6

「患者が死ぬまでは諦めるなよ。それが医者として、目の前の命を扱う仕事をするのに持つべき心得なんじゃないのか」


「……」


 咲也は朱美に問いただした。朱美は少し考えるような仕草をして、一息ついた。


「そうよね。それが私たちにできることよね」


 朱美の言葉に咲也も同調した。


「ありがとう。話に乗ってくれて」


 缶コーヒーを飲んだ朱美が言った。


「いえいえ。こちらこそ、なんか吹っ切れた」


 咲也はこう返した。そして、彼の表情はとても晴れやかだった。



 それから数日後のこと。咲也は非番で、買い物に行くために外を歩いている。彼は綺麗な並木道を歩いていると、どこからか衝突音のような音が聞こえてきた。


「なんだ? 」


 そう言って、彼は音がしたと思われる方向へ全力で駆け出した。並木道を直感を頼りに疾走する。そして、疾走の果てにたどり着いた先には、衝突して大破した二台の車が十字路の真ん中に残されていて、車の中にはまだ人がいた。


「大丈夫ですか! 」


 様子を見た咲也は急いで車の元へと駆け寄る。それに続いて、何人かの通行人も付いて行った。


 咲也や通行人たちは巻き込まれた、運転手は同伴者たちの状況を確かめる。


「これはひどいな」


 咲也が呟く。


「私は医師です。すぐに一一九番通報をお願いします」


 咲也が通行人たちに指示をする。彼らの一人がすぐに電話をかけた。その間に咲也たちの手で、車から降ろせそうな怪我人を外へと降ろして横たわられた。


 咲也が急いで容態を確認する。


「どうですか? 」


 手を貸してくれた通行人の一人が切迫した表情で咲也に尋ねる。少し考えてから、重い顔つきで咲也は答えた。


「直ぐに処置をしないと命に関わります」


「そんな…… 」


「すみません。救急車はまだですか? 」


 咲也が大声で周囲に聞く。この世界ではいくら瞬間移動できる魔法が存在していても緊急処置や病院側の受け入れ準備を整えるためにどうしても救急車が必要なのだ。


「それが…… 」


 先ほど電話をかけてくれた人が申し訳なさそうな顔をして返事をする。


「どうしたのですか? 」


 咲也は聞き返した。

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