第三話 スーチライト本社

、一

 天井には白い光の電球が使われていて、外と同じように明るい。様々な観葉植物が等間隔で置かれている。

 床には、一メートル幅の溝が様々な図形の形で掘られていて、その中には水が流れ鯉が揺らいでいる。

 点々と置かれた椅子と机には様々な人が座っている。植物配線者は、やはり多い。

「ねぇ、これは食べられるの?」

 イトとクラウが、鯉が泳ぐ溝に近づいている。今にも掴み取りをしてしまいそうだ。

「食べられないよ。観賞用なんだ」

 僕はイトとクラウに教える。

「へー。見るだけか。じゃあ、これは偽物ってこと?」

「なんで。本物だよ」

「なんではこっちのセリフでしょ。なんで、観賞用なのに本物を使うの?」

「そうじゃないと意味がないから」

「ふーん。それって、意味わかんないな」

 イトはそう言って水をちゃぷちゃぷ触った。

「ま、いいや。なんか喉渇いた」

 こっちを見て言っている。自分で水を汲んでくる気はさらさらないらしい。

「持ってくるから待ってて」

「りょーかい」

 イトがだらしなく手を振った。


 壁際に飲み水が出る機械が置いてあり、そこに向かう。

 ロインも水を汲もうとついてくるが、スーチライトの社員証を読み込ませないと、ここの水は貰えない。

 なので今日来た中だと、僕かラム・シュウしかこの機械は使えない。

「ロインの分もやるからまってて」

 機械に社員証を読み込ませる。しかし、いくら待ってても出て来なかった。

 普段なら貸し出し用の木製のコップに水が入って出てくるのだが。

「あれ? この機械、壊れてるみたいだ。報告しておかないと。ロインごめん、水は別のところで買おう」

 そうして立ち去ろうとすると、ロインが機械の前に立った。

「お兄ちゃんの社員証は今回の事故のせいでデータが停止してるから、機械は壊れてない」

「え、そうなんだ」

「待ってて」

 そう言ったロインはなにかを取り出し、機械に読み込ませた。なぜか水が出てくる。

「もしかしてここの仕組み変わってるの?」

 なにか説明文がないかを探すが、なにも見当たらない。むしろ、関係者用とデカデカと書かれている。

「お兄ちゃん、私もスーチライトの社員」

 なるほど。ん? ロインも社員だって?

「え、なんで?」

 僕は思わず口にする。ロインが社員だなんて、一言も聞いてない。

「色々とあったの。それよりも、まずは水を持っていこう」

 ロインはそう言って、僕に木製のコップをどんどん渡してくる。

 全員分の水を出すと、さっさと歩いて行ってしまった。聞きたいことはいろいろあるが、しょうがなく僕もついていく。


「はー、生き返るー」

 イトがコップにいっぱいの水を一気に飲み干し、大袈裟に喜んだ。

 ラム・シュウは知り合いを見つけたらしく、談笑しているが、僕が戻ってきたのを見て話を切り上げていた。

「じゃあ、行こうか。向こうが社員用の入り口だよ」

 この広場は、展望台に向かうための一般客用の入り口と、地下に張り巡らされたスーチライトの職場に行くための社員用の入り口がある。

 社員用の入り口の前には、警備員が二人立っていた。

「こちらは関係者専用の入り口となっております」

 一人が言った。ラム・シュウが返事をする。

「ごめん、社員証だね。まっててね」

 ポケットを探っていると、警備員が目を見開いて頭を下げた。

「これはこれは、ラム・シュウ殿ではないですか。お久しぶりです。すみませんすぐに気がつかなくて。社員証はいいですよ。さあ、どうぞ」

 警備員がドアを開けた。

「気を使わなくてもいいよ」

 ラム・シュウが笑いながらドアを抜ける。僕らもそれについて行った。

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