・四

 夜になると、西の夜空が緑色に光り音が鳴り響い昨日と全く同じだ。みな、気がついているのだが、もう諦めているのか特に反応を示さなかった。

 たまに声が大きくなると、何人かの人は体をびくりと反応させたが、すぐ自分の作業に戻っていた。

 ラム・シュウは僕らに気を使って、車の中で休むか聞いてきたが、イトが、

「私たちもここで休むよ。なにかあった時、私たちだけ仲間外れは嫌だし」

 と言い、そのまま広場で眠った。


 翌日、目が覚めると、昨日は燃え盛っていた炎が真っ白になった龍木の灰ととも静まり返っていた。

 イトもラム・シュウはすでに起きていて、ストレッチをしている。

「ユアン、遅いよ」

 体を伸ばしながらイトが僕を呼んだ。寝ぼけながらも、とりあえずそのストレッチに混ざる。

 遠くでは大きな鍋で朝ごはんが作られていた。指揮をとっているのはヤオさんだ。

「ヤオさんって、なんで運転手やってたんですかね」

「まあ、どこでもやっていけそうなタイプだし、本人も自分の場所っていうのにはあまり頓着がなさそうだしね」

 こちらに気がついたヤオさんが手を振っている。それに合わせてヤオさんの周りにいる人たちも手を振っていた。

 身体を伸ばすたびに痛む。しかしそれは心地の良い痛みだった。伸ばし切ったときに痛みが全て消えるのが良いのだろう。痛みの匙加減が自分の理想通りにコントロールできるのも重要なのかもしれない。

 ラム・シュウがストレッチをやめた。

「二人も暇になったらおいでね。僕は向こうの臨時事務所にいるから」

 そうして自分の仕事をしに行った。

 僕はイトと一緒にヤオさんが作った料理を食べ、腹を満たした。このまま、どこかにひたすら歩き続けたら、なにかを見るけられそうな、そんな期待が胸を満たす。

「イト、どこか行きたいところはある?」

「急にどうしたの? ラム・シュウの手伝いをしに行くんでしょ」

「まあ、そうなんだけどさ、どこか好きな場所に歩いて行きたいなって」

「ユアンって、そういうこと思ったりするんだ。なんかもっと規律とかルールを守るタイプだと思ってたけど」

 イトとクラウを連れ帰ったのだって、規律上は間違ったことだったはずなんだけど、イトはそんなことを覚えてはいなそうだった。

「とにかく、どこか行きたい場所はないの?」

「うーん」

 イトは髪を触った。脂っぽくなったその緑色の髪を見て、あることを思った。その思った言葉はイトの口から出てきた。

「お風呂行きたい」

 とても、魅力的な言葉だった。


 大きな鍋を、長いホースを使って洗う。角度が悪いと水が曲がって体に掛かる。ただ、少し暑いくらいの気温だから心地が良い。

「東の方に、確かあったと思います」

 ヤオさんは、残った料理をつまみながらお風呂のありかを話してくれた。しかし、珍しく自信がなさそうだ。

「あったと思うんですが、今はあるかどうか分かりませんね。僕が子供の頃一度行っただけなので」

「ヤオさんって、子供の頃からここに来てたの?」

 炭坑夫たちの職場である城に、なぜ子供の頃に来られるのだろう。

「はい。父が炭坑夫なんですよ」

 つまり、物資の配達作業で来ていたということらしい。

「そーなんだ。じゃあラッキーだったんだね」

 イトが炭坑夫に対して好意的な感じのことを言った。

「羨ましがられているんでしょうか。まあ、そういうことにしておきましょう」

 イトは、炭坑夫を良い職業だと思っているようだった。しかし、実際の評価はあまり良くない。家に帰ることも少なければ、死亡率も高く、もちろん英雄のように思われることもあるが、家族からすれば嫌な職業だ。

「さあ、僕の話はもういいでしょう。お風呂、探しに行きましょうか!」

『おー!』

 ヤオさんが気合の入った声で言うので、自然と僕も声が出た。イトもとてもうやる気になっている。

 二日目にして早速仕事をサぼり、お風呂を探しが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る