、三
八秒後にドアが開いた。きっと、僕の時間の間隔がずれていたのだろう。
「ようこそ。手間取らせてすみませんね」
中からは四十代ぐらいの男性が出てきた。
「失礼します。さ、皆さんどうぞ」
目つきの鋭い男と若い男が部屋の中に手を差し出している。二人は部屋の中に入らないようだ。
すこし中を覗くと、書類や様々な鉱石や採掘の道具が整然と並んでいた。他の部屋とは全然違う。
ラム・シュウを先頭にして中に入り、ロインが最後に入った。中には木でできた椅子が三つと、パイプ椅子が一つある。
「どうぞ。外は散らかっていて疲れたでしょう。さあ、掛けてくれ」
「はい」
なぜか僕だけが返事をした。ロイン以外が椅子に座る。モク・ユクは部屋の奥にある大きな椅子に座り、ロインはその隣に立った。壁際の棚を探りなにかを探している。まるで秘書みたいだ。
「名乗るのが遅くなった。私がモク・ユクだ。君がユアンだね。それと、イトとクラウ、だね。ラム・シュウ」
「はい。その通りです」
ラム・シュウが言う。僕たちの保護者、といったところだろう。イトとクラウは二人はピクリと頷いた。
「早速で済まないが、色々と書いて欲しいものがあるんだ」
モク・ユクが言うと、タイミングよくロインが書類を僕らに渡した。
「お兄ちゃんと、イトさんとクラウさんの分。ここに自分の名前を書いて。そしたら、顔写真をとるの」
ロインに続けてモク・ユクが話し出す。
「君たちが行う事務的なことはそれだけだ。あとは、少し身体検査をおこなう。なに、大したことはない」
渡された書類は名前と住んでいるところを書くだけだ。あとは顔写真用の枠がある。上の方に太字で、カード発行用と書かれていた。
「私とクラウはどこに住んでるって書けばいいの?」
イトがいつもと同じ調子でモク・ユクに聞いた。
「住んでるところは、とりあえずここだ」
モク・ユクが粛々と言う。ここ、とはそのままの意味でここなのだろう。
それに対してラム・シュウが一言いう。
「モク・ユク殿、その話なんですが、実は相談がありまして」
それを聞いたモク・ユクが顎に手を当てて目を瞑った。
「なんだろうな。もしかすると、この二人を引き受けたい。なんてことを言い出すんじゃないだろうね」
目蓋を開き、ラム・シュウを見つめている。
「さすが、モク・ユク殿。なんでもお見通しでいらっしゃいますね。おっしゃる通りでございます」
「ふーん、やはりそんなことだろうと思ったよ。子供たちだけをよこすように言ったのに、君までついてくるんだもの。予想しないと言う方が無理だよ。君と言う人間を知っていればね」
口を開けながら喉を鳴らしてモク・ユクが笑っている。カラスのようだ。
「で、この二人を引き受けることは可能でしょうか?」
その笑いを制してラム・シュウがまた聞く。
モク・ユクは立ち上がり、ラム・シュウの前に行った。二人はお互いじっと睨み合うような形になった。
「もちろん、歓迎するよ。ちょうどね、引受人はまだ見つかっていなかったんだ。ぜひ、お願いしたい」
「ありがとうございます」
ラム・シュウはそう言った。ロインが喋り出す。
「では、検査後にまた手続きが発生しますので、予定よりも二日ほど長く滞在していただくことになります。ご理解をお願いします」
「大丈夫。わかってるよ」
ラム・シュウは笑って言った。
その後、写真撮影を含めても三十分もかからずに事務的な作業は終わった。
「私は、この後会議があるから、君たちだけで昼食にしなさい。では」
モク・ユクは部屋を出てどこかに去った。僕らは地下一階の食堂に行く。やっと、ご飯だ。
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