、十一

「ここどこなの? 僕、怖いよ」

 巨大な瞳から、赤い涙が流れてる。

 その宇宙の瞳が僕とイトを交互に見た。

「クラウなんだよね?」

 イトが近づいて声をかけると、巨大な眼は瞬きをした。龍木の破片があたりに飛び散る。

「そうだよ! あれ、僕喋れてる! どうしてだろう。でも良かった、嬉しい!」

 クラウが喋るたびに地面が揺れた。

「ねえ、クラウ、何があったのか教えてくれないか?」

 僕もその瞳に近づいて聞く。しかし、クラウは質問に答えてくれなかった。

「あれ、でもみんな小さいね。どうして? あれ、どうして?」

 瞳があっちを見たりこっちを見たりしている。混乱しているのだろう。落ち着きがない。

「なんで? 一体、僕どうなってるの?」 

「ねえ、クラウ、一旦落ち着いて」

 イトが声をかけるが、瞳は動くのをやめない。

 だんだんと、不安の色が出ていくのが分かった。怯えている。

「ねえ、僕、どうなっちゃったの? おかしいよね。ねえ、お姉さんが手に持ってるの、なに?」

「別に、なんでもないよ」

 イトが朱色の傘をクラウに見えないように背中に隠した。

 巨大な宇宙の目つきが変わる。ただ、イトだけを見つめていた。およそ眉間に位置する壁にはシワが寄っている。

 まるで、睨み付けているみたいだ。

 地面が強く唸った。

「ああ、そうか。分かったぞ。なにかおかしいと思ってたんだ。僕、怪物になったんだね。それで、それでお前らが僕を、僕を殺しに来たんだな!」

 赤いゼラチンのようなものが溢れ出した。僕は地面にへたり込んでいるイトの手を引く。

「クラウはまだ生きてる! 立ち上がって!」

 イトは力なく傘を開いた。僕も一緒になって傘を支える。

「踏ん張れよ」

「……うん」

 地響きが大きくなる。空気が振動していた。しかし、急に静かになる。

 空間に、静かな泣き声がなった。

「悲しいんだ……。 僕は……」

 クラウが呟く。

「クラウ、大丈夫だよ、なんとかなる」

 しかし、僕の声は届いていなかった。


 服を顔の下半分に巻きつけてから、イトを担いで外に向かった。二人の顔に巻きつけているので、かなり窮屈だ。

 今はクラウは静かに泣いていて、なにも起きない。

 背中で、イトは思い詰めたようにどこか一点を見つめていた。

「イト、大丈夫だよ。クラウはまだ生きてるんだから。なにか答えがあるはずだよ」

 そんな言葉を喋りかけ続けるが、反応がない。

 そして無言のまま、穴の出口まで来た。が、出る直前にイトが急に背中を降りた。口を覆う服が引っ張られると思ったが、なにもない。

 イトがちゃんと口を覆っているのか見ようと、振り向いた。

 そこには、いつかの鎧を身に纏い、身の丈もある剣を手に携えたイトが立っていた。

 口を覆っていた服は剣で綺麗に切られている。顔の下半分に巻きつけていた。

「私、やってくる」

「やるって、なにをだよ」

「クラウを殺すって言ってんの」

 目に表情がない。覚悟を決めている。

「おい、本気で言ってるのか?」

「あんたのね、そういう甘いところが気に入らないの。サイモンの時もそう。私はその二の舞を踏まない」

「待てよ」

 呼び止めに応じることはなく、イトは風のようにクラウの元にかけて行った。

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