。八
ロインの青い姿を見ていると、イトとクラウのことを思い出した。見た目がよく似ている。
「私が入れたのは青い花の配線だったみたいでね、体に青い特徴が出たんだ」
淡々と言うが、そもそも植物配線がなんなのか全く見当がつかないので、話がわからない。
「ごめん、そもそも、植物配線が食べ物なのか髪染めなのかすらわかってないんだけど」
「あ、こっちこそごめんなさい。えっと、植物配線は、アイニーパブロフが人類の生活向上を願って開発した自己増殖配線のこと」
ロインがとても早口で何かを言っていた。
「ごめん、なに言ってるのか全然わからない」
「そっか。わかった。えっと、しょくぶつはいせんは……」
「違う違う、ゆっくり言われてもわからないよ」
そういうと、ロインは慌て出した。
「なに? えっと、どういうことなの?」
青い髪の毛があっちこっちに動いている。心情とリンクしているのかもしれない。なんとなくその動きに合わせて、小型観測機を動かしてみたが、ロインはそれに気がついていなかった。
「植物配線は、体に埋め込むことで新しい能力を生み出すことができるものなんですよ」
運転手が話し出した。気がつかなかったが、ずいぶんと若い男性だ。もしかすると、僕と歳が近いかもしれない。
要領を得ない会話に救いの手を差し伸べたのか、はたまた嫌気が差したのか、軽々しい喋り方からは判断がつかない。
「新しい能力とは言っても、ユアンさんがつけている小型観測機でできる事ばかりですけどね。髪の毛を動かしたりとか、髪の毛が僅かに発光したりとか」
ロインの髪を見てみる。たしかに、僅かに青い光で出ている。
「そうなんですね。でも、それだけで流行るんですか?」
「一番の理由は、見た目の変化でしょうね。色のついた髪や瞳は、若い子達にしてみたら大きなステータスと感じるのでしょう」
運転手の男は後ろの車を一度確認した。ステータスとい言ったとき、笑っていた。
「体に植物配線の種を植え込むと、大体四時間ほどで発芽します。そして根を張るんですが、これが電波や電気信号に反応するようで、それで様々な反応が起こるわけです」
運転手の男は聞いてもいないことを喋り続けていた。それも運転手の仕事なのか、決して退屈になる内容ではなかった。
「流行ってるとは言っても、どこかで販売してるわけではありません。現状は適性のある人間だけにアイニーパブロフ社が有志で配っています」
アイニーパブロフ社は、炭坑夫なら誰でも知っている会社だ。クロワッサンの開発をしているからだ。
ただ、世間的にはゲーム販売のイメージが強いだろう。
ほかにも電化製品などを製造販売しており、災害が起きた際には自社の製品を無料で被災地に届けたりしている。
「先ほど、髪や瞳の色の変化が人気だと言いましたが、実はこの、選ばれた人間、というのも人気の秘訣のようですよ」
また、笑った。小馬鹿にしているのか、本当に楽しんでいるのかわかりづらい。
「長々とすみませんでした。私が知っている知識はこれくらいです」
運転手の男はまっすぐ前をみている。
話が終わり、ふとロインを見ると、首と肩の間あたりに双葉が生えていることに気がついた。
「首のそれ、なに?」
「これは、植物配線をすると生えてくるんだよ」
双葉を触っている。
「生えたらどうしてるの?」
「もちろん、取る。ムダ毛と一緒」
「そうなんだ」
よく見ると、まつ毛も眉毛も青みがかっていた。きっと、生える毛すべてが青いんだろう。
「今、変なこと考えた?」
「ん? 別に」
心を読み取られる。これも植物配線の力か? 平然を装い否定する。
「そっか」
納得いかない様子でまた双葉をいじり始めた。どうやら、勘が鋭かっただけらしい。
気まずさを紛らわすために景色を眺める。ここら辺にはなにもないが、遠くの空に龍木のように伸びている。
遠くの空は、龍木で覆い隠されていた。
まだ炭鉱夫が手をつけていない土地は多い。その場所はあんな風に龍木が天を覆い隠している。あれを全て開拓するのに、どれだけの年月がかかるのだろうか。
普通に生活してる人々は、未開の地に赴くことはない。これは炭鉱夫だけの特権だ。
「そういえば、ロインは炭鉱の仕事がしたいのか?」
「私、そんなこと言ったっけ?」
ロインを知らなければ、不機嫌だと勘違いしてしまうほど抑揚がない。
「いや、ただ僕がこの仕事を始めてから、よくロインが来るからさ。仕事に興味があるのかなって」
「全然違うよ。家族なら普通様子見をにくるでしょ」
さっきと同じように抑揚のない言い方だ。
意外だった。てっきり、ロインも僕のことを気味悪がっていると思っていた。
「そっか。ありがとうな」
「別に、普通のことだよ」
ロインはそう言って、首に生えた双葉を引き抜いた。
痛みはなさそうだが、皮膚に小さな穴が空いていた。中から細い根が引き摺り出されていく。
それから、車は速くも遅くもない速度で走り続けた。よく寝たはずなのに眠くなる運転だ。
ロインは隣でパソコンを打っている。キーボードを叩くその音も眠気を誘った。しかし、寝てしまうのとみんなに悪いと思い、必死に目を開けていた。
窓を少し開けて風に当たる。ロン・ダン・ガイの匂いが少しだけする。
血と食べ物の匂いだ。まだまだ街まで時間かかるが、生まれた街は遠くても感じることができる。いや、もしかしたら思い出を嗅いでいるのかもしれない。
途中、八時間の睡眠を含んだ休憩をとり、ロン・ダン・ガイに到着した。
計二十六時間。降っていた雨は止んでいた。
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