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一ヶ月後、私は例の教室の前にいた。履歴書の作成と、体のリハビリでまたしても想定外に時間がかかってしまったが、幸い開講まであと二ヶ月はあったので講師の募集は続いていた。
私は改めて覚悟を決め、教室の扉を開けた。
「失礼します……」
中に入ると、まだ内装は完成しておらず、無機質の壁と教材などが入ってると思われる段ボールの山や組み立て前の長机、袋を出ていないパイプ椅子などが乱雑に置かれているだけだった。
「あ、すみません。今、行きます」
奥から女性の声が聞こえた。私はその場で待つことにして、改めてパンフレットを読んでみる。代表の紹介欄を確認すると、代表の山内穂花はもともとマジシャンだそうだった。魔法を使った教育に興味を抱いたから、この教室を開くことを決めたのだという。
パンフレットを読んでいるうちに奥から物音がした。そちらに目をやると、女性が出てきていた。見る限り三十代くらいの若々しい人で、身嗜みも整ってはいたが表情は少し疲れている様にも思えた。パンフレットにあった代表の顔写真と見比べると目の前の女性は教室の代表、山内さんで間違いなかった。
「はじめまして。代表の山内です」
山内さんがにこやかな顔つきで先に挨拶をしてくれた。私も挨拶をしようとする。
「……藤原です。よろしく、お願いします」
少しぎこちない返しになってしまった。それでも、山内さんは明るく、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と返してくれた。
山内さんの案内で私は奥へと通された。奥の個室へ入ると、部屋には机が二つだけ、対面で置いてあり、一方の机の上には資料が山積していた。おそらく、資料が積まれている方が山内さんのデスクだ。案の定、彼女がそのデスクに座る。彼女はジェスチャーでもう一方の机に座ってくださいと私に求めた。遠慮無く私は彼女の対面の机に座った。
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