3

「そうか……」


 蓮はとても悔しそうだった。もしかするとこの時、私以上に悔しがっていたのかもしれない。



 そのあと、しばらくは私の怪我のこと以外の話が続いた。食事も運ばれてきて、それを口に入れながら、会話は進行する。



 料理も食べ終えて落ちついたところで、私は気になっていたことを切り出すことにした。


「なあ、蓮」


「うん、どうした?」


 蓮が何食わぬ表情で聞き返してくる。


「今日、お前が俺を呼んだ本当の理由は何かな?」


 蓮の表情が先程よりも落ち着いた顔をしている。彼は息を整える仕草をしてから質問に答えはじめた。


「おまえ、さっきも言っていたけどもう無茶がきかなくなったんだろ。つまりは、マジシャンの仕事がもうできないってことだろ。合ってるよな?」


 この時、私の表情が少しだけ崩れた気がする。それでも、この現実を受け入れなければいけないことも知っている。私は彼の言葉に頷くことしかできなかった。


「…… おまえが魔法を何よりも大事にしているのはわかるし、それが思うようにできなくなったのはとても苦しいと思う。だからこそ、俺はこれを伝えにおまえと会うことにした」


 そう言って蓮はバックの中から一冊のパンフレットを取り出して、私の目の前に置いた。読んでみると、これから近所で開講するという魔法教室の宣伝用パンフレットで、裏面には大きく、講師募集と書かれていた。


 この世界で魔法を仕事で使うには魔法免許をはじめとする様々な資格が必要だが、趣味で魔法を覚えたいという人間も一定数はいて、そういった人々の需要に応えるために、簡単な魔法を教える教室が世界中に存在している。


「おまえに合ってると思うぜ。その仕事」


 優しい表情をして、蓮はこう言った。私は思わず、


「……ありがとな」


 と言って、涙を流してしまった。


 私にもまだ何かできるはずだ。そう思って、私はパンフレットに記された募集要項を確かめた。

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