだけ驚いていた。
「もちろんいいよ。気に入った?」
「はい。皆さんはもう一つ入りますか?」
皆はもういらない様子だった。僕も本当は喉は乾いていなかったが、コレットティーを買いに行った。
受付から戻ると、みんなが少し眠そうにしている。
「あー、ユアンくん、もう戻ってきたんだね。よし、じゃあ行こうか」
ラム・シュウが椅子から無理やり立ち上がった。イトとヤオさんも少しふらつきながら椅子から立ち上がる。
「ユアン、長くなかった?」
「はは、ごめんごめん、ちょっとトイレにも行ってて」
「そうなんだ。あ、私もトイレ行ってくるね」
イトが足早に行く。その後ろ姿が見えなくなる頃にラム・シュウが口を開く。
「ねえ、ユアンくん」
「はい、なんですか?」
「イトくんのこと、ちゃんと見ておくんだよ」
「わかりました。だけど、すごく元気になりましたよね」
「うん。だからこそ、注意してて。一日や二日で全部忘れるなんてこと、無理なはずだから。つまり、イトはかなり無理をしてるんじゃないかと思うよ。まあ、杞憂かもしれないけど」
そしてイトが戻ってきた。僕らは臨時事務所に向かう。
「私が寝てしまわないように、皆さんご協力をお願いします」
ヤオさんの運転は、いつもより少しだけ荒かった。
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