二話 植物配線
。一
強い風を受け続けている旗になった気分だ。僕らを乗せた車はそんな具合で走っている。
「頭がおかしくなったか、お前が嘘つきか、どっちだろうな」
運転手は、丸一日ほど車に乗り続けているからだろう、すごくイラついている。ずっとこんな調子で殺気立った愚痴を僕らにぶつけていた。
「それにしても奇妙なやつを連れて来たな。こんな乱暴に運転してるってのに、全然起きやしねぇ!」
もしかして、起こそうとしてわざとめちゃくちゃな運転をしているのか? しかし、なにか言う気力はなかった。
「もうすぐだ」
車の外はすでに見慣れた風景だ。僕が今住んでいる、繁栄の城の周り。
「まったくよ。いつみても、ここは寂れた城だ」
それから到着まで、誰もなにも言わなかった。
「俺はここまでお前たちを運ぶように言われてるだけだ。じゃあな」
僕たちは車から下ろされた。車は逃げるようにどこ消えて行く。ちょうど朝日が昇っていた。
「なに? あの態度!」
少女はここにつく直前に目覚めたばかりだが、早々に怒っている。髪の色も元の緑色に戻っていて服も布切れ一枚になっていた。男の子は、久々の太陽をじっと見ている。
「二人とも疲れてるだろうけど、まだ休めないよ。会社の人にいろいろ説明しに行かなきゃ」
「おーけー」
繁栄の城の中心には、ここの管理者のラム・シュウという男がいる。歳は二十代の半ばくらいで、管理者の中ではかなり若い。
直接話をしたのは配属式の時だけだ。とてもいい人だと思ったが、サイモンさんはラム・シュウのことを、信用はあるけど信頼できねぇ奴と言っていた。
「ねぇ、ユアン」
少女は、城を見て、僕を見て、男の子を見て、流れる雲を見ていた。
「なに?」
「ううん、なんでもなかった」
少女は微笑んだ表情をしていた。残り物のような笑顔だ。
なんでもないはずはない。でも、深く問いただそうとは思わなかった。きっと、なにを言われたところで、僕が答えられることなんてないと思ったからだ。
「わかった。じゃあ、行こうか」
「うん」
少女は男の子の手を握って、僕についてくる。
別に、明確な入り口があるわけじゃないが、確実に僕たちは繁栄の城に入った。
まだ、日が出てすぐの時間だが、繁栄の城の人たちは目覚めていて、各々の好きなことをしている。
朝食を作る人。洗濯を終わらせてしまう人。体操をしたり、本を読む人もいた。
僕たちが通ると、みんなちらりとこっちを見た。しかし、また普段の生活に戻っていく。
戻っていける生活があるのが羨ましい。珍しくそう感じた。きっと、いろいろあって僕は疲れているのだろう。
誰も口を開くことなく、歩き続けた。
僕らは途中、二回ほど休憩を挟み一時間ほどでラム・シュウのいる建物についた。
ここは出入りが自由だ。
「ユアン、帰還しました」
勝手にドアを開け、中に向かって言う。すると、ラム・シュウの声が聞こえてきた。
「おおー。ユアンくん、よくぞ無事に帰ってきた! って、ちょっとまってて、ああ、焦げちゃう焦げちゃう」
慌ただしい声ともに、香ばしい香りがした。その声も、香りも、普段の生活のような気がした。
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