、五
ラム・シュウが席に座る。
「あれ、イトくんは虹星米が苦手なのかな」
開けられた袋が放られている様子を見ていた。
「まあ、あんまね」
ラム・シュウがホットコーヒーを一口飲んでいる。
「もう食べないんだったら、みんなで食べる? ユアンくんも、甘いのだけじゃ飽きちゃうんじゃない?」
「いや、僕はこの味しか食べられないんで。他のは苦手なんですよ」
「あー、そうなんだ。二人は?」
と、ロインとクラウを見る。
「私は今はいいです」
ロインが言う。
一方のクラウは、意外と虹星米を気に入っているようで、ラム・シュウの袖を掴み欲しがっていた。
ラム・シュウが、クラウのところに袋を持っていく。
「お、食べ盛りだね。いっぱい食べて大きくなるんだよ」
その言葉にクラウはこくりと頷き、淡々と食べ始めた。
僕が虹星米を口に運ぼうとすると、ものすごい視線を感じた。ちらりと横目でその視線の方を向くと、イトと完全に目があった。
「ねぇ、それ、もらってもいい?」
僕がなにも言わず袋をイトの方に向けると、イトは素早く手を伸ばした。
袋から出した手には、ほんのわずかな虹星米がつままれている。
口に運ぶと、
「あ、これは美味しい」
と言った。イト、よくわかってるじゃないか。
身体検査はその後すぐに行われた。地下九階の治療室で、真っ白なベットに寝かされ、いろんなコードを体に繋がれた。そのコードの先のディスプレイには、僕の体に関するデータが映し出されているが、なにがなんのことなのか分からない。
「終了しました。そのままの体勢でお待ちください」
ディスプレイから音声が流れる。そのまま横になって待っていると、体に繋がれたコードが自動的に外れ、蛇のようにうねりながら、ディスプレイの奥に帰っていった。
白いカーテンが開け放たれる。
「これで終了。あとで検査の結果を送るわ」
医務係の女性がい淡々と告げる。僕はベットから立ち上がり、外に出ていった。ラム・シュウが待っている待合室へ向かう。
ラム・シュウがまたもコーヒーを飲んで待っていた。
「どうだった。検査は?」
「コードで体全体を繋がれて、あまりいい気はしませんでした」
「だよね」
あ、ユアンくんもコーヒー飲む? と、僕の返事を待たずラム・シュウはコーヒーを取りに行った。
ここには設計図や様々な道具の試作品が置かれている。治療室というのは名ばかりで、そのほとんどは研究のため使われていた。なのでここもいつもは待合室として使われていないのだろう。
クロワッサンの歴史をミニチュアでまとめたものが飾られていた。古いものから順に見てく。ふと、僕の乗っているものより新しい型があるのに気がついた。
「あ、これはまだ完成してないの」
いきなり声がして驚り振り返ると、ロインがイトを連れてやってきていた。
「やっと終わったよ。長いし、ダレるわ」
イトが謎の言葉とともに疲れを表した。そして周りを見渡し、
「あれ、クラウはまだなの?」
と疑問を口にした。
「はい、ですけど、クラウさんももうすぐ終わりますよ。ちょっと待っててください」
そう言ってロインはまたどこかに行った。ちょうどラム・シュウがコーヒーを手にして戻ってくる。
「あれ、イトも終わったんだ。クラウは少し時間がかかってるね」
「もうすぐ終わるみたいで、ロインが迎えに行きました」
「そっか。じゃ、これどうぞ」
と、僕にコーヒーをくれた。次にイトの方を見て、
「イトも飲む? また持ってくるけど」
イトは少し考えて、答える。
「いや、いい」
と、ロインの行った方を見つめた。
僕がラム・シュウからコーヒーを受け取ったその瞬間、その中身が全て飛び出した。
一瞬、なにが起きたのか分からずしゃがみ込む。大きく足元が揺れていた。
「直ちに避難してください。作業を速やかにやめ、直ちに避難してください。繰り返します、直ちに……」
警報音が爆音でなっている。明かりは全て赤い緊急用のものに切り替わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます