、四
ドアの前で待っていた運転手の二人は、僕らを食堂に連れて来た後、ラム・シュウがいれば問題ないと言って、残っている仕事を終わらせる為にどこかに行ってしまった。
今の時間は昼食の休憩時間と少しずれていたので、人はあまりいない。もともと広い食堂なので、混む時間帯でも余裕はあるのだが。
食堂を管理する人間も見る限り二人しかおらず、閑散としていた。
「さて、なにを食べようか」
ラム・シュウが長机に並んだ様々は料理を見ながら言った。
カットされた果物、切り分けられた野菜、パンや米、カレーのルー、玉子料理が並んでいる。
この食堂はセルフサービスになっていて、ここから自由に食べ物をとってよいのだった。
「魚のあれはないの?」
イトは早速食堂を駆け回った。
「ないよ。ここらへんには魚の多い川が少ないからね」
ラム・シュウは言いながら果物を取っている。そのあと、別売で販売されている『虹星米』を買っていた。
虹星米(コウセイマイ)は、食物繊維とビタミン以外の栄養素を含んだ食品で、様々な味がある。見た目は米に似ているが全くの別物で、一度練り合わせられた食材を食べやすいようにこの形にしているようだった。
これは街でもよく売られている。、ビニールの袋に包まれているので、出先での食事に使われることが多い。しかし、僕はあまり買ったことがない。なにか、人工的な匂いがするからだ。
「お兄ちゃんはここの使い方わかるでしょ。私はイトさんとクラウさんに使い方を教えてきます」
ロインはクラウを連れてイトを追いかけにいった。
僕は一人で野菜と果物を集める。
ここでは、ほとんどの人が果物と野菜を混ぜてジュースにして飲んでいた。専用の機械が無料で使えるし、短時間でバランスの良い栄養が取れるのが好まれる理由だ。
でも僕は果物をそのまま食べるのが好きだった。
次に虹星米を選ぶ。様々な味付けのものがその味のイメージに合わせた袋に入れられて並んでいた。
おやつ感覚で食べれるものから、ステーキのような高級食を連想させる味付けまである。
僕は甘い味付けのものを持って、みんなより先に席についた。
座って待っていると、ロイン達がこっちにくるのだが、イトだけは小走りでやって来た。
「ねぇ、ユアンはコウセイマイ? 食べたことある?」
左手に紫色をしたミックスジュースを持ち、肘と脇腹に虹星米を計三袋、器用に挟んでいる。そのまま、右手で少々乱暴に椅子を引き、座りながら僕にそう聞いてくる。
「うん、あるよ」
椅子に座ると、脇に挟んだ虹星米の袋を乱暴に机に並べている。
「へー。ユアンが持ってるそれは、何味?」
そう言いながら、僕の返事を待たずに、僕の虹星米の袋を手に取る。
「コレット?」
「そう。甘い味だよ。コレットの味」
「ふーん」
そして、袋をなぜか僕に手渡すと、自分で持って来た虹星米を食べ始めた。
少し遅れて、ロインとクラウも席に着いた。イトは一口食べてからじっと目を瞑ったままだ。それに気がついたロインが
「どうかしたんですか?」
とイトに聞いた。
「これは、美味しくないねえ」
食べているのは、ハンバーグ味の虹星米のようだ。僕が思う最悪の味は、これだった。
イトは食べ途中の袋を少し端に避け、別の袋を開け、食べ始める。
「これも、おいしくないねえ」
三つの袋を全部開け、その三つを交代で少しずつ食べ、おいしくないと繰り返し繰り返し呟いていた。
どうやら、イトも虹星米自体が苦手なようだ。一通り食べると、静かにミックスジュースを飲み始めた。
ロインとクラウは虹星米を普通に食べている。
僕も袋を開け食べる。多少はマシなコレット味の虹星米だ。
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