7
「この事故の影響で渋滞が起きているみたいで、到着までに三十分はかかるそうです…… 」
「そんな…… 」
咲也が唖然とする。彼はそれでもすぐに今の状況を整理しはじめた。負傷者は全部で五名。内の四人は救急車が到着する三十分以上は持ち堪えられる程度の怪我だが、一人は三十分以内に処置をしないと命に関わる状況になっていた。
咲也は手立てを考える。時間はない。どうすれば、どうすれば良い。彼は悩んだ。そして一つの手立てを見つけた。迷っている余裕はない。後で何を言われようと、自分を信じるしかない。彼は医師生活をここで終えてでも目の前の命を助ける覚悟をした。
「頼む。生きてくれ」
咲也はそう呟いて両腕で魔法陣を作り出し、それを重態の負傷者に向けてから魔術を発動した。すると、負傷者は時間が止まったかの様に不自然に静止した。
「何をしたんですか…… 」
見ていた通行人の一人が咲也に尋ねた。彼は複雑な表情を浮かべて答えた。
「…… この方の時間を一時的に止めました。そうしないと……、助からなかったのです」
その後、三十分程で救急車が到着し事故の負傷者は全員、命は助かった。だが、重傷者を助けるに当たって咲也が使った、時間を一時的に止める魔法がやはり時間を操ってしまうという倫理的理由で、世論で賛否両論となり彼は務めていた病院を辞めるまでに至った。そして、現在は隠れるように生きている。
「あれで、良かったんだ」
咲也は自宅にてテレビで流れる自らが起こした問題を報じているニュースを見て自分に言い聞かせる様に一言呟いた。あの時の患者にとって自らが使った魔術が、救済魔術であったことを願って咲也はテレビを消した。
それからしばらくの時が過ぎたある日だった。咲也の家のインターホンが鳴った。彼はすぐに玄関に向かい扉を開けた。するとそこには一人の女性が泣きそうな顔を浮かべて立っていた。
「あの……、どちら様でしょうか? 」
「あの時、助けてもらった者の妻です。やっと、会えた」
女性の表情は更に泣き崩れた。彼はすぐに状況を理解して、彼女を家に入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます