2キレ ─ 最強の魔道士
「きみがモンティア公爵令嬢?」
今日も平和だケーキが美味しい。
と、学園の食堂で昼食後のデザートを堪能してたら。
なんか子供が話しかけてきた。
誰この子。
「れれれ、レンディウス様!」
どこかの掃除好きのおじさんか。
ビックリしすぎて、一緒に食べてた友達がどもりまくった。
レンディウス?どこかで聞いたことあるなあ。
必死で記憶を掘り起こす。んーっとたしか……
あ、たしか齢14にして世界最強の魔道士と言われてる子だ!学園に飛び級入学してきたとか。
思い出した、思い出しましたよ。
そのレンディウス君が私の顔を覗き込んでマジマジと見つめてくる。
「ふうん、王太子の婚約者というだけあって、美人ではあるね」
「それはどうも」
「でもその金髪は目がチカチカするね。僕はワリアのピンクの方が癒されるなあ」
え、そう?
金髪がチカチカするってのは、まあ人によってはそういうこともあるよね、て思うけど。
ピンクって癒しになるの?いや可愛いとは思うけど、癒しとはちょっと違うような。
私は青系の方が癒やしになると思います。
「そーへふか?それはもうしわけありまふぇん」
もうすぐ昼休み終わっちゃうからね。話長そうだから、お行儀悪いけど失礼しますよ、と。
ケーキ食べながら返事したら眉を潜められてしまった。
「下品だね、話に聞いてた通りだ。まあワリアに酷いことするような奴が上品なわけないか」
またそれか。どうしても私を悪者にしたいんだね。
「酷いこととは?」
言って紅茶を一口。うん、美味しい、幸せ!
「しらばっくれるの?ああ、人がいるからか。ちょうどいいや、みんなに聞いてもらおうよ。誰も見てないところでワリアに水ぶっかけたの君でしょ?」
「何の話ですか?」
水かけるとか定番だなあ。でもこんな真夏じゃ気持ちいいんじゃないかしら。
「……雑巾絞った汚い水だよ」
げ、それは嫌ですね。やった人はきっと性格最悪ですね。
「だから性根が腐ってるキミがやったんでしょう?」
もしくは誰かにやらせたの?
そう言って、同じテーブルに座る友人の令嬢二人をジロリと睨む。
それには流石にカチンときた。
私だけじゃなく友達まで疑うなんて!
「勝手に犯人扱いするなんて失礼でしょう?」
少し低くなった声で言ってもレンディウスはケロリとしてる。
「だって犯人だもの」
「わたくしではありませんわ」
勿論友人たちでもない。
そんなことしてる暇があるなら、みんなで楽しくケーキ食べてます!
「そもそも、わたくしがしたという証拠がございますの?」
ロールウッドなんてワリアの証言だけで私を責めてきたけれど。
こいつも同じだろうな、きっと。
「証拠なんて無いよ」
やっぱりね。思った通りの返事。
随分とアッサリ言うなあ。
「証拠も無いのにわたくしを犯人呼ばわりですか?」
「ワリアがずぶ濡れになってるとこに出くわして聞いたら、キミがやったのを見たって言ってたんだよね。それで十分でしょう?」
こいつもか。
こいつもワリア嬢の盲信者か。
呆れて言葉も出ないでいると。
「ワリアが王太子と仲いいから妬いてるんでしょ?せこいよね、キミ」
はあ!?
男爵令嬢のワリアが、公爵令嬢である私の婚約者──王太子にちょっかい出してるのは知ってるけど!
せこいって……!
「男爵令嬢のワリアさんが、王太子に気安く話しかけるなんて許されるとお思いで?」
それでも虐めなんてしませんけど!
どうにも我慢ならなくなったら、正々堂々、本人と話し合います!
「アハハ、身分差なんてくだらない!僕だって庶民出だけど、みんな頭下げてくれるよ!全ては力さ!大魔導士の僕と聖女のワリアが結ばれるのが当然なんだ!」
今は王太子が一歩リードしてるけど、必ずワリアを僕のものにしてみせる!
わ~。笑いながら大声でなんか言ってるわあ。
痛いこと言ってるわあ。
私も周りもちょっと引いてるが、レンディウスは気にする風もない。
ようやく笑いが収まったかと思うと、ニヤリと黒い笑みを向けられた。
「ワリアは将来僕のお嫁さんになるんだ。この世界最強の大魔導士である僕の、ね。だからワリアをいじめる奴は許さない」
言うが否や
ドバッシャーン!!!!!
「!?」
水が、上から降ってきたのだ。
屋内の食堂で。
何もない頭上から、突然水が降ってきたのだ!
ずぶ濡れになった状態で、私はひたすら目を白黒させていた。
どうやら友達も同様のようで、ずぶ濡れの状態で半泣きになっていた。
「あっはっは!最高!ワリアをいじめるからだ、僕のワリアを!もういっそ溺死させてあげようか!?」
レンディウスの仕業か。
もう、許さない──
ブチッと何かがキレる音がした。
「ふざけんなよ、ガキが……」
レンディウスにしか聞こえないくらい小さく呟いて。
私はゆらりと立ち上がり、右手を頭上にかざした!
「──!?な、なんだこれは!?」
直後、視界が一変する。
私とレンディウスは何もない真っ暗な空間に居たのだ。真っ暗でお互いの姿だけが見える不思議な空間に。
私がやったのだ。
「空間転移魔法です」
「空間転移!?」
「それも、普通に場所を移動するわけではありません。ここは──そうですね、亜空間と言えば分かりますか?」
「馬鹿な!」
叫ぶのも無理はない。だって空間転移魔法なんて
「空間転移魔法なんて超高等魔法じゃないか!僕でもまだ使えないっていうのに!!」
ということだ。
そう、超高等魔法。
「でも使えちゃうんですよね~」
「なぜお前みたいなのが!」
ただの女だろ!?
焦った顔、面白~い。さっきまでの自意識過剰なまでの偉そうな態度はどこいったんですかね。
「さあ?まあクソガキよりは確実に魔力が高いってことだろうね」
「はあ!?」
突如口調が変わった私に驚愕の目を向けるが、構わず続ける。
「よくもまあ、有りもしない事で人を悪人扱い出来たもんだな。え、おい?」
「な……な……」
「見ろよ、このずぶ濡れの姿を。あたしこれでも公爵令嬢なんだけど。ワリアなんて小娘、どぉーでもいいんだよね、ほんと」
「え、あ……」
「おまけに、何あたしの大事な友達までずぶ濡れにしてくれちゃってるわけ?お前何様なの?え?何様なわけ?」
「あ……ぼ、僕……」
私の迫力に押されてか。
ようやく私の実力に気付いてか。
ブルブルと震えだしたレンディウスの目には涙が浮かんでいた。
「こっちは平和に楽しく学生生活送ってんだよ!いちいち下らない事で邪魔すんじゃねーよ!!」
「ひいい、ごめんなさいー!」
レンディウスは完全に泣き出して、その場にへたり込んでしまった。
「なっさけな」
吐き捨てるように言って、私は手をかざす。
ブンっと真っ暗な空間に切れ目が入る。
その切れ目をめくると、先ほどの食堂が見えた。向こうからはコチラが見えてないようだけど。
「ま、待ってよ!僕を置いてくの!?」
焦った声が追いかけてくるが、冷たい目を私は向ける。
「当然でしょ?あんたお偉い大魔導士様なんだろ?自分で戻れよ」
「そんな!僕、まだ空間転移なんて出来ないんだってば!」
「知るか」
お前が悪い。私に喧嘩売ったお前が悪い。
そう言い捨てて。
私はその場を後にした。
何か叫んでたようだけど、ほんと知るか。
「へ~そんな事があったんだ。酷いやつだね」
「ええ、本当に!」
今日も楽しくラルフ王子と放課後お茶会だ。
今日の出来事を話したら、私が水をかけられたあたりから苛立っていたようだ。
でも最後まで話すと満足してくれたようで。
「レンディウスはねえ……下手に実力があるから幼い頃からチヤホヤされすぎたんだよね。自分より上がいると分かったなら、少しは態度も改まるんじゃないかなあ」
「だといいですけど」
「で、いつ頃出してあげるの?」
レンディウスが自力で脱出できるとは欠片も思ってないラルフ王子に問われて。
さてどうしようかなと考える。
「あの亜空間では食べ物も飲み物も要りませんからね。体の時が止まるんです」
「へえ、年を取らないんだ、いいね!」
「あの暗闇に一生居ないと駄目ですけど」
「あ、それは嫌だな」
レンディウスも可哀そうに。
全然そう思ってないだろう笑顔でラルフ王子は言う。
ま、そうですね。1週間も居ればさすがに己の愚かさを自覚することでしょう。
「彼もまさかモンティアが自分より格上の、実は世界一の魔力持ちとは思わなかっただろうね」
「まあ隠してますから」
幼い頃はなぜそんな凄い力が自分に有るのか分からなかったけれど、授かった力はありがたく頂いておこうと思った。
剣術と魔術の力を磨いて。
将来は──
「この力は本来はラルフのために有るんです。何があっても一生私がお守りしますわ」
「それは困る」
そんな返答が来るとは思わなかったので戸惑っていると、ギュッと手を握られた。
「実力は及ばないかもしれないが……キミに守られるだけの情けない奴にしないでおくれ。僕もキミを一生守りたいと思ってるのだから」
「ラルフ……」
今日も今日とて甘い時間が過ぎていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます